15 ゴブリンキングと戦う
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ゴブリンキング歩みを進めるに従い、ホブゴブリン達は俺達の周りから離れ道を作る。どうやら、ゴブリンキングは俺達との一騎打ちを求めているらしい。
俺達にとっても、物量で押されるよりは一騎打ちの方が都合が良いので誘いに乗る事にした。
「(アリシア。相手の思惑に乗るのは尺だが、この一騎打ち受けるぞ)えっ……良いんですか? (ここで一騎打ちを避けたら、残りのホブゴブリンとゴブリンキングが一斉に襲い掛かってきそうだしな。それに残りエネルギーのと時間を考えればゴブリンキングと戦うのは後に回すより、エネルギーと時間に余裕があるうちにしておきたい)なる程……分かりました。この一騎打ち、受けますね(今まで戦ったゴブリン達より強敵のはずだから、油断はするなよ?)はい!」
俺とアリシアはホブゴブリン達が開けた道を進み、ゴブリンキングへと近づく。その際、ホブゴブリンが唸り声を上げ威嚇してきたが、アリシアが視線を向けると顔を逸らし唸るのを辞めた。どうやら俺達……かなり恐れられているようだな。
そして俺達とゴブリンキングは、10メートル程の間を開け対峙する。
「ググッ……」
「ヴェルさん……(大丈夫だアリシア、落ち着いてやれば問題ない)」
対峙するゴブリンキングは唸り声を上げながら大剣を構え、俺達は特に構える事もせずゴブリンキングを見据える。
そして……。
「グガァァァ!!」
俺達が動き出すより先に、ゴブリンキングが咆哮を上げながら構えた大剣を振り上げ襲いかかってくる。ゴブリンキングの動きはホブゴブリンより格段に素早く、2,3歩踏み込んだだけで大剣の間合いに俺達を捉えていた。
「グガッ!」
短い叫びと共にゴブリンキングが振り下ろし大剣の剣速は早く、俺達の頭目掛けて降ってくる。ゴブリンキングは剣を振り降ろした後も俺達が何の反応出来ていない様子を捉え、勝利を確信し口元を釣り上げ笑みを浮かべる。
だが、甘いな。
「(アリシア)はい!」
アリシアは俺の合図と共に大剣が到達するより早く両腕を頭上で交差させ、ゴブリンキングが振り下ろした大剣を待ち受け……激突。
周囲に甲高い音が響くと共に、ホブゴブリン達がゴブリンキングの勝利を確信し喜びに沸く。なにせ、単独でゴブリンの集団を壊滅寸前まで追い込んだ怨敵だ。ゴブリンキングの勝利を喜ばないわけがない。だが、それは抜か喜びに過ぎなかった。
「グガッ!」
ゴブリンキングが大剣を地面に落とし、右手の手首を左手で抑えよろよろと俺達から離れ蹲る。その顔には、信じられない物を見たと言いたげな驚愕の表情を貼り付けていた。
「(まっ予想通り、こんなもんだな)でもヴェルさん、正面からあの大剣を受け止めるだなんてヒヤヒヤ物でしたよ!」
俺に無茶な作戦の抗議の声を上げるアリシアは先程大剣を受け止める前にしていたポーズ……腕を頭上に掲げた体勢のまま無傷でたっている。
その顔に驚いたと言いたげな表情こそを浮かべているが、大剣を受け止めた痛みなど一切感じさせる物は浮かべていなかった。
「(それよりアリシア、ゴブリンキングに攻撃だ。今なら反撃危険は少ないだろう)ううっ……はい!」
アリシアは手首を抑えゴブリンキングに近づき、思いっきり蹴りを放った。蹴りを受けたゴブリンキングはこれまで蹴られたホブゴブリン達と同様に吹き飛んでいったのだが……。
「……ん? (どうした、アリシア?)えっと……今ゴブリンキングを蹴った瞬間、何か変な感触が……(変な感触?)」
アリシアがゴブリンキングを蹴った時に感じた違和感に首を傾げていると、蹴り飛ばされた地面に転がったゴブリンキングがユックリと立ち上がる。
そう、立ち上がったのだ。これまでゴブリンやホブゴブリンを一撃で仕留めてきた、俺達の蹴りを食らって。
「……立ちましたよ、ヴェルさん(ああ、立ったな……)」
ゴブリンキングは頭を左右に振った後、俺達に忌々しそうな視線を向けてきた。
そして……。
「グガァァァ!!」
蹴りのダメージを感じさせない動きで俺達に走りよってき、左手の拳を振り上げ俺達に振り下ろしてきた。アリシアは咄嗟にサイドステップで振り下ろされたゴブリンキングの拳を回避し、距離を取る。
「ヴェルさん! 私の蹴り、効いてないみたいですよ!? (そうみたいだな! 一体どんな耐久力しているんだよ! コイツ!)」
