第7話 帰り道
「う、う~ん・・・」
「ん?目が覚めたか。ルークス」
目が覚めると、馬車の中で顔が夕日に照らされていた。頭を上げて窓から外の風景を眺めてみる。既に町の近くの森にまで来ていた。
「僕、どれくらい寝ていたの?」
「そうね、4,5時間くらいかしら」
「そうなんだ。もっと遊びたかったな~」
ルークスは、そう言いながら窓の外を見た。景色は先ほどとは違い、木や草が生い茂っていた。
ここは、静寂の森と言われている。文字通り、モンスターや魔物はおらず静寂が森を支配している。
王国の冒険者たちが定期的に、この森を巡回しているおかげで、この森を住処とする物好きなモンスターはほとんどいないらしい。
いないといってもゼロではないが、基本、故意的に人に危害を加える事は無い。
「ルークスちゃん。寝ている時ずいぶん魘されていたようだけど。大丈夫?」
ミレイがそう言うと、心配そうにルークスの顔を覗き込んでいた。
「う、うん。ちょっと変な夢を見ただけだから大丈夫だよ。心配してくれてありがとうミレイお姉ちゃん」
悪い夢かと聞かれたら、結果だけ考えればそんな事無いのだが、結果までの経過があまり良い出来事とは言えなかった。
そこで、俺は神様の言っていた言葉の一つをを思い出した。
『フッフッフッ!それはね、スキルを好きなだけ付けてあげるんだよ』
神様は確かに"好きなだけ"スキルを付けてくれると言っていた。と言うことは、今後も同じように夢に出てきてスキルを付けてくれる・・・はず。
それは、かなりうれしい知らせだった。当初は一つだけだったものが、いくつでも付けられるということになった訳で、俺としては願ってもない事だ。
ランダムという制約があるにしても、これはうれしい。
そう考えているうちに、すっかり陽が落ちて月明かりが辺りを薄暗く照らしていた。
「・・・あれは・・・ちょっと、止めてください」
しばらく進んでいると、ルーラリアが突然馬車を止めるように促した。そして、馬車を降りて近くの草むらに消えていった。一体どうしたというのだろう。
少し待つと、ルーラリアが何かを持って戻ってきた。
「ママ、それは何?」
「フフッ、これはね・・・」
「それは、マジックフラワーか」
「・・・」
「あっ、す・・・すまん」
「・・・これはね、マジックフラワーと言うのよ」
「へ、へぇ~」
ルーラリアはジークスが話に割って入ってきたことを無視して、持っている花の名前を教えてくれた。
「・・・ふつうの、お花ですね」
「違うのよ、ミレイ。これはね、一見普通の花に見えるけど、こうやって魔力を込めると・・・」
そう言って、ルーラリアは目を閉じて花を両手で軽く握った。すると、花は綺麗に蒼く輝きだした。
「綺麗・・・」
「こうやって、魔力を込めると花が魔力の属性によって光るのよ。今は魔法結晶があるから、あまり知名度はないけれど、昔はこの花を使って魔法が使えるのかを調べていたのよ」
「そうなんですね!私もやってみたいです!」
「そう言えば、ミレイは魔法適正を見ていなかったわね。はい」
ルーラリアは、ミレイに花を渡した。そして、ミレイも同じように目を閉じて花を軽く握った。すると、先ほどとは違い、薄暗くはあるが赤く光りだした。
「・・・ミレイは、ちょっと弱いけど火属性の魔法が使えるかもしれないわね。私は水属性の魔法が使えるから蒼く光ったのよ」
「本当ですか!私にも魔法が!?」
「ウフフッ、マジックフラワーは嘘はつかないわ」
そう言われてミレイは、目をキラキラ輝かせて軽く飛び跳ねた。
話を聞く限り、このマジックフラワーは所謂、魔力測定器みたいなものらしい。花に魔力を送ると本人の魔法適正と適応属性を可視化させてくれる代物のようだ。
「さぁ、ルークスも試してみなさい」
「ぼ、僕も?」
「えぇ、その為に持ってきたのだから」
「でも、魔力ってどうすれば・・・」
俺は転生してきたのだ。魔力を流すといわれても、やり方など全然わからない。
「大丈夫、簡単よ。ルークス手を出して」
「う、うん」
俺は言われるままに手をルーラリアに差し出した。ルーラリアがルークスの手を握り、目を閉じた。すると、ルーラリアから何か温かいものが流れてくるような感覚がした。
暫くすると、流れが全身まで達した。
「ルークス分かる?これが魔力の流れよ」
「これが・・・」
魔力の流れというものは、不思議な感覚だった。正直、血が熱くなったような感覚がして少し逆上せた様に頭がクラクラした。
「分かったかしら?じゃあ、ミレイ。ルークスに花を渡してくれる?」
そう言われて、ミレイはルークスに花を差し出した。俺はそれを受け取り、花を見つめた。
「緊張しなくてもいいわ。さっきの感覚を思い出して魔力を流してみるの」
「う、うん。わかった。やってみるよ」
俺は、少し躊躇いながらも花を軽く握り、目を閉じて、さっきの感覚を思い出してみる。
(確か、血液が全身を巡っているような感覚を・・・)
「「・・・」」
「・・・これはっ」
目を閉じているせいか、みんなの反応が薄く感じてしまう。俺は不安になり目を開けた。
すると、花は蒼くも赤くも光っていなかった。
虹色に輝いていた。
投稿して、まだ数話しか経っていませんが、読者の方に『面白い』とコメントを頂けて、とても感謝・感激しています!
見切り発車で始めた小説ですが、これからも気長に読んでいただけると嬉しいです。