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異世界でマスコット系リビングアーマー?やってます   作者: ポンポコ狸
第1章 リビングアーマー、異世界に立つ
9/17

8 バカ達、暴発する。

お気に入り250超、PV16210超、応援ありがとうございます。








 門の前で騒いでいた3人組の冒険者達はあの後、騒ぎを聞きつけ駆け寄ってきたザックさんの説得でどうにか大人しくなった。不満そうな態度を隠しもしていなかったが、ザックさんの説得を聞き入れ暫く森に入るのを控えると言っていたので、大丈夫だろう。

 そして散策を終え家に戻った俺とアリシアは、自己鑑定紙を使った時に約束したとおり文字の勉強をしていた。ついでに、家にいたティム君も同席して。


「ヴェルさん、これが共通語の基本文字と数字です。取り合えず、これこれだけ覚えれば基本の読み書きはなんとかなると思います」

 

 アリシアはそう言いながらテーブルの上に、文字と数字が書かれた一覧表を広げた。うーん、この感じからすると、この世界の文字や数字は英語に近い作りなのかな?

 俺はアルファベット表に似た文字列や数字が並ぶ一覧表を見てそんな感想を抱いた。


「なぁ、アリシア? これを覚えれば、本当に読み書き大丈夫なのか?」

「単語や文法を覚える必要はありますけど、基本的に大丈夫な筈です」

「……そうか」


 単語と文法の暗記か……入試の受験勉強を思い出すな。俺、言語系は苦手なんだけどな……はぁ。

 若干気落ちしながら異世界に来ても勉強かと思いると、俺と同じようにテーブルの上に勉強道具を広げているティム君が話かけてくる。


「ヴェルさん、勉強はちゃんとしないといけないんだよ?」

「ティム君……」

「お父さんが言ってたよ、こうして勉強出来る僕達は幸せな事なんだって。後、世の中には勉強したくても出来無い人も沢山居るんだから学ぶチャンスを逃すべきじゃない、ってのも言ってたよ」


 まさかティム君に、勉強の重要さを指摘されるなんて思っても見なかったな。言葉自体はウィリアムさんの受け売りだろうが、ウィリアムさんの言葉を理解し俺に助言するティム君の目は真剣その物だ。


「……そうだね、ティム君。自分の為にも、学べる時に学べる物は学んでおかないといけないよね」

「うん! だからヴェルさんも一緒に頑張ろ?」

「ああ。じゃぁアリシア先生、共通語の説明のよろしくお願いします!」

「は、はい。じゃぁ先ず、ここから……」 


 こうして、アリシア先生による共通語の解説が開始した。

 






「ただいま」


 一通りの勉強を終えた俺達3人とクレアさんが夕食の食べていると、玄関が開きウィリアムさんが戻ってきた。昨日出かけた時に比べ、ウィリアムさんは服装や表情は随分と草臥れている様子だ。


「おかえりなさい、アナタ。随分疲れている様だけど、大丈夫?」


 クレアさんがウィリアムさんを迎えに席を立ち、玄関へ向かう。


「ああ、大丈夫だよ。皆で交代しながら仮眠を取ってたり休憩を入れているから、体的には大丈夫だよ。それに、数日間の我慢だしね。ただ……」

「……ただ?」

「今日村に来た冒険者達が、森には入れなくてイライラしながら森に入れろって騒いでいたんだよ。全くあの連中、何回説明したら状況を理解するんだろうね……」 


 ウィリアムさんは吐き捨てる様な口調で、面倒な時期に騒ぎを起こす冒険者3人組の事を罵る。面倒な時期に、面倒なお客様が来たもんだな。

 

「まぁ幸い、ザックが彼等を説得してくれたから大丈夫だとは思うけど……少し注意しておかないといけないだろうね」

「そうですか、ご苦労様です」

「ほんとうに、ご苦労様だよ」


 そう言ってウィリアムさんは椅子に座り、クレアさんはウィリアムさんの夕食の準備を始める。


「おかえりなさい、お父さん」

「おかえり」

「お疲れ様です、ウィリアムさん」

「ただいま。アリシア、ティム、ヴェルさん」


 俺達の帰宅の挨拶に、ウィリアムさんは少し疲れた表情を浮かべながら答える。

 そしてクレアさんは料理を温め直し、食器を出し準備を終わらせ元の席に座った。家族全員が揃った事で、夕食は和やかに進み各々一日の出来事を報告していく。その会話の中で話題になったのは、やはり道具屋の店主の話だ。