俺とアリシアは追撃を仕掛けてくるゴブリンキングの攻撃をかわしながら、攻撃後の隙を見て再び蹴りを入れた。先程と同様にゴブリンキングは吹き飛び地面を転がるが、直ぐに立ち上がってくる。
「(うーん。こうまで蹴りの効果がないと言う事は多分、何らかの方法で蹴りの衝撃を相殺しているうだろうな)何らかの方法……それってもしかしてスキルの事かな? (……スキル?)はい。ヴェルさんの話を聞く限り、多分あのゴブリンキングは物理攻撃を軽減する系統のスキルを持っているんだと思うだけど……(なる程……)」
スキルなんて物もあるんだな、この世界。まぁ魔法なんて物がある時点で、スキルがあっても不思議はないか。しっかし、そうなるとどうやって攻撃をするか……。
「グガァァァ!」
「(考え事してるんだから、少し静かにしてろ!)うるさい!」
再びアリシアの蹴りがゴブリンキングに決まり、吹き飛ばされていく。ゴブリンキングは俺達の攻撃が蹴るか殴るかの物理攻撃方法しか無い事に気付いたのか、一発狙いの大振りの攻撃を仕掛けてくる。なので、アリシアが攻撃を当てることは難しくないが、双方ともに決め手に欠けていた。
だが、この状況がどちらにとって有利なのかと聞かれれば、それはゴブリンキングである。
「(残りのエネルギーも時間も、もう無いな……)そうですね、このままだと……」
ゴブリンキングの攻撃をかわしながら、俺とアリシアは焦りっていた。既に俺達の戦闘可能時間は残り5分を切っており、このままゴブリンキングと消耗戦を続ける訳にはいかないのだ。
だからこそ、俺はイチかバチかの賭けに出る事にした。
「(アリシア……このまま消耗戦を続けると、俺達が時間切れで負ける。それは分かるよな?)……うん。(となると、だ。少々危ないが、賭けに出ないといけないんだが……どうする、のるか?)……ヴェルさん、掛けの内容をおしえて。流石にm何も聞かないで賭けにのる事は出来無いよ(まっ、そうだな)」
俺はアリシアにかけの内容を伝える。
「……大丈夫なんですか、それ?(計算上では、半秒なら大丈夫だ。ただし、2度目の使用は不可能だから、確実に致命傷クラスの攻撃を当てる必要があるけどな)……一発勝負、ですか。(ああ。アレの発動タイミングは俺が見計らうから、アリシアは確実に攻撃をゴブリンキングに当ててくれ)……分かりました(じゃぁ、始めよう)」
話が纏まると、アリシアはゴブリンキングを蹴り飛ばし距離を取った。だが、吹き飛ばされたゴブリンキングも既に慣れた物とばかりに地面を転がり、その勢いを利用し体を起こし再び俺達の方に向かってくる。
「(来るぞ! いいな、アリシア!?)うん!」
アリシアは向かって来るゴブリンキングを見定めながら、腰を僅かに落とし攻撃してくるのを待ち構える。
そして先程までの攻撃と同様、左手を大きく振り上げ俺達目掛けて振り下ろしてきた。アリシアは振り下ろされる拳をギリギリまで引き付けた後、素早く交わす。叩きつける目標をなくしたゴブリンキングの拳は、そのまま振り下ろされ地面を殴り地面を砕く。だが同時に大振りで拳を叩き付けた為、姿勢を崩したゴブリンキングは頭を俺達の胸の高さまで下げたていた。
「(今だアリシア! ふり下ろせ!)ええぃ!」
アリシアは俺の言葉を合図に、手刀の形に変えた右手をゴブリンキングの首筋めがけて振り下ろした。ふり降ろされた手刀は真っ直ぐゴブリンキングの首に向かい、手刀がゴブリンキングに接触する寸前で……。
「(ここだ!)」
俺は手刀……ガンドレッドにエネルギーを回した。すると、ガンドレッドの手首の先から青白いエネルギーが噴出し、振り下ろした手刀がゴブリンの首筋に抵抗感なく食い込んでいく。
そして遂に、アリシアが振り下ろした手刀はゴブリンキングの首を切り飛ばした。
「「「!?!?」」」
首を切り落とされた事で、ゴブリンキングは傷口から盛大に血を噴き出しながら地面に倒れた。
そして自分達の大将の凄惨な死に様に絶句していたゴブリン達に、俺達が視線を向けると一斉に視線を逸らし距離を取りながら距離をとしている。そんな空気の中、俺はアリシアにとある事を行うように指示を出す。
「私達の勝ちよ!!」
アリシアが右腕を高らかに掲げながら勝鬨の声を上げると、残っていたホブゴブリン達は血相を変え我先にと森の中へと走り出す。ゴブリンキングが負けた事で俺達に対する勝算が皆無であると悟り、ゴブリン達は生存本能に従い逃げ出したのだ。本来、後の憂いを断つ為に追撃して一体残らず倒してしまうのが良いのだろうが……流石にそんな余裕はない。
