取調
「力を与える。楽しませてみせよ」
黒髪の男が薄ら寒い笑みを浮かべた。
コウは目を閉じ静かに受け入れた。
世界が伸縮する度に爆ぜる。
その速さも急変が激しく理解できない。
心身が掻き回され、吐き気と心の高鳴りが同時に感じる。
死んでは生まれ……幾星霜。赤子から老い死に行くまで丁寧に刹那に。
世界が色を無くしていく、思考が緩やかになっていく。
やがて無色な世界で思考も停止するのだろう。
コウはそれを疑うこと無く受け入れていった。
「お主の心の世界を見せてみよ」
コウ以外、誰もいなくなった。
視界の隅々まで美しい桜に包まれていく。
そして親娘を幻視した。
コウは絶叫し、頭を掻きむしった。黒髪と親娘が散った。
「……おはよう」
目を開くと声がした……って、シズクの声か。
「ありがとう。手間をかけた」
コウは心が安らぐのを感じながら、身を起こした。
「……2度とごめんよ」
シズクは何かを取り外しながら、強く答えた。
「努力する」
コウは正座して、手をきちんとおいて目を見て話した。
シズクが吹き出し、つられてコウも笑った。
「シズク、リンを迎えに行ってくる」
武装しながらコウは告げた。シズクが無言で投げてくる。
「……痛み止め。気をつけて」
「すぐ戻る」
コウが消え、洞窟はまた静かになった。
音もなくシズクは吐息をはいた。
リンが大男をボコっていた。
シンは巨大なハンマーを振り回している。
コウは何となく所在なさげに佇んでしまった。
コウをボコったのはあいつだ。
ボコられた大男をボコってしまうリン。
不甲斐ないというか何というか……コウはループする思考にドツボにはまった。
思わず蹲ってしまう。
だって男の子だもん、面目あるもん。
「リン、敵討ちしてくれたんだな」
何事もなかったようにコウは語った。
「コウっ!!」
リンが飛びついてくる。
ぎゅーっと離さない。
コウも優しく抱き返す。
「とりあえず洞窟に戻ろうか」
シンと大男を踏み潰し、リンを姫抱っこして空間移動。
一瞬でシズクが眼前に現れた。
「……相変わらずね」
「男を抱く趣味はないからな」
シズクは何故か、半眼で睨んできた。
「……こんなもんでしょう」
大男はベッドに寝かせつけられている。
優しくふかふかのお布団で誰もがすやすや安眠できる素晴らしいベッドだ。
大男は2度ベットで死にかけた。
このベッドは決して逃れられない拘束具なのだ。
許可なく起き上がろうとすると、心臓を止められ蘇生される。
あるいは想像を絶する幻覚を見せさせる。
そのものの深層心理を反映させるようで、大男は幻覚で死んだ。
「……気楽にしていれば良いのよ、大男さん」
シズクの言葉に大男がビクリと震える。
「……洗いざらい吐けば起きれる」
シズクは優雅にコーヒーを飲むと言い放った。
「……あなたの自由よ」
大男は洗いざらい吐いたのは、さらに自害など含め5度、死んだ後だった。




