公平なる審判――通称ジャンケン
二人の少年が今、公園に1つしかないブランコの座を賭けて拳を振り上げる。
決して殴り合いの喧嘩ではない。
公正なる審判で空中闊歩に乗る順番を決める歴とした正道だ。
「準備は、いいか?」
「ああ、万端だ」
いざ尋常に勝負! そんな声が聞こえるかのように二人の幼子は構えを作る。
一人の少年は拳を腰の位置に移動させ、鏃を引き絞るように体を限界まで捻り弓を彷彿とさせる構え――弓総卍天の構えを創り。
もう一人の少年は拳を高々と振り上げ、天より生まれし破滅の象徴、隕石を彷彿とさる構え――破焉臨天の構えを創る。
二人の必殺の構えを生で見れると聞けば、500円払ってでも見たいという小学生が大勢集まるに違いない。
それほどまでの奥の手を二人は切ったのだ。空中闊歩のために。
じりっ、じりじりと徐々に、しかし、確実に相手に迫る公正なる審判の師範代の両雄。
勝敗は35勝35敗。正に五分。
互いに両眼を睨め付けながら、ぴたっと両者の動きが同時に止まる。
いよいよ、公正なる審判最強を自認する二人の戦いが――
「「いくぞ‼」」
切って落とされた。
「さいしょはグー! ジャンケン……」
「カズちゃーん、ご飯だから一緒に帰りましょー」
「ジュンちゃーん、うちもご飯だから早く来てー」
英雄母に弱し。
あと数分。いや、数秒遅ければ勝敗は決していただろうに神はどちらにも微笑むことなく、ドロー。
両者凄い格好のまま顔を見合わせ公正なる審判協定の掟、全五条からなる第三条、ママのご飯は冷めめないうちに食べましょう、に該当する事柄が起きたため戦闘を取り止めた。
そして両者同時に、ぐ~と腹の音が大きく鳴る。
再度二人は顔を見合わせ、互いに笑い合いながら大きな声で
「「今、行くー!」」
と、返事をするのであった。