今の俺達に出来るのは、ここまでだ。
ゴブリン達が逃走した結果、村の周辺は妙な静けさが広がっていた。何故なら、村の周囲のアチラこちらにはゴブリン共の死体が散乱し、その中心とも言える場所に俺達……ゴブリンキングを含むゴブリン集団を瞬く間に蹴散らした正体不明の存在が佇んでいるからだ。ゴブリンという驚異は取り除かれたが、それを上回る驚異の登場。村人達が警戒するのは、無理もなかった。戦線に留まりゴブリン共の進行を阻んでいた自警団員を中心にした村人達は、厳しい目付きで警戒感を顕にした表情を浮かべたまま手に持つ武器を握り締め、息を押し殺し正体不明の存在の挙動を注意深く観察する。
すると、そんな緊張感が張り詰める場所に半獣半人姿のサイモンさんに肩を貸したザックさんが姿を見せ大声で指示を出す。
「おおい、お前ら! 武器を下ろせ! アイツは味方だ!」
「ザック!! お前、あいつが何者か知っているのか!?」
「ああ、勿論! 知っているとも!」
ザックさんはそこで一旦言葉を切り、大きく息を吸い込み告げる。
「アイツは俺の姪、アリシアだ!」
「「「「はぃぃぃっ!?!?」」」」
戦場に踏み止まっていた村人達は目を丸くしながら、ザックさんの姪発言を聞き一斉に絶叫した。ザックさんは絶叫をあげる村人達に、自分が知っていることを説明をする。
「アリシアがあんな姿をしているのは、ヴェルさん……リビングアーマー族の人と叡魔契約を交わし、叡魔武装を使っているからだ!」
「叡魔武装……それって、サイモンさんとノエルさんが使っている奴の事ですよね?」
「ああ、その通りだ。アリシアの嬢ちゃんがヴェルさんと叡魔契約交わした事で手に入れた力だよ。まぁ、あんなに強力な叡魔武装を手に入れるとは思ってもみなかったがな」
若い自警団員がザックさんに肩を貸して貰っているサイモンさんに疑問を投げかけ、サイモンさんが首を縦に振り肯定しながら少々呆れたような眼差しをアリシアに向けた。
そんなサイモンさんや若い自警団員のやり取りを無視し、ザックさんは俺たちに声をかける。
「おおい、アリシア!」
「……」
ザックさんに声をかけられた俺達はユックリと振り向き……俯きに倒れる。
そして弱々しい光の柱が一瞬立ち上がり消えると、そこには俯きに倒れるアリシアと微動だにしない俺が現れた。
「ア、アリシア!?」
突然、叡魔武装が解除され倒れた俺達の姿にザックさんは驚愕し、サイモンさんを地面に座らせ大声を上げながら駆け寄ってくる。その際、サイモンさんが顔面から力なく地面に倒れたのはご愛嬌だろう。
ザックさんは慌ててアリシアに駆け寄り、地面に倒れるアリシアを抱き抱えながら体を起こす。
「アリシア! おい、しっかりしろ! アリシア1」
「……ザック、おじさん?」
ザックさんに抱き抱えられたアリシアは、ザックさんの叫び声に反応し閉じていた目を開ける。
「ああ、そうだ。大丈夫かアリシア?」
「……う、うん。ちょっと疲れているだけだから、大丈夫」
「そ、そうか……」
「でも、ちょっと……ごめん」
そう言い残し、アリシアはザックさんの腕の中で静かに寝息を立て始めた。ザックさんは一瞬叫び声を上げそうになったが、単に寝ただけだと気付き安堵の息を漏らす。
「良かった、寝ただけか……」
「今回は大分、アリシアには無理をさせましたからな……」
「!? ヴェルさん!?」
「ああ、やっと気が付いてくれました? まぁ、アリシアの方が心配だったから、良いんですけどね……」
なんとか意識を保ちながらアリシアがザックさんに介抱される姿を見守っていた俺は、そろそろ意識を保つのも限界だったので無粋は承知でザックさんに声をかけた。
「すみません、ザックさん。ちょっと無理をし過ぎたせいで、もう意識が保てそうにないので後の事をよろしくお願いします……」
「えっ!? あっ、はい!」
「じゃぁ後、よろしくお願いします」
それだけ言い残し、俺は気合で繋ぎ留めていた意識を手放す。
「ヴェルさん!! マルデフ村を、アリシアを守って頂きありがとうございました!!」
そんなザックさんの感謝の声を聞きながら。
はぁ、これで何とかイベントはクリアだな。
ゴブリン達に勝ちましたが、エネルギー切れで昏倒。ギリギリ、辛勝といったところですね。




