敗北
第2部
コウは右半身を砕かれ地に伏した。
地面を盛大に粉砕する音が遅れて耳に届く。
あまりの痛みと想像を超える攻撃方法に、理解が追いつかない。
やつはこちらを一瞥もせず、次へと向かって歩いていった。
悠然と進むやつの姿は威風堂々。
確かに今のコウでは相手にならない。
空間移動を使うにはある程度の集中が必要。
心身を集中させると、それに比例して痛みが追いついてくる。
長針で余すところなく貫かれ、えぐり続けられている感じが近いだろうか。
「心臓と脳、首が無事だったのは救いだな」
痛みと集中に折り合いをつけながら、ぼやきと血を吐き出す。
全身から汗と右半身から血が絶え間なく流れる。
死が近くなるが、生を感じさせもする。渇望する力にたどり着けそうな……。
月が途方もなく大きく感じた。
満月を過ぎ、少しかけている。雲1つない空に輝く月。
月が輝きを増し、大きさを増していく。
痛みに克ち、集中が増していく。
ふわっと股間が少し寒く感じる程度の浮遊感のあと、何度目かの洞窟に戻った。
シズクの顔がのぞいた。
話そうとしたら血がのどに詰まり邪魔をした。コウは意識を手放した。
「……ヒールは万能じゃないのよ」
シズクは淡い光を当て続けながらつぶやいた。
聴く人はいない。吐息を音もなくさせる。
コウの半身は少しずつだが復元している。
ヒールはシズク特有の力。
指定範囲の復元。対象は機械、人、自然何でも可能。条件は仕組みを知っていること。
押し潰されていようと、はみ出していようと、指定範囲の中に収める事ができれば復元する。
「……能力は力を消費しない。本当かしら?」
目に見える範囲、自覚できる感覚、どちらも何も影響はない。
だが何の代償もなしに、力が際限なく使えるとは思えない。
使わざるを得ないのだから詮無き事だが、覚悟は必要だろう。
「……今この瞬間に死が訪れても不思議はない」
コウの状態を見る。
見た限りでは復元はすんでいるが、何か数値化できるものがほしい。
瞬間、計測機器が出現した。
ワイヤレスにコウの前身を数カ所パッチが貼り付く。
シズクの耳と目にだけ、計測機器が発する音とモニターが伝わる。
脈拍は安定しているようだ。
シズクは一息ついたと安心すると、強烈な脱力感に包まれた。
そのまま身を任せ目を閉じた眠りについた。




