13 アリシア・ヴェル組参戦す
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光の柱が消えると、そこには体の各部に俺の……ヴェルキュロサスの装甲を鎧の様に付けたアリシアが立っていた。ショルダーアーマー・ガンドレット・ブレストプレート・ウエストアーマー・ニーアーマー・レッグアーマー・サバトン。
そして、背中に特徴的な1対2枚の翼と俺マスコットフェイスを模したヘルム。
「ア、アリシア……? そ、その格好は……」
ウィリアムさんは突然変身したアリシアに戸惑いながら、大口を開けながら震える指で俺達を指さしながら疑問を投げ掛けてくる。
「これが、私とヴェルさんが叡魔武装した姿だよ、お父さん」
「叡魔、武装……」
「うん。昨日の夜に、ヴェルさんと叡魔契約を交わしたの」
「……」
ウィリアムさんは指差しをしている手を下ろし、口を閉じる。数秒沈黙した後、ウィリアムさんはアリシアの頭……俺を見詰めて怒りを露にする。
まぁ、娘を行き成りこんな自体に引き込んだ要因が目の前にいれば、文句の一つでも言いたくなるよな。
「ヴェルさん、何でアリシアと叡魔契約を結んだんですか!?」
先程まで絶望感で打ちひしがれ、俯いていた同じ人とは思えない激高ぶりだ。怒りで生きる活力が沸いたのは良いが、その矢面には立ちたくないよな。
なので俺は、ウィリアムさんの矛先を逸らす事にした。
「(アリシアが望んだからですよ)」
「アリシアが望んだだって!?」
「(ええ。村の為に奔走するウィリアムさんを見たいたアリシアが、自分にも何か出来る事があるんじゃないかと悩みに悩んだ結果、俺との叡魔武装を望んだんです)」
「そ、そんな事は……」
「本当だよお父さん。叡魔契約の事は、私からヴェルさんに言い出したの」
「……アリシア」
俺の言葉を疑っていたウィリアムさんも、真摯な眼差しで事実を伝えるアリシアの説得してくる姿に信じるしかなかった。
「ヴェルさんは、最後まで私との叡魔契約には反対していたよ。今の状況で自分と叡魔契約を結ぶ事は、ゴブリン達と戦う事なんだって言って。でも私は、それでも自分に出来る事……村を必死に守ろうとするお父さんの手伝いをしたかったの」
「……」
「だから私、ヴェルさんと叡魔契約を結んだよ」
「はははっ!」
アリシアが俺と叡魔契約を結んだ理由を教えられ、ウィリアムさんは自分の顔を手で覆い突然泣き笑いをし始めた。
「お、お父さん!?」
アリシアは突然笑い出したウィリアムさんに戸惑いの表情を浮かべ、思わず表情を引きつらせてしまう。まぁ、こんな状況でいきなり泣き笑いをし始めたら精神の均衡を崩してしまったのかと思うよな。
だが、ウィリアムさんはすぐに笑う事を辞めた。
「すまなかった、アリシア。父さんが馬鹿だったよ。そうだよな、娘が頑張ろうとしているのに、父親がこんな所で不貞腐れている訳には行かないよな」
「あっ、えっ、う、うん」
どう言う思考様式を経たのかは不明だが、ウィリアムさんはどうやら立ち直ったようだ。先程まで絶望の色に染まり濁ったていた瞳も、微かだが活力を取り戻している。
だが、ウィリアムさんが立ち直ったのなら早々に行動に移ろう。何せ、時間が無いからな。
「(アリシア、行くぞ!)ヴェ、ヴェルさん!? (ウィリアムさんが立ち直った以上、これ以上ここで時間を消費する訳には行かない!)は、はい!」
「ん? 時間が無い?」
俺とアリシアのやり取りを聞いていたウィリアムさんは、俺の発した時間がないと言う言葉に疑問を浮かべ問い質したそうな顔をしているが、俺達にはその疑問に答える時間は既に無い。
思わぬ事で時間を消費してしまった以上、一刻も早く行動に移らないといけないからだ。
「お父さん、危ないから離れていて」
「ア、アリシア? 危ないって、どう言う……」
アリシアは戸惑うウィリアムさんから距離を取り、近寄らない様に注意する。
「(アリシア、一瞬だけ力を使う。タイミングを合わせて、思いっきりジャンプしろ!)はい!」
俺は背中に収納されている翼を大きく広げ跳ぶ準備を進め、アリシアは森の方……戦場に体を向け腰を落とし中腰姿になる。
「じゃぁね、お父さん。行ってくるよ!」
「お、おう? あっ、で、でも、行って来るって言うのはどう言う……?」
俺とアリシアは大量の疑問符を浮かべるウィリアムさんを後ろ目に、返事を返さず行動を開始しする。
アリシアがジャンプする瞬間に合わせ、俺は力……背中の重力制御翼の機能を限定発動した。重力制御翼の力が働き、俺とアリシアに掛かっていた重力が凡そ10分の1に変化する。
