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ロスト  作者: 林 晄史
劇場
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劇場

 洞窟内は今日も静かにシズクの手により、解析が進んでいた。


「……これは?」


 ロスト最初の日と言う名の不可解なデータにたどり着く。


「……」


 あからさまな罠と推察したシズクは眉をひそめる。


「……とっくに覚悟の上よ」


 ここが虚偽の可能性の方が高い。

だがやるしかないのだ。


 データが展開されていく。




 血が視界をおおいつくす。

圧倒的な暴力の前に、地も空さえも血で塗りたくられてしまったと錯覚する。


 限界をとっくに超え、なおも血飛沫を増やし、それに酔う。


 正常ではいられない。狂気すら生温い。

どんな手段を用いても生還したい。


 ただ帰りたいのだ、あの場所に。咆哮が響く。


 誰が誰で何が何か、どうでもいい。

全員が俺1人に殺意を向けて、憎悪の限りを込めて攻撃してくる。


 空からタールが撒かれ、どこからか引火し、爆炎が渦巻く。


 力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい。


 盾にし武器とし時に腹を満たした、死体どもが跡形もなく消えた。

摂氏何千度だかに至る火力の前に、誰しも原形は留めておけない。


 だが俺は確かに存在する。何者をも俺を消し飛ばせはしない。

力を手にしたのだ、俺は。


「ふはは……」


 笑いが溢れる。

全身を戦いの痕跡が、これでもかと刻んでいるのに。


「ははははははっ!!」


 哄笑が戦場を飛び歩いた。

高揚感、全能感に心身を貫かれて射幸心に満ちる。


「ここが俺の場所だ」


 ここを支配し奪い壊し尽くしてやる。

俺の帰る場所を奪った報いを受けさせてやる。


「ぐるあああああああああっ!!!」


 男は獣の咆哮を上げた。

血が乾き黒々とした全身を震わせ続けて。




 収束されていくデータを丁寧に仕分けしながら、保存していく。

強い感情を見せ付けられた事で、シズクの感情も毒された。


 それを受け入れ、1つ1つ精査し感情を浄化していく。


 しばらくして、ようやく人心地がつき、吐息を細長く出し切る。

少し湿気があるものの冷たい洞窟の空気が、シズクの中に入っていく。


「……だから何だって話。絶対にここは壊す」


 力を求めてここに来た。必ずつかみとる必要がある。

だがその成否を問わず、ロストは破壊しなければならない。


「その通りだな」


 振り返るとコウがいた。


「……力を得るという事は甘美な魅力があった」


「力は人の数だけ描ける理想だろうな」


「……それは必要よ。だけどロストは必要ない」


「好き勝手されて得た力は……いや、簡潔に言うと」


「「ロストは気に入らない」」


 シズクとコウは笑いあった。

洞窟の中に反響して、その都度、力強く響き合う。


 このロストはあまりにも勝手な世界。

人の記憶を奪い、争わせる。


 そしてそれは、この記録にある男の身勝手さに、強制的に付き合わされているに過ぎないのだった。


「ふんっ、あの男を殺す。それだけの事だろう」


 セッキが傲然と言い放つ。


「……日時が不明のデータだけど」


「いる確信がある」


 シズクあるところセッキあり、コウあるところリンあり。


「……はぁ、どうしてこの男なのかしら」


 シズクが半眼で見つめると、セッキは傲然と胸を張る。


「土産あるぞーっ!!」


 シンが大声をあげ戻ってくる。


 熊が三頭ほど片手に持ち上げられている。

衝撃変換って魔法? そう思うほど、小柄なシンには不釣り合いな姿だった。

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