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目を見張らざるをえない金色の髪、ともすれば見入ってしまいそうになるくらい綺麗なブルーの瞳。そんなたぐいまれな容姿を持つ少女に、私はありのままを語った。母親が娼館から『人売り屋』の手に渡ったことを包み隠さず話した。売り払われたのは美しい女性であるわけだ。誰かに無理やり孕まされ、生まれた子がまた新たな『商品』となるかもしれないとも正直に伝えた。すなわち、ニーナ氏が玩具奴隷として生きながらえさせられる可能性もあわせて告げたわけだ。
「こう言ってしまってはなんですが、ままあることですよ。こういったことは、ままある話なんです」
金髪の少女は泣いた。目元をこすりながら泣いた。
「わたし、これからどうしたらいいんだろう……」
「身寄りはないとおっしゃっていましたね」
「はい。ないです……」
「それは残念ですね」
「残念?」
「残念では?」
「残念のひと言で片づけちゃうんだ。残酷なことを言うんだね……」
「事実を述べているだけですよ」
「だけど、ヒドいことを言っているように聞こえるよ?」
「そうかもしれません。だって私は探偵ですから」
「本当に、これからどうしよう……」
言うまでもなく、少女は落ち込んだ様子である。
私は少し考えた。この少女を表に放り出すのは引ける。どうしたって気が咎める。少女が哀れな末路を辿ることは想像したくない。そんな本音が胸の奥からころりと出てきた。
「提案があります」
少女が顔を上げた。ぐすぐすと鼻を鳴らしている。そのうち目の下は赤く腫れぼったくなってくることだろう。
「実のところ、私は助手を欲しています」
「助手?」
「ええ。助手です。誰かに仕事を手伝ってもらいたいんです」
「助手が必要なほど繁盛しているの?」
「繁盛はしていません」
「それでも助手が要るの?」
「ええ。要るんです」
「良くわかりませんけれど、わたし、その助手に立候補しちゃってもいいですか……?」
「そうおっしゃってもらえるのを期待して、切り出しました」
「本当に雇ってくれるの?」
「女性一人を食わせていくくらい、わけありませんよ」
「いいんですか? 本当に……?」
「いいと言っています」
「今からわたしは、もう助手?」
「ええ。この瞬間から、貴女はもう助手です」
一人掛けのソファについている私は、向かいの二人掛けに座っている少女にそう述べた。少女はテーブルを迂回し、そばまで近付いてきた。私の頭から茶色いボルサリーノを奪った。それをかぶり、彼女は「えへへ」と笑う。涙を瞳に含んだまま、それでも「えへへ、えへへ」と笑みを浮かべる。
「この帽子、もらっちゃってもいいですか?」
「貴女には少しサイズが大きいように思いますが?」
「それでもいいんです。欲しいんです。ダメですか?」
「かまいません。助手になっていただいた記念です。差し上げましょう」
「これから……これから本当にお世話になりますね?」
「はい。ところで、貴女の名前を聞いていませんでしたね。調査を進めるうちにわかったのですが、メイヤさんで間違いありませんか?」
「はい。メイヤです。メイヤ・ガブリエルソンです」
「ではメイヤ君。これから仲良くやっていきましょう」
「はい。そうさせていただきます。そうさせてください」
「一々、敬語じゃなくていいですよ」
「ボスには敬語を使うものです」
「ボスではなくてマオですよ」
「……マオさん」
「何でしょう?」
「早速なんですけれど、助手のお願いを聞いてやってください」
「お願い?」
「はい、お願いです。立ち上がって、私の両方のほっぺに、手を当てていただけませんか?」
私は言われた通りにした。私の手の上にメイヤ君が自らの手を重ねる。
「マオさんの手、温かいです……」
「君のほおが冷たいんですよ」