叡魔武装の恩恵で強化されたアリシアの脚力と10分の1と言う低重力環境が揃った事で、それは実現した。
「ひゃっ!? た、高い!? (落ち着け、アリシア! お前は今から、ゴブリン共と戦うんだぞ! これぐらいの事で、動揺して騒ぐな!)で、でもヴェルさん! こんなに高く飛び上がれるなんて私、聞いてませんよ!? (俺だって今知った所だよ!? 兎に角、今はこれからの戦いに集中しろ!)は、はい!」
村の上空百数十メートルまで舞い上がったアリシアは、今まで体験した事のない高度感に恐怖していた。まぁ無理もないだろうな、と思う。どう言う理屈か不明だが、体が変化したせいか俺はこの高さまで舞い上がっても一切恐怖心を抱いていない。だが、俺だってこんな高度まで変化前の体で跳び上がっていたら、アリシアと同じ反応をしていただろう事は容易く想像出来る。
「うおぉぉぉっ!? 何だ!? って、アリシア!!」
因みに、下から突然舞い上がった土煙と体を揺らす振動が走った地面に驚きつつ、遥か上空にまで瞬時に舞い上がった米粒大のアリシアの姿を見上げながら絶叫を上げているウィリアムさんの声が聞こえてきた気がするが……気のせいだろう。
背中の翼と広げた手足でバランスをとりながら、俺とアリシアは兵の近くへと降下していく。流石に、行き成りゴブリン達の只中に降りるのは危ないしな。
そして数秒の自由落下の後、俺とアリシアは地面を砕き、盛大に土煙を上げながら着地を決めた。
「(大丈夫か、アリシア?)は、はい! 大丈夫です!」
初めて高々度からの着地を決めたアリシアに、俺は心配気に声をかける。俺のサポートが功を奏したのか、アリシアが無傷で着地を行えたと言う事は分かっているが、精神面のダメージまでは把握しきれないからな。
そんなやり取りを俺とアリシアが行っていると何時の間にか周りを覆っていた土煙は晴れており、俺達の姿は防衛線に残り戦っていた自警団員達に晒していた。
「お前……もしかして、アリシアか?」
「? その声はザックおじさん?」
アリシアが後ろを振り向くと、そこにはサイモンさんとノエルさんを介抱するザックさんの姿が見えた。
「やっぱり、アリシアなんだな? だが、どうしたんだその格好は? もしかして、それは……」
「うん。これは、私とヴェルさんの叡魔武装だよ」
「叡魔武装、だと!? (ヴェル君!? アリシアちゃんと叡魔契約を交わしたのにゃ!?)」
アリシアがザックさんの疑問に答えると、ノエルさんと叡魔武装し半獣半人姿になっているサイモンさんが驚愕の眼差しを俺達に向けてきていた。傷こそ無いが体の前面を夥しい量の血で染め、サイモンさんは動けない様だ。
「サイモンさん!? どうしたんですか、その傷! 凄い出血ですよ!(落ち着け、アリシア。サイモンさんの体を、よく見てみろ!)」
アリシアは知り合いの余りに余りな姿に動揺を隠せず、思わず悲鳴にも似た声を上げる。
だが、そのアリシアの悲鳴を向けられたサイモンさんは小さく笑みを浮かべていた。
「なぁに、ちょっとヘマをしただけさ。ああ、怪我の方は大丈夫だよ。ザックがポーションを使ってくれたからな。傷口はもう塞がっているよ。まぁただ、血を流し過ぎて体が思うように動かないだけどな(そうそう、死にはしないにゃよ)」
「……いやいや、それ全然大変じゃないじゃないですか!?(ノエルさん、それって死に体って言いませんか?)」
重傷を負っているはずの本人達が意外に元気な為、俺とアリシアは思わず呆れてしまう。だが、緩んでいた空気もそこまでだった。
緩んでいた表情を引き締め直したサイモンさんが、鋭い視線を俺とアリシアに抜けてきたから。
「それよりアリシアの嬢ちゃん、ヴェル。叡魔契約を交わしたばかりのお前達が叡魔武装を展開してまでここに来たって事は、ゴブリン達と戦うつもりでここに来た……そう思って良いんだな?」
「……はい(そうです)」
「そうか……じゃぁ、俺達からは何も言う事はない(にゃっ)」
このサイモンさんとノエルさんの反応には、俺とアリシアも少々驚いた。ウィリアムさんの様に、反対されると思っていたからな。
だが、この反応に一番驚いたのは俺でもアリシアでもなく、サイモンさんを介抱していたザックさんだった。まぁ姪が行き成り現れ、叡魔武装を纏ってゴブリンと戦うと言い出したのに誰も反対しないのだから驚くか。
「おいおい、待てよサイモン! お前はアリシアを止めないのか!?」
「ああ。アリシアの嬢ちゃんも、ヴェルも覚悟を決めてここに来ているみたいだしな。俺達が兎や角言うことじゃないさ(そうにゃよ、ザック。 ここでグダグダ言うのは、無粋という物にゃ)」
「……サイモン、ノエル」