「ああ、そうですか。やっぱりヴェルさんも、あの人の口車に引っかかりましたか……。マルデフ村の村人なら、一度は引っかかるんですよ」

「……そんなに昔からアレをやってるんですか、あの店主さん?」

「ええ。彼があのお店を、ご両親から継いだ当初からやってますよ」


 だから、あんなに自然な態度で自己鑑定紙を差し出させたんだな……長年の経験による賜物か。

 そしてウィリアムさんは俺を含む家族と楽しげに話をした後、夜食の軽食を持って再び塀の補強作業へと出かけて行った。ウィリアムさんによると、手持ちの資材で出来る補強は今夜中に終わる予定なので、早朝には帰ってくるとの事だ。

 

「じゃぁ、もう遅いし私達も寝ましょうか?」

「「うん!」」


 ウィリアムさんを見送った後、俺達は就寝の準備を始める。

 因みに俺の寝床は、昨日と同じくアリシアの部屋だ。今朝の一騒動もあったので、リビングで良いと言ったのだがアリシアが赤面しつつも強固に反対したので、こうなった。


「本当に一緒の部屋で良いのか、アリシア?」

「はい。恩人のヴェルさんに、リビングで休んで貰うなんて真似は出来ませんからね」

「……そうか、ありがとう」

 

 自分の部屋で寝巻きに着替えているアリシアを前に、最終確認を取ったがアリシアには自分の意見を変える気はないようだ。別に寝る場所は何処でも構わないと言いたかったが、そう言うと会話がループしそうなのでここはアリシアの好意に乗る事にした。

 

「じゃぁ、明りを消しますね。おやすみなさい、ヴェルさん」

「ああ、おやすみアリシア」


 こうして、俺の異世界2日目は終了した。










 窓から差し込む朝日が俺の体を照らすと共に、俺は目を覚ました。昨日と同じく、全く朝の気怠さを感じない目覚めだ。


「……んっ? ああ、もう朝か……」


 俺は静かに体を解しながら、未だベッドで寝ているアリシアを眺める。気持ちよさそうに寝ているな……。

 そしてリビングから聴こえてくるクレアさんが使う包丁の音を聞きながら、暫くアリシアを起こさない様に静かにテーブルの上に座っていると玄関の扉が開く音がした。ウィリアムさんが帰ってきたのかな?

 気になり耳を澄ませてみると、リビングの方からクレアさんとウィリアムさんの物と思わしき不明瞭な会話の声が聞こえてきたので、ウィリアムさんが帰ってきたと言う事で間違いないらしい。

 

「予定通り、塀の補強作業は終わったみたいだな」


 今回補強された塀の全体像は知らないが、昼夜を問わず作業していたとは言え1日半で補強作業を終わらせたのは驚異的スピードだろう。やっぱり、ゴブリンの襲撃があるかも知れないという危機感が後押ししたせいだろうな。

 そして朝食の準備が進み、良い匂いが漂い始めたせいだろうかアリシアが薄らと目を覚まし始めた。


「……」

「おはよう、アリシア」

「……?」


 俺を見つめるアリシアの目の焦点はあっていない、どうやら未だハッキリと意識が覚醒している訳ではないようだ。何度か目を開け閉めした後、アリシアは眠気眼を擦りながらベッドの上で上体を起こした。


「……」

「おはよう、アリシア」

「……ヴェル、さん?」

「ああ、そうだ。ヴェルさんだ」

「……??」


 昨日クレアさんが、アリシアは寝起きが悪いと言っていたが……これは見ると中々の物だな。


「??……ヴェルさん……ヴェルさん……ヴェル、さん!?」


 寝ぼけた表情を浮かべながら俺の名前を呟いたアリシアの表情が、急に驚愕に染まる。どうやらやっと、頭が回りだしたらしい。

 俺は改めて朝の挨拶をする。


「おはよう、アリシア」

「おおお、おはようございます!?」


 アリシアの顔が真っ赤に染まり、動揺した様がありありと分かる挨拶が返ってくる。昨日の朝の光景を思い出すな……このやりとり。

 そして俺は昨日と同じく、部屋を出てリビングに向かう旨をアリシアに伝えようとしたのだが……。


「兄さん!」


 家の玄関の扉が激しく叩かれる音と、おそらくザックさんと思わしき男の悲鳴にも似た呼び声が聞こえてきたので、俺は口にしようとしていた言葉を飲み込み動きを止めた。アリシアも、何事かと肩を一瞬揺らし驚きの表情を浮かべながら玄関の方に顔を向けている。

 

