表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でマスコット系リビングアーマー?やってます   作者: ポンポコ狸
第1章 リビングアーマー、異世界に立つ
7/17

6 叡魔契約について教示を受ける

お気に入り220超、PV超12270pV、応援ありがとうございます。






暫くの間、俺とアリシアは説明会が終わるのを待ってウィリアムさんに声をかける。

 

「お父さん!」

「ん? ああ、アリシア!」


 アリシアは壇上から説明を終え降りてくるウィリアムさんに、声を掛けながら駆け寄る。その際、自警団のメンバーの羨ましそうな視線が、ウィリアムさんに集まったのはご愛嬌だろう。


「はい。お父さん、これ。お母さんが作ってくれた、お弁当だよ」

「おおこんな朝早くから、届けに来てくれたのか。ありがとう、アリシア」

「ううん。お父さんが村の為に頑張ってるんだから、私もこれくらいしないと」

「そうか。でも、ありがとうな」


 ウィリアムさんはアリシアから弁当の包を受け取り、アリシアの頭を撫でる。アリシアは少々恥ずかし気だが、嬉しそうにウィリアムさんに撫でられるままにされていた。とても微笑ましい光景なのだが、子持ちと思われる男の羨ましそうな視線は兎も角、独身と思わしき男連中の嫉妬に満ちた妬まし気な視線がとても痛い。嫉妬に狂って、闇討ちとかしないよな?

 そして暫くウィリアムさんはアリシアの頭を撫でていたが、アリシアの肩に捕まっている俺に気付き互いの視線があう。


「……ヴェルさん?」

「おはよう、ウィリアムさん」

「あっ、えっと、その、おはようございます? あれ? ヴェルさんも来られたんですか?」

「ええ。昨日は村の中を見て回れませんでしたからね、アリシアがお使いに行くと言っていたので見学を兼ねて同行させて貰ったんですよ」

「はぁ、そうですか……」


 ウィリアムさんは俺の返事を聞き、アリシアの頭を撫でるのを止め一歩後ろに下がり話しやすい距離を取る。アリシアは頭を撫でる手が止まり少々残念そうだが、緩んだ表情を引き締めた。

 

「そう言えばウィリアムさん、村を囲う塀の補強はどんな状況なですか?」

「それ何ですが、ちょっと拙いですね」

「拙い? それはまた、どうしてです?」

「実は、塀を補強する木材が不足しているんですよ。森に木を伐採しに行けば済む話なんですが、今森で木の伐採を行えばゴブリン達を引き寄せるかも知れないので困っているんです」

「ああ、なる程」

「今は村に残っている木材や不要になった木材で塀を補強しているんですが、とてもではありませんが村を囲う塀全ての補強を行うには量が足りません。今はゴブリンの巣がある方向の塀を中心に補強していますが、裏に回り込まれでもしたら……」


 そう言いながら、ウィリアムさんは表情を曇らせる。資材不足で塀の全周補強が出来無い以上、ゴブリン達の侵攻ルートを予測し集中補強するしかないって事だよな。予想が当たれば補強の効果もありかなりの時間持ち堪えられるだろうが、予想が外れれば……と言ったところだろう。

 そして、その補強を施す場所を最終的に決めたのは恐らく、村長代理のウィリアムさんだ。自分の判断が間違っていれば村が壊滅する、と考えればその重みはどれほどの事だろうか……。俺は歯を食いしばって不安に耐えるウィリアムさんの表情を見て、何と声をかけたら良いのか頭を悩ませたが俺が答えを出す前に、周りに居た自警団の人達が口々にウィリアムさんを励まし始める。


「ウィリアム! そうならない様にする為に、俺達が森を巡回するんだ。だから、大丈夫だよ!」

「そうっすよ、ウィリアムさん! それにゴブリン達が、ウチの村を襲うって決まっている訳でもないっすよ!」

「あんまり思いつめるなよ、ウィリアム。俺達は自分に出来る事を、各々が全力でやるしかないんだ。お前は自分に出来る事をちゃんとやってるんだから、お前が出来ない事は他に出来る連中に任せれば良い。例えば、俺達とかにな!」

「お前ら……」


 ウィリアムさんは自警団の者達の顔を見て不安に曇った表情をほころばせ、肩肘に張っていた力が抜けた様だ。苦笑気味だが、ウィリアムさんの顔には笑顔も浮かんでいる。

 うん、俺がどうこう言う問題でもなかったみたいだな。


「……」

 

 そんなウィリアムさんと自警団の人達との様子を見ていたアリシアは何かを思い詰めている様な表情を浮かべていたが、ウィリアムさん達の遣り取りに注意が向いていた俺はそれを見逃していた。

 

 









 ウィリアムさんへお弁当を届けると言うお使いを終えたアリシアと俺は、俺の希望を叶える為にウィリアムさんと別れた後、集会場を離れようとしているとある人達の元を訪ねていた。軽鎧を纏った二足歩行のケットシーと、弓を背負った20代後半くらいの狩人の二人組の元を。


