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聖剣、通報される

タイトル回収。


 文乃を怒らせてばかりいる可能性にようやく思いついた聖剣は、絶望に打ちひしがれながら外で一夜を過ごした。


 その間、聖剣はずっと家の前にぷかぷか浮いていた。


 住宅街のど真ん中である。


 そこに一本、剣が浮いている。


 物騒なこと、この上ない。


 ご近所さんが「も、もしもし!? 剣が……剣が浮いてるんですけど! 意味がわからないんですけど……!」と110番するのは、当然のことだった。


 そして日本の警察は優秀であり、通報から現場まで、


 ピーポー、パーポー、


 と駆けつけるまで数分だった。




 ◆




 文乃が腕を組んでいる。


 彼女から放たれるプレッシャーは相当なものだ。怖い。


 理由は単純明快である。


 朝っぱらからおまわりさんに注意されたのだ。


「あー、ペット?? の虐待も犯罪だから。気をつけてね」


 寝起きだったため、寝癖がすごいことになっていた。


 それでも聖剣は彼女の美しさは損なわれないと思っていたが、そこは微妙な乙女心である。


 そういう姿を誰かに見られるのはとても恥ずかしかった。


 ましてや、通報を受けて駆けつけてきたおまわりさんが、このほかイケメンだったのだ。


 某アイドルグループに所属していてもおかしくないレベルで。


 そんな人に寝起きで寝癖がすごいことになっていて、しかもすっぴんを見られた。


 文乃の衝撃たるや、いかばかりであろう。


「その、なんだ。吾輩はまた、君を怒らせてしまったみたいだな」


「そうね。朝っぱらからおまわりさんに起こされるっていう愉快痛快な体験をするとは思っていなかったわ」


 やはり怒っている。怖い。魔王より怖い。


「吾輩は君に拾われた。君には本当に感謝しているのだ。その恩返しがしたいと思っているのに……吾輩は君を怒らせてばかりいる。恩を仇で返すとはまさにこのことだ。だから」


「だから?」


「吾輩は出て行こうと思う」


「え?」


「たぶん、吾輩が君のそばにいないことが、何より君に対する恩返しになるような気がするのだ」


「…………それで?」


 文乃の不機嫌な声。


 やはり自分の存在は文乃に迷惑をかけているのだ。


「それで、とは?」


「うちを出て行って、それでどうするの? どこか行く当てはあるの?」


「行く当てはない。だが」


「だが?」


「この世界のどこかに魔王が出現して困っている人がいるかもしれない。その力になろうと思う」


「魔王なんかいないって言ってるでしょ」


「……そうかもしれない」


 薄々だが、この世界にはモンスターがいないのではないかと聖剣は思い始めていた。


 聖剣は勇者がいて、戦士がいて、魔法使いがいて、僧侶がいて、そしてモンスターがいる。


 それが当たり前の世界を生きてきた(?)。


 だからなかなか受け入れられなかったのだ。


 だが、それが本当なら?


 この世界にとって、自分は無用の長物だ。


 使い勝手では包丁なまくらに負け、照明器具としてはLEDに負ける。


 自分など、いる意味がない。


「文乃には迷惑ばかりかけてしまった。本当に申し訳なかった」


 文乃は何も言わなかった。


 無理もない。


 迷惑ばかりかける聖剣――いや、駄剣にかける言葉など、あるわけがないのだ。


「では、さらばだ」


 ふよんふよん。


 大昔のアニメに出てくるUFOの効果音みたいな音を響かせ、聖剣はその場を離れる。


 否、離れられなかった。


 がしっ!


 文乃が聖剣の柄を掴んでいたからだ。ちなみに『柄を掴む』というのは洒落ではない。本当である。嘘ではない。


 久しぶりに誰かに握りしめられた感覚に、聖剣は喜びそうになる。


 強すぎず、かといって弱すぎず、ちょうどいい。


 癖になる感覚だ。


 変態ではない。


 剣ならば誰しもが抱く、当たり前の感覚だ。


「文乃、そこを掴まれるといけないのだが」


「でしょうね」


 文乃がぐいっと聖剣を引き寄せる。


「あんたはこの世界のことを何にも知らない。わかってない」


 そのとおりなので、何も言い返せない。


「いい? この世界にはこういうルールがあるの。一度拾ったものは最後まで面倒を見る」


 それは犬や猫を拾ってきた時に、母親が子どもに告げる言葉だ。


 つまり、聖剣は犬猫扱いということか?


「だから、あんたの面倒はあたしが見なきゃいけないの。わかった? わかったら返事をしなさい、ポチ」


「ポチ? ポチとは何だ?」


「あんたの名前よ。いつまでも『あんた』とか『聖剣』って呼ぶわけにはいかないでしょ?」


 やはり、聖剣は犬猫扱いだった。


「ポチ……素晴らしい響きだ。本当にそのような素晴らしい名前を吾輩につけてくれるのか?」


「え? あ、ああ、うん。……そんなに気に入っちゃったの?」


「うむっ!」


「そ、そうなんだ……」


 なぜ彼女は「予想外なんだけど」という顔をしているのだろうか。


「何より、君が吾輩のためにつけてくれたという事実がうれしくてたまらないのだ」


 さらに彼女が「やめて! あたしのHPはもうゼロよ!」という顔をしているのはどうしてだろうか。


「吾輩は聖剣! 名前はポチ! 文乃のために粉骨砕身、がんばるのだ!」


「あ、ああ、うん。よろしくね、ポチ」


 聖剣(ポチ)の、文乃のためにがんばって空回りする日々は、まだ始まったばかりだ!

外国で女の子が聖剣を見つけたというニュースを見て思いついたネタです。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!

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