「兄さん、大変だ! あいつらが!?」


 尚も続くザックさんの呼び声に、玄関が開く音と同時にウィリアムさんの不機嫌そうな大声が聞こえてきた。


「何だザック、こんな朝っぱらから騒々しい! 一体、何が大変なんだ!?」

「ああ、兄さん! 大変なんだよ、アイツ等が俺達の忠告を無視して森に入って行っちゃったんだよ!」

「アイツ等……森の中……! あの冒険者達の事か!?」

「そうだよ! 俺達が塀の補強作業を終え集まって解散をしていた隙を突いて、森の中に入っていったんだよ! 朝の散歩をしていた村の人が、冒険者達が荷物を持って門から出ていく姿を見たって言ってるんだ!話を聞いた自警団の人達が慌てて確認したら、泊まっていた筈の宿は引き払っているって言うし……まず間違い無くアイツ等森に入って行ってるよ!」

「何だと!?」


 どうやら、馬鹿どもが馬鹿をやらかしたらしい。俺は窓から見える森を見て、溜息を吐いた。

 襲撃イベントの開始フラグだよな、これ。


「クソッ! あの馬鹿野郎どもが! ザック、急いで村の男連中を集めてくれ! 急いで村を守る準備をするぞ!」

「あ、ああ! 分かったよ兄さん!」 


 ウィリアムさんの怒号が家中に響き、続けざまに出された指示に従いザックさんが慌てて走り出した音が聞こえ静かになった。

 

「……ヴェ、ヴェルさん」


 すると、俺の横からアリシアの不安に満ちたか細い声が聞こえてきた。顔をアリシアの方に向けてみると、アリシアは微かに震えながら顔色が悪かった。


「ゴブリン達……村を襲って来るんですか?」

「あっ、いや……その……」

「……」


 俺が言葉に詰まると、アリシアは顔を青ざめさせる。おそらく、ゴブリンに襲われた時のことを思い出したのだろう。しまったな……。

 俺はアリシアの顔のそばませ浮いて移動し、アリシアの目を正面から見ながら話しかける。


「アリシア。正直俺にも今はまだ、ゴブリン達が村を襲いに来るかはわからない」

「……」

「森に入っていったって言う冒険者の連中だって、必ずゴブリンと事を構えるって訳じゃないんだ。もしかしたら何事もなく戻ってくるかも知れないんだぞ?」

「……」

「それにな、アリシア。万が一ゴブリンが襲いかかって来たとしても、領軍の援軍が到着するまで持ち堪えられる様にする為に、ウィリアムさん達が昨日から昼夜を問わず塀の補強作業をしていたんだ。万全とは言えないまでも、万が一の備えだってしているんだから今は大丈夫だと信じていよう」

「……そう、ですね」


 俺の説得が功を奏したのか、アリシアの青ざめた顔に若干血の気が戻ってくる。深呼吸を繰り返すとアリシアの体の震えも止まり、次第に落ち着きを取り戻していく。やっぱり、ゴブリンに襲われた事はアリシアの中でトラウマになっているんだな。

 暫く静かにアリシアの肩に触れ浮かんでいると、アリシアは何時もの調子を取り戻した。


「落ち着いたみたいだな、アリシア」

「はい」

「じゃぁ、リビングに行かないか? これ以上は、他に新しい情報がないと何も考える事も出来ないからな」

「……分かりました。じゃぁ、着替えますね」

「ああ、俺は先にリビングに行ってるから。アリシアも後からきなよ」

「はい」


 俺はアリシアにそう言いって部屋を出、リビングへと向かった。







 リビングに着くと、クレアさんが用意したらしい朝食をウィリアムさんが掻き込む様に急いで食べている所だった。急いで食べる事情を知る俺がウィリアムさんのそんな姿に不憫げに見ていると、クレアさんがリビングに入ってきた俺に気付き、声をかけてくる。


「おはよう、ヴェルさん」

「おはようございます、クレアさん。何か、大変な事になっていますね」

「あら、ヴェルさん? 聞こえてたの?」

「はい。結構大きな声でしたからね、大体の事情は」

「そう……」

 

 俺とクレアさんがそんな会話をしている内にウィリアムさんは朝食を食べ終わり、慌ただしく出かける準備を始める。


「ごちそうさま。すみません、ヴェルさん。事情は知っての通りなので、私また出かけてきますので」

「はい。大変な事になっていますけど、無理をしないで下さいね」

「はい、ありがとうございます。じゃぁ、行ってきます!」


 そう言い残し、ウィリアムさんは慌ただしく家を出ていった。本当ご苦労様です、ウィリアムさん。

 それにしてもあの冒険者達、バカをやらないと良いんだけど……。













バカ達が村人達の制止を振り切り、暴発しました。根拠のない自信で無茶をする輩って、往々にして居ますからね。

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