「すみません。サイモンさん、ノエルさん少し良いですか?」

「ん? アリシアの嬢ちゃんじゃないか、どうしたんだ?」

「すみません、少しお二人に聞きたいことがあるんです」

「聞きたい事?」


 弓を背負った男……サイモンさんが首を傾げ、隣に立つ軽鎧を纏ったケットシーのノエルさんに¥と顔を見合わせる。

 アリシアは首をかしげる二人に、本題の質問をぶつけた。


「実は、叡魔契約についてお聞きしたいんです」

「叡魔契約? アリシアの嬢ちゃんが、誰かと叡魔契約をするって事か?」

「あっ、いえ。そう言う訳ではなく……ヴェルさんが聞きたいそうなんです」

「「ヴェルさん?」」


 アリシアの答えに更に首を傾げるサイモンさんとノエルさんの前に、俺はアリシアの肩から離れ彼等の前に出た。


「挨拶が遅れました。ヴェルキュロサスと申します。ヴェルと呼んで下さい」

「ゴーレム……いやオートマターか?」

「えっと、一応リビングアーマーです」

「ああ、そうなのか? すまない」

「いえ」


 俺に軽く頭を下げ謝罪するサイモンさんに、俺は少し恐縮したように返事を返す。


「しっかっし、この村にノエル以外の叡魔種の奴が居るなんて知らなかったな」

「そうだにゃ。この村には、自分しか居ないと思っていたにゃ」

「俺は昨日、アリシアと一緒のこの村に来たばかりですからね。知らなくても、無理はないと思います」

「そうか、昨日アリシアの嬢ちゃんと……って。アリシアの嬢ちゃんと?」


 サイモンさんとノエルさんの視線が、アリシアに向けられた。そんな視線を受けたアリシアは、サイモンさんとノエルさんに俺と出会った時の状況を説明し始める。


「そうか……ヴェルさんがアリシアの嬢ちゃんの命の恩人か」

「ヴェル君、良くやったにゃ!」

「あ、ありがとうございます?」


 アリシアの説明が終わるとサイモンさんには感心され、ノエルさんは俺の手を取って盛大に褒めてくれた。いや、そこまで手放しに褒められる……流石に照れるな。

 そして一通り褒め終えると、ノエルさんは俺に先程の質問の意味を問い掛けてくる。  


「それでヴェル君、何で叡魔契約の事を聞きたいんだにゃ? 里を出て旅をしていると言う事は成人済みの筈だから、里を出る時に叡魔契約の事は説明される筈だけど……説明を受けていないのにゃ?」 

「あっ、えっと、実は俺……どうやら生まれたばかりみたいなんです」

「にゃっ!?」

「はっ!?」


 俺はサイモンさんとノエルさんに、俺が目を覚ました時の状況を説明する。

 

「……なる程。確かにその状況だと、ヴェルさんは生まれたばかりって言うのは本当の様だな」

「そうだにゃ。それにしても……叡魔種が里以外で生まれるなんて随分珍しいレアケースだにゃ」

「ん? そうなのか、ノエル?」

「にゃっ。叡魔種の里と言うのは、ある特定の条件と環境を満たした土地の事にゃ。その土地で生まれた魔物が、叡魔種になるのにゃ。里以外で叡魔種が生まれるなんて、それはそれは珍しい事なんだにゃ」

「へぇー、初めて聞いたぞ。そんな話」

「態々言い触らす様な話でもないし、聞かれでもしないと話さない話にゃ。でもまぁ、知っている奴は知っている話にゃ」


 叡魔種の里って、そう言う意味があったんだ……。単に同族が集まって出来た場所って言う事じゃなく、叡魔種が生まれるから里が出来たのか。

 俺がサイモンさんとノエルさんの話を感心しながら聞いていると、ノエルさんが俺の方を向き叡魔契約の事について話をしてくれる。 


「まぁそう言う事にゃら、にゃあが叡魔契約について教えて上げるにゃ!」

「ありがとうございます、ノエルさん」

「にゃっ! じゃぁ、先ずは初めに基本的な事から教えるにゃ! 叡魔契約とは、人間と叡魔種の間で交わされる魂交の契約にゃ!」

「魂交の契約ですか?」

「そうにゃ! 契約者同士の魂の一部を交換し合い、互いに影響を与え合う契約だにゃ。これによって契約を交わした叡魔種は潜在能力の開放が促され、人間は力を借り受けられる事が出来る様になるにゃ!」


 ここまでのノエルさんの説明は、アリシアから聞いた話との齟齬はあまりないな。


「ただし、この契約によって叡魔種の潜在能力が解放されるのはユックリとした物にゃ。と言っても普通に、にゃあ達が修行して潜在能力を引き出すよりは遥かに早い物だけどにゃ。叡魔種の潜在能力が全て引き出されるのには、早くても十数年から数十年かかるにゃ。まぁ、人間より遥かに寿命が長い叡魔種に取ってみたら、それほど長い契約期間じゃないんだけどにゃ」

