第8話 お手紙を送るみたいです
翌日、俺はルーラリアと一緒に近くのカガン村にある手紙屋に来ていた。カガン村は小さくはあるが、大抵のものは揃っている。手紙屋もそのうちの一つだ。
この世界は、電話やメールなんて現代的なものは無く、遠くの人に連絡を取る場合、手紙を書いて手紙屋に依頼して送ってもらうのが一般的だ。
「・・・じゃあこれをお願いするわね」
「分かりました~」
ルーラリアは、着くと同時に受付に手紙を依頼していた。
「それにしても、もう店番をしているのね。偉いわ」
「いやぁ~それほどでも」
受付にいたのは、サーシャ。手紙屋の娘で、確か今年で12歳になったはずだ。この世界では14歳が成人として仕事に就くのだ。
「まだ成人じゃないですけど、お父さんとお母さんの仕事を小さいころから見ていたから、問題ないですよ」
サーシャは言葉遣いが年相応だと思うが、見た目はかなり大人びている。髪は黒くポニーテールで後ろにまとめてあり、清楚感がある。
「・・・ウフフッ、私の顔に何かついているのかしら?ルークス君」
「えっ・・・あっ・・・いや、何でもないです」
「あらそう?まぁいいわ」
ヤバかったな。あまり人をジロジロ見ないようにしよう。
「ところで、ルーラリアさん。お届け先は、ウェントワースの魔法研究所で間違いないですか?」
魔法研究所。文字通り魔法を研究する場所
「間違いないわ。宛名はマライア・カイマールでお願い」
「分かりました~」
「これで、いいわね。ルークスお買い物に行きましょ」
「うん」
そう言って、ルークスとルーラリアは手紙屋を後にした。
「ところでママ。何で魔法研究所にお手紙を出したの?」
「あら?言ってなかったかしら。あなたの先生を頼める人がいないかを聞こうと思ってね」
「先生?」
「えぇそうよ魔法の先生をね」
「魔法の先生?それならママが教えてよ。ママは魔法が得意なんでしょ?」
「そうしたいのだけれど、私じゃダメらしいのよ」
「あっ・・・」
そう言えば忘れていた。ルーラリアは魔法の知識は豊富だ。でも魔法の話になると、かなり熱が入ってしばらくすると軽い演説じみた話になって、内容が頭に入ってこない。
「こればかりは仕方ないわね。自分でも分かってはいるのだけれど」
「ア、アハハ・・・」
「それより、買い物早く済ませて帰りましょ」
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5日後
「フロヴァルトさーん。ルーラリア・エル・フロヴァルトさーん。お手紙が届いてますよー」
手紙を出してから5日が経った日、サーシャが手紙を届けに家に来た。
「ありがとう、サーシャちゃん」
「いえいえ、では失礼しまーす」
サーシャは次の配達先へと向かって行った。
ルーラリアは受け取った手紙を開けて、内容を確認している。よく見ると、手紙の他に写真が1枚同封されていて、そこには1人の女性が写っていた。暫くするとルーラリアは深くため息をついた。
「もう、誰でもいいとは書いたけど、何も貴女が来ることないのに」
「どうかしたの?」
「いいえ、何でもないわ」
「ところでこの写真」
そう言って、写真を確認した。見た限りだとあまりパッとしない顔つきをしている。
まるでテスト前日に徹夜して、そのまま学校に来てしまったような寝不足顔をしているな。写真写りが悪いのかもしれないが。
「えぇ・・・多分そうよ?」
多分?何故疑問形なんだ?手紙の内容を読んでいる限り、知り合いだと思っていたんだが違ったのか?
「じゃあこの人が魔法の先生・・・」
「そうね。楽しみね」
「うん!」
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3日後
あれから3日が経った早朝、俺はジークスと家の近くの湖で鍛錬をしている。と言っても、そんなにハードなものじゃ無い。
この前のピクニックの時のように、あまり過度なトレーニングをすると疲れてしまうのだ。
いくら内面が成長していても、身体は急速に成長する事は出来ない。これはある意味、転生ゆえの初期的な制限なのだ。甘んじて受け入れるしかない。
「ハァ・・・ハァ・・・これなら魔法適正より先に身体能力的なスキルが欲しかったな」
「む?何か言ったか?」
「いや、何でもないよパパ。早くトレーニングの続きしようよ。僕も早く強くなってパパみたいになりたいもん!」
「おぉ!そうかそうか、パパみたいになりたいか!ハッハッハッハッ!」
そうして、しばらくトレーニングしているとクレイルさんがやってきた。
「ジークス様」
「ん?あぁ、ルークス。今日のトレーニングはここまでだ」
「はーい」
クレイルさんが、ここにやって来る目的は基本的に1つしかない。
それは、朝食の準備が出来た時だ。
「それと、ルークス様にお客様がお見えですので、朝食前にお身体を綺麗にする様にと」
「ん?僕に?いったい誰だろう?」
まぁ、最近の出来事で俺に用事があるとしたらアレしかないだろうな。
ついに、俺も魔法が使える時が来たのか・・・。そう考えると自然とワクワクして仕方が無かった。