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超Q探偵  作者: XI
202/204

44-5

 暗い病室にて。


 背中の処置をされ、左のほおに大きなガーゼをあてがわれているメイヤ君は、ベッドの上で、すやすやと眠っている。命に関わるような傷ではないらしい。だけど、悔やんでも悔やみきれない。彼女が傷つけられるなんて、あってはならない。あってはならないことなのだから。


 どこで事件を嗅ぎつけてきたのか、ミン刑事が訪れた。

 私が座している丸椅子のうしろに立ち、しばらくしてから彼は言った。


「……キレたぜ、俺は」


 ミン刑事はそうとだけ残し、立ち去ったのだった。


 メイヤ君の口元に手をかざす。吐息を感じる。胸の真ん中に触れる。深く安らかな呼吸をしていることがわかる。


 私はぎりっと奥歯を噛みしめた。


 まさか、本当に自らの身に、いや、自らより大切なヒトの身に、火の粉が降りかかってくるとは思っていなかった。

 

 そう。

 私の考えは甘かったのだ。


 体の力が抜けない。

 息をするのも忘れてしまいそうになるくらい気も張ったままだ。

 奥歯をぎりぎりと鳴らすのは、到底、やめることはできそうもない。


 気づけば口を噛んでいた。

 唇の端から血が流れ出る。


 出入り口の引き戸が静かに開いたのは、その時だった。


 そちらに目を向けると、「やあ」という気さくな微笑、挨拶。 


 白でのシャツに白いズボン。白いロングコート。

 肌は陶器のように白く、ポニーテールに結われた髪は透き通るように白い。

 紅茶色の瞳は神秘的で、暗がりにあっても光を放っているように見える。

 そして、驚嘆するほど異常なまでに整った顔立ちは天使を思わせる。


 そこに立っていたのは、間違いなく『白い狼』だった。


 私は怒りに満ちた目で彼を射抜く。


「そんなに怖い顔をしないでくれるかな。彼女を生かしておいてあげた恩義を感じてほしい」


「どうして、ここに……?」

「君の根城から最も近いのがこの病院だ。身分は少々偽ったけれど、面会をしたいと強く言ったらすんなり通してもらえた。ナースステーションのニンゲンも、まさか連続殺人の犯人が見舞いにくるとは考えていなかったんだろうね」

「彼女は名前を吐いたんですか?」

「それだけは教えてくれたよ。メイヤさんっていうんだね。可愛らしい名前だね」


 私がさっと懐に手を忍ばせると、狼は「やめておいたほうがいい」と素早く言った。「この距離だと拳銃よりナイフのほうが速くて確実だ。それがわからないほどほうでもないだろう?」と不敵に笑った。


「どうして彼女を標的に?」

「そこにわけを求めることはナンセンスだと考えるべきだ。だって僕は君達が定義するところの無差別殺人鬼なんだから」

「とどめをささなかった理由は?」

「彼女はまだ死ぬべきではないと感じたんだ。それだけだよ」


「場所を変えようか」と狼は言った。「安心しなよ。僕にはもう、彼女を傷つけるつもりはないから」


 相手はかたきなのに、明確な敵であるのに、私には彼の言葉が嘘だとは思えなかった。


「場所を変えようか。行こう。酒でも飲もう」


 狼は目を細めたまま、しれっとそう言ってのけたのだった。


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