0 墓穴は突然現れる
人外異世界転生物です。
この作品のテーマは、異世界人ヒロインをリビングアーマーな主人公がサポートしながら渡り歩くと言う物です。
よろしくお願いします!
人生の転機とは、予想もしないタイミングで発生する。その時になって初めて人は、何時までも変わらず続くと思っていた日常の脆さに気が付き後悔し嘆く。
何故、如何してと……。
落とし穴……それは地面を掘削し穴を開け、故意に人を落とす罠の一種であり、狩猟や悪戯等に用いられる。だが、何事にも例外という物はある。誰かを穴に落とそうと誰かが故意に掘削した訳でも無く極自然に、そして前触れも無く唐突に発生する落とし穴も存在した。
そして何故こんな説明をするかと言うと、そんな落とし穴に俺、深澤康介は抵抗する間も無く落ちてしまっているからだ。
「!?!?」
足元がぐらついたと思ったら、次に感じたのは浮遊感。足元に大地を踏みしめていると言う感触は無く、姿勢が崩れた俺は何時の間にか空を仰ぎ見ていた。視界の端に映る人々は俺を唖然とした眼差しで眺め後退るだけで、俺が助けを求めて必死に伸ばす手を掴んでくれようとする者は誰もいない。
伸ばした腕は何も掴むこと無く空を握り、俺の体は重力に引かれ大口を開けた穴の中へと落ちていく。
「……!?!? ……!?!?」
声にならない助けを求める叫びが俺の口から発せられるが、大音量の地面が崩壊する音に掻き消され誰の耳にも届かない。落下していく俺の体はどんどん加速していき、遂に……。
「!!」
……痛みは無かった。ただ全身を貫く衝撃と、次第に自分の体から流れ出ていく熱を感じるだけだ。
そして未だハッキリとした視界を伝える俺の眼に映ったのは、ポッカリと空いた俺が落ちたと思わしき穴から見える青空と、俺に向かって落ちてくる一方通行を示す交通看板だった。
「……」
俺目掛けて落ちてくる交通看板を時間を引き伸ばされた感覚の中でボンヤリと眺めながら、俺は走馬灯として穴に落ちる前の事を思い出していた。前々から有給休暇を申請し、朝から行列に並んで購入した限定販売フィギアの事を。
「(ああ、糞!! せめて今日買った、フル装備完全変形ヴェルキュロサスのフィギアを弄り倒したかったたな!)」
体がピクリとも動かない俺は何とか動く目を動かし、自分の血で真っ赤に濡れ染まった紙袋を見ながらそんな事を考えていた。最後の最後で他に考える事はないのか?と自分でも思わなくないが、怒涛の急展開に混乱し深く思考をする余裕がないので仕方が無いよな……。
そして目を元の位置の戻すと、間近に迫る交通標識が目に飛び込んでくる。
「(落とし穴に落ちて最後を迎えるなんて、考えてもみなかったな……。来世があるなら、落とし穴には気をつけよう)」
最後に俺はそんな事を考えながら、落下してきた交通標識に胸を貫かれた。痛みが無いのは幸いだが、視界が急速に暗くなっていき……俺の意識はそこで途絶える。
【本日正午過ぎ、〇〇町信号付近の歩道が崩落陥没すると言う事故が発生しました。この事故で歩道及び車道には直径5m深さ15mの穴を形成され、該当地点付近の道路は現在も全面閉鎖されています。そしてこの事故では崩落した穴に落下し死亡した犠牲者も1名でており、現在警察や消防による現場検証と崩落の事故原因の調査が行われています。……では、次のニュースです】
闇の底に沈んでいた意識が急浮上し、俺は目を覚ます。どうやら、仰向けに寝転んでいる様だ。
そしてまず最初に視界に映ったのは、蒼穹と言う言葉がピタリと当て嵌る雲一つない青空だった。
「……生きてる、のか?」
俺は自分が目を覚ました事に、まず驚いた。自分の覚えている最後の記憶を思い出す限り、あの状況ではまず助かる事は出来ずに死んだ筈だ。痛みこそなかったが、道路標識が自分の体を貫いた感触を覚えているし、止め様のない勢いで体から熱が一気に抜け落ちていくのを覚えている。
そして……自分の意識が果ての無い闇に意識が落ちていく、あの感覚も。
「……はいっ?」
俺は無意識に、混乱する頭に手を当て様と動かす。その際、手が自然に動いた事にも驚いたが、何より驚いたのは視界に映り込んだ自分の手だった。視界に映り込んだ自分の手は肌色の生身の手ではなく、黒光りする硬質な機械の手……所謂ロボットハンドだった。
俺は慌てて体を起こし、自分の体を見下ろす。所々丸みを帯びてはいるが、明らかに自分……人間の体ではなかった。白いを基調としたボディーカラーに金の縁り、赤青黒の3色によるアクセント……見事なまでにアニメに出てくる様な人型ロボットです。
「……」
俺は無言で立ち上がり、天を仰ぎ見る。
そして……。
「何じゃ、こりゃ!?!?」
俺の上げた絶叫……咆哮が辺りに響き渡った。
そして胸に溜まったものを一通り叫び声と共に吐き出した俺は、落ち着きを取り戻し胡座をかいて地面に座り込んだ。
「はぁ、全く……。一体何なんだよ、これは? 穴に落ちて死んだと思ったら、ロボットに成りましただ? 何処の転生ラノベ小説だよ……はぁ」
俺は溜息を吐く。溜息を吐くロボットって、見た目がシュール過ぎるよな。
そして溜息を付いた俺は顔を上げ、力無さげに顔を上げ辺りを見回す。
「しかも、異世界物か……」
先程は気が動転し気がつかなかったが、周りには天を突かんとばかりに伸びる巨木が乱立しており、青空の先には太陽と2つの月薄らと輝き存在していた。明らかに、地球で見れる光景では無い。
「……どうするかな、これから」
胡座をかいたまま頬肘をつき、俺はこれからの事について考える。どう言う理由で異世界転生……それもロボットに生まれ変わったのかは分からないがこうなってしまった以上、どうやってここで生きていくか考えないと仕方がない。地球に帰れないのかと思わなくはないが、最後の記憶からすると恐らく地球に存在していた自分既は死んでいる筈だ。あの状況(高所落下による全身打撲と致死量の大量出血)で、生きているとは思えないからな。
そして暫く悩んだ結果……。
「取り合えず、少し移動するか。ここでじっとしていても、煮詰まって頭が回らないしな……」
煮詰まった頭ではな何も考えが浮かんでこず、俺は気分転換と周辺の散策を兼ねて森の中を少し歩く事にした。
その結果……。
「……」
散策中に見つけた大きな池を覗き込み、湖面に映った自分の姿を見て俺は固まった。何故なら、湖面に映し出された自分の姿が……。
「……ヴェルキュロサス?」
そう、湖面に映し出された自分の姿は前世で自分が死の間際に持っていた限定販売フィギア……ヴェルキュロサスと瓜二つだったからだ。
異世界人外転生物です。メインヒロインは次話から登場します。
前作(朝起きたらダンジョンが出現していた日常について)とは大分作風が変わっていると思いますが、よろしくお願いします。