サイモンさんとノエルさんにそう言われ、ザックさんは何も言えずに口を閉じた。
「まぁそう言う事だ、アリシアの嬢ちゃん、ヴェル。好きな様にやりな。だが、無茶はするなよ?(ヴェル君、アリシアちゃんを守ってやるにゃよ?)」
「はい!(無論です、任せて下さい)」
俺とアリシアはサイモンさんとノエルさんに見送られ、迫り来るゴブリン達と対峙する。
俺とアリシアは動けないサイモンさんとノエルさん、そしてザックさんを背に庇う様に立ち、ゴブリン達と対峙する。
「(さて、アリシア。本格的に残り時間は無いからな)そう、ですね。(ここからは、一瞬たりとも時間を無駄に出来ないからな、速攻でゴブリン共を倒すぞ!)はい!」
俺は先程上空に跳び上がった時に、自身に備わるパッシブセンサーと光学観測器を使い観測し把握した戦況を、立体平面図として脳内投影しアリサにも見せる。
「(これが、今のゴブリン達の展開状況だ)結構、広範囲に散らばっていますね。(ああ。これを歩いて倒して回っていたら、制限時間内に全てを倒仕切るのは無理だ)……じゃぁ、どうするんですか? このまま放置する訳にも行きませんよね?(勿論だ。だから、さっきやった方法を応用する)さっきのって……まさかヴェルさん」
アリシアは思わず顔を引き攣らせていた。余程嫌なのだろうが、これ以外に今の俺達が取れる方法はないのも事実だ。
「(先程のジャンプの要領で、今度は水平方向に飛んでゴブリン共を倒して回るぞ)ほ、本当にそれをやるんですか?(ああ。残りのエネルギー量と稼働時間を考えると、これ以外に方法はないからな。アリシア、無駄に回せる時間もエネルギーもないから、接敵したらゴブリン達は確実に一撃で倒すんだぞ? 残り時間とエネルギー量から考えて、やり直しは出来ないからな!)は、はい!」
俺とアリシアがこれほど時間を気にするのには、明確な理由がある。
昨日の夜、アリシアと叡魔契約を交わし初めて叡魔武装を展開した時の事だ。叡魔武装を展開すると同時に俺の……ヴェルキュロサスのロックされていた各機能が解放されたのだが、唯一にして最大の問題が同時発生していた。俺も当初はロックされていた機能が開放された事を大いに喜んでいたのだが、詳しく解放された機能を確認していく過程でそれを見付けたのだ。
その唯一の問題点というのが、俺……ヴェルキュロサスのメインリアクターが停止していた事である。メインリアクターが稼働していない事で俺はエネルギー不足に陥り、折角解放された各機能も十全に使う事が出来ずにいた。何とかメインリアクターを起動させようと色々と調べたのだが、メインリアクターを起動させるには莫大なエネエルギーを注ぎ込む必要があると言う事が判明する。
元々ヴェルキュロサスのメインリアクターは外部供給されるエネルギーを用いて起動させるのが推奨される形式らしく、一応外部供給に頼らない起動方法もあるのだがその方法は酷く時間が掛かる方法だった。その方法とは、自身に搭載されている補助動力を用いて超大容量コンデンサーにエネルギーを貯め、メインリアクターを起動するという方法だ。メインリアクターの起動に必要なエネルギー量の蓄積量はは、凡そコンデンサーの60%。安全を考えれば70%は蓄積しておいた方が良いだろう。
試しに一晩、APUで生み出されたエネルギーを全てコンデンサーに貯めてみたのだが、1%にも満たないエネルギー量しか溜まっていなかった。時間経過と蓄積率を比較してみると、APUが生み出したエネルギーを全てコンデンサーに回したとしても1日に1%蓄積するのがやっとだと判明する。つまり、メインリアクターを起動させるには、60日から70日は掛かるのだ。
今回はゴブリンの襲撃という事態と言う事もあり、蓄積されているエネルギー量はすべて戦闘に回すつもりでいるのだが、現在コンデンサーに蓄積されているエネルギー量は1%未満。この蓄積量では、稼働させる機能を戦闘に必要な最低限に絞ったとしても、20分も戦えばコンデンサーは空になる。
つまりこれが、俺とアリシアが言う時間がないと言う事の正体だ。既にウィリアムさんやザックさん達との話し合いで5分程は消費してしまっているので、急いでゴブリン達への攻撃を始めなければならない。
「(跳躍中のサポートは俺がやる。アリシアは出来るだけ地面低くを意識して跳びながら、立体平面図に示した順番でゴブリンを倒して回ってくれ)はい!(良し!じゃぁ行くぞ)」
俺が背中の翼を地面と水平に広げ、アリシアは先程と同じように膝を曲げジャンプの体勢を取った。
さぁゴブリンども、ここからが本番開始だ!
アリシアさん、前線に立つです。




