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とある『胡同』から路地に入ったところにある『剥製屋』を訪れた。店内に所狭しと飾られているのは犬や猫、加えてちょっと珍しい生き物の剥製である。
しかし、『剥製屋』の仕事は、何も犬猫等のオブジェを売りさばくことではない。人間をホルマリン漬けにしてコレクターに売り払うのが本業なのである。『メインの品物』はどこかの倉庫を借りて、そこに保管しているはずだ。非合法である『剥製屋』の生業が咎められないのは、『剥製屋』がいくらか警察に包んでいるからだろう。もはやそうある時点で、界隈を管轄する警察機関は腐敗していると言えるわけだが。
『剥製屋』の主人は白髪の一本すらない禿げ頭の老人である。背は著しく低いが非常に筋肉質な体つきをしている。万力を使って上下からぎゅっと押しつぶしたような肉厚な体型だ。人の剥製を作るわけだ。相当の腕力、体力が要るのだろう。
「金髪の女? 知らないね」『剥製屋』の主人は、いっひっひと笑った。「ちなみに、美人さんかね?」
「その可能性が高いと思われます」
「ここのところ、上玉にはとんとお目にかかっていないね」
「情報料が必要ならいくらか払いますが」
「要らないね」
「やはり、ご存じないと」
「そうね」
「本当ですか?」
「くどいね、にいさん」
「性分でして。ふむ。『剥製屋』さんに流れてはいないということですか……」
「ウチの主な仕入れ先がどこかは知っているね?」
「主に娼館では?」
「そうね。ヤクザから仕入れるね。『イイ女』ならそれはもう高く買うと言ってあるね」
「ともあれ、金髪の娼婦は扱っていない」
「だとすると、行き着く先は決まってるね。いっひっひ。それはそれで悲惨な末路ね」
「私もそう考えます」
「ところでにいさん」
「何でしょう?」
「好きな女はいるね?」
「いませんが」
「女に永久の美貌を求めるなら、ぜひウチに連れてくるね」
「ホルマリン漬けにしてくださるということですか?」
「そうね。一度漬けてしまえば色褪せないね。一生の宝物になるね」
「そういう考え方をするひとがいるからこそ、『剥製屋』という商売が成り立つのでしょうね」
「愛でるなら綺麗な女に限るね。いーっひっひ」
「ご主人」
「なんね?」
「その笑い方、ひどく気持ちが悪いですよ?」
主人はまた、いーっひっひと笑ったのだった。




