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ロスト  作者: 林 晄史
始まり
1/25

無形

「ここはロスト。夢を粉々に砕かれた者が招かれる場所。

私はこの村の案内人のリン。とはいえ君次第だ」


 リンは静かに語った。

青い瞳の奥は見る者を貫く意志があった。


「夢、随分と漠然とした対象だな。

俺の名前はコウ。あとは覚えているのは、ここに座っていることだけなんだ」


 木製のベンチをなでる。

ざらりと乾いた触感から感覚が蘇る。


 満開の桜が咲き誇り人影はない。


 漆黒の夜に月が鮮やかに浮かぶ。

心地良さに包まれ、このままでも良いかな……なんて、まぶたを下ろした。


「立ち止まるのも1つの道」


 春風が長い金髪を揺らした。


「コウの心に添い遂げたならば」


 柔らかにリンがささやいた。


「心に添い遂げれたやつが来る場所とは思えないが?」


 強く青い目を貫き返した。

静かに頷きが戻る。


 くちびるが切れて血がたれた。

否定の激情と確かな納得が心で波打った。


「そう……かよ」


 吐息と垂れた視線の先に見慣れたズボンと革靴。

喪失していく思考と感覚の中で、リンの言葉が閃く。


 視線を上げると、そこには誰もいなかった。

安心と寂しさが入り混じり、諦めに落ち着いていく。


 月がぴかぴか。思わず目を凝らす。なお輝く。


「この地は心の影響を強く受ける」


 声が心を貫いた。

先ほどと変わらぬ場所にリンはいた。


「死地、空地、生地……」


 リンの声音に応じて、場が変化していく。

この地と心身が赤黒く染め上がり、止まり、煌めいた。


「いずれも受け入れる事を確約する」


 その眼差しは容赦なく突き刺さる。


 世界が伸縮する度に爆ぜる。

その速さも急変が激しく理解できない。


 心身が掻き回され、吐き気と心の高鳴りが同時に感じる。

死んでは生まれ……幾星霜。


 赤子から老い死に行くまで丁寧に刹那に繰り返された。


「よく分かった」


 コウは澄み通る声が自分の中から出た事に驚く。

桜と月とリンが変わらずにあった。


 髪をくしゃりとすると白髪が数本舞った。


「これは変えれるのかな?」


 笑って問うと、首を水平に美しく振られた。


 立ち上がり手を振り、一歩をかみしめていく。

金髪のぴったり前で止まる。


 胸のあたりまでの小さい女。

その眼差しは胸を貫いたままだ。


 コウはくるりと振り返った。

ベンチに差しかけられた傘のように、桜が優しく揺れていた。


「ありがとう」


 言葉につられて、ほほを伝う涙が温かく、さらにとめどなく川のように重なっていく。


 煌びやかさを増す視界と心を満たす何か。

ロストと呼ばれるこの地で、俺は何をするのか。


 形は無く、今はただ無様に泣いた。

ゆるゆる描いていきます。

宜しくお願いします。


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