文乃side 聖剣を拾ったら懐かれた
文乃視点があった方がいいかな、と思って追加しました。
なんだかんだ言いつつ、文乃もポチを気に入っているみたいです。
「ふーん。で、結局、文乃ちゃんはポチちゃんの面倒を見ることにしたわけだ~」
学校。
放課後の教室。
文乃は隣に座った和花に、今日一日、聖剣――ポチが妙にご機嫌であることの理由を語っていた。
「へ~。ふ~ん。ほ~ん」
「何よ、何か言いたそうな顔して」
「別に~。言いたいことなんて何もないよ~?」
「言いたいことがあるならはっきり言えばいいでしょ」
「え、いいの?」
やっぱりあるのか。
「駄目。聞きたくない」
どうせろくでもないことに決まってる。
「文乃ちゃんって、なんだかんだいって、面倒見がいいよね」
「聞きたくないって言ったでしょ!」
「え、そうだった? 聞こえなかったな~」
てへぺろする和花は、女子の自分から見てもあざとすぎず、かわいく見えるから、余計に憎たらしかった。
「でもでも、そういう文乃ちゃんのことがわたしは大好きだよ!」
「はいはい、どうもありがとう」
「適当に流してるー。本気なのに~」
言いながら和花が文乃に抱きついてきた。
その頭を、文乃はぽんぽん撫でた。
ポチのこと。正直、面倒な奴を拾ってしまった、とは思っていた。
恩返ししたいと言いながら思いきり空回りして。
もうなんで拾っちゃったんだろう、とすら思った。
そして怒りが最高潮に達したのはあの時だ。
自分の元を離れることが何よりの恩返しだと言った時。
かちーん、ときた。
なんだそれ。冗談じゃない。そんなのは恩返しなんて言わない。ふざけんな。
そう思ったら、気がついたら、文乃はどこかに行こうとしているポチを掴まえていた。
そして口にしていた。
『一度拾ったものは最後まで面倒を見る』
と。
まあなんだ。根本のところで悪い奴ではないし、誠実なのだとは思う。
ただ、異世界生活が長かったため、この世界の常識がまったくないだけで。
そういうところを差し引けば、付き合っていける奴だとは思う。
それどころか、楽しい毎日を過ごせるんじゃないか? みたいな予感もしていた。
「どうした文乃? 吾輩のことをじっと見つめて。……はっ、さては」
「な、何よ」
心の内を見透かされたような気になって、文乃は慌てた。
「吾輩を握りしめたくなったのだな」
なっていない。
「仕方ないことだ。武器にとって頑丈さや切れ味も大事が、扱いやすさ、つまり、握り心地というものも常用だったりするのだ。そして吾輩の握り心地はかなりのものだと自負している。あの日、あの時、吾輩を握りしめてしまった君が、吾輩の握り心地の虜になってしまうのも、無理のない話だ」
「聖剣業界だと、どれぐらいの握り心地なの?」
和花が話に入ってきた。
「他の追随を許さないな」
「アロンダイトとか、デュランダルよりも?」
「当然だ」
「またまた聖剣業界に喧嘩売ってるね~。ポチちゃん、怖いもの知らずだ~」
「……いや、怖いものならある」
「へ? そうなの?」
「ああ」
ポチがちらりとこちらを伺うような気配を見せたのはなぜなのか。
「さあ、そろそろ帰ろっか」
文乃が言うと、和花が賛成した。
廊下を歩いていると、
「文乃、和花、大変だ!」
「? どうしたのよ、ポチ」
「この学校とやらにオークとゴブリンがいる!」
「いやいや、いないから」
「そんなことはない、目の前にいるではないか!」
見る。
そこにいたのは校長先生と教頭先生だった。
「……あの二人のこと?」
「ああ、間違いない。あの眼差し、あの体型。こちらの世界の服装で誤魔化しているが、オークとゴブリンだ」
「へ~、オークとかゴブリンってあんな感じなんだ~」
「和花は話に乗らない! ポチ、あの人たちは違うから! ほら、帰るわよ!」
「だが」
「だがじゃない!」
文乃がポチを睨むと、ポチはガクガク震え始めた。なぜなのか。
「わかった。帰ろう」
用事があるという和花と校門の前で別れ、帰り道。
公園の中を突っ切っていると、
「何あれ?」
道の真ん中に何かが突き刺さっているのが見えた。
「あれは……」
ポチが何か言いかけたが、文乃はそれを遮った。
「気にしないで帰りましょう!」
「だが、あれは――」
「いいから! 気にしないの! わかった!?」
やはりポチがガタガタ震えながら、頷いた。本当になぜなのか。
それはさておき。
道に刺さっていたもの。
あれはどこからどう見ても剣だった。
しかも、ポチに似た匂いが、ぷんぷんしていた。
絶対に抜いてはいけない。
抜いたら最後、また面倒くさいことになるに違いないのだ。
そんなのはポチだけで充分だった。