「はぁ、なる程。」

「以上が、叡魔契約の基本的な事にゃ。次は、具体的な契約の仕方を教えるにゃ」


 そう言ってノエルさんは、足で地面に直径2m程の大きさの魔法陣を書き始める。魔法陣は円に六芒星と言ったシンプルな物で、1分も掛からず完成する。


「叡魔契約を交わす方法は、至って簡単にゃ。この魔法陣の中心に契約者両方の血を垂らして魔法陣が起動したら、両契約者が叡魔契約の呪文を唱え了承すれば契約締結にゃ」


 はい? それだけ?


「えっと……それだけなんですか?」

「それだけにゃ。別に特別な物は何も必要無いし、必要な物は魔法陣と血と呪文……そして両契約者の同意だけにゃ」

「随分簡単ですね……あっ、でもノエルさん? 俺、リビングアーマーですから、血は出ませんよ? どうやって、魔法陣を起動させれば良いんですか?」

「別に使うのは、血じゃなくても良いにゃ。要は契約者の体の一部を、魔法陣の起動に使えば良いだけの事にゃ。血を使うのは、一番用意し易い触媒と言うだけの事にゃ。あっ、それと呪文は『我、魂交に同意し叡魔契約を結ぶ者なり。汝、魂交に同意し叡魔契約を結ぶか?』にゃよ。後は互が同意しキーワードを設定すれば叡魔契約は完了にゃ」

「なる程……」


 と言う事は、俺の場合装甲の一部を剥ぎ取って使えば良いのか。……装甲を剥ぐのって、痛くないよな?

 と、俺がそんな心配をしていると、ノエルさんは最後の説明を始める。


「じゃぁ最後は、叡魔武装について教えておくにゃ。と言っても、叡魔武装は契約する人間と叡魔種によって発現する種類は様々にゃ。似た様な武装はあっても、全く同じ能力と言う物は基本的に無いにゃ」

「そうですか……」

「さっきも言った様に、叡魔武装は実際に叡魔契約をしてみないとどう言う物が発現するかは分からないにゃ。だから、にゃあが叡魔武装に関して教える事が出来るのは叡魔武装の起動方法に関するアドバイスだけにゃ」

「……起動方法のアドバイス?」

「そうにゃ。叡魔武装を起動させるには、叡魔契約を交わす時に設定したキーワードが必要にゃ。この呪文は一度設定すると、途中変更が不可能ににゃるから……」

「途中変更が不可能って、もしかしてそれって……」

「設定時に変に面倒なキーワードや無駄に長いキーワードを設定すると、叡魔武装を使う時に毎回そのキーワードを叫ぶ必要が出てくるにゃ」


 それってつまり契約時に中二病じみたキーワードを一度設定したら、中二病から覚めても叡魔武装を使うたびに叫ぶ必要が出てくるって事か……最悪じゃないかそれ?


「だから経験者のにゃあとしては、シンプルに一言で済むキーワードを設定する事をオススメするにゃ」

「……経験者?」

 

 俺はその言葉を聞き、サイモンさんとノエルさんを見た。サイモンさんは顔を赤らめさせながら顔を逸らし、ノエルさんは処置無しといった表情をしている。

 サイモンさん……アンタが犯人か。


「さて以上で、にゃあの叡魔契約授業は終わりにゃ。ヴェル君の参考になったかにゃ?」

「はい、とても参考になりました。ノエルさん、教えて頂きありがとうございました」

「まぁ、急いで叡魔契約を交わす必要は無いからにゃ。ヴェル君は契約相手はじっくり探すと良いにゃ」

「はい」

「じゃぁそろそろ、にゃあ達は森の巡回に行くにゃ。ほらサイモン、何時までも顔を赤くしていないで行くにゃよ!」


 ノエルさんに尻を叩かれ、羞恥心で顔を赤くしサイモンさんが動き出す。


「あ、ああ、そうだな。じゃぁなアリシアの嬢ちゃん、ヴェルさん」

「またにゃ、ヴェル君、アリシアちゃん!」

「はい、色々とありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 俺とアリシアは、巡回へと向かうサイモンさんとノエルさんにを手を振りながら見送った。

 

「結構色々な話が聞けましたね、ヴェルさん」

「そうだな。まぁ一番の収穫は、起動キーワードはシンプルに一言な物が良いと言う事だな」

「ですね。じゃぁ帰りましょうか、ヴェルさん? そろそろ帰らないと、お母さん達も朝食に出来無いでしょうし」

「じゃぁ、帰ろうか?」

「はい!」


 俺は来た時と同じ様にアリシアの肩に捕まり、アリシアと一緒に家路へと付いた。















叡魔契約についての、ご教示を受けました。

果てさて、誰と契約を結ぶんでしょうかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