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超Q探偵  作者: XI
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1.『ままある話』 1-1

 街は夜になると活気を増す。大通りにある大きな飲食店、それに性を満たす店などが掲げる看板には明かりが灯り、『フートン』の露店の軒先に吊るされたランプにも火が入る。


 街を散策し、『なじみ』の店に顔を寄越して回った。別にそんな真似をする必要性はないのだが、基本的に暇なのである。なので時にはあちこち歩いて回ったりもするのである。貝に魚、それに肉は足が早い。ある程度保存のきくキャベツだけを買って、住まいである事務所に戻った。


 回転椅子に座り、蛍光灯のもと、新聞に目を通す。新聞といっても、今日のものではない。二日前のものである。よりスピード感のある情報を得ようとするのであればその日の新聞を朝に入手すべきなのだが、発行されたばかりの新聞はどうしたって値が張る。加えて現状、新しい情報に用事はない。


 我が事務所のドアがコンコンコンとノックされた。尖った硬質な音だった。だから来訪者は女性なのだろうと予感した。


 ドアの向こうから小さな声。やはり女性の声。「あの……いらっしゃいますか? ドアを開けてもよろしいですか……?」と、か細い聞こえてきた。

「ドアに鍵はかかっていません」客の耳に届くよう、少々大きな声で返答した私である。「どうぞ。中へ」


 恐る恐るといった感じで部屋に入ってきたのは、金色の髪が実に綺麗な女性だった。いや、女性というには若すぎる。少女と呼ぶべきだろう。十六、あるいは十七の容姿だ。年を重ねるごとに美しくなる。そんな風貌だなと感じた。


「探偵さん、ですよね……?」

「ええ。どこでそれを?」

「近所のかたから伺いました」

「ふむ。そうですか」


 看板を立てているわけではない。熱心に営業活動をしているわけでもない。ただ誰かに「何をやっているのか?」と問われるようなことがあれば、正直に「探偵をやっています」と答えるようにはしている。たとえば、一所懸命、額に汗して働く人間からすれば、探偵業を営んでいる男なんて道楽者に等しいだろう。そんな道楽者だからこそ、むしろ顔と名が売れるのだ。珍しい職だからこそそれなりに知名度がある。この界隈で「探偵を探している」と訊いて回れば、真っ先に私の名が挙がるはずだ。


 私は新聞をめくる手を止め、「どうぞ」と言って、少女をソファセットへと促した。少女はおずおずといった感じで、安い合皮でできている二人掛けのソファに腰を下ろした。端っこにちょこんと、である。


 ベッドも風呂もないからだろう。その少女はそんな事務所を見て、「ここで暮らしていらっしゃるのですか?」と不思議そうに訊いてきた。

「そうです。私の寝床は、今、貴女が座っている二人掛けのソファです」

「貧乏、なのですか……?」

「あまり羽振りがいいとは言えませんが」

「そうですか……」


 私が「ところで、依頼ですか?」と尋ねると、少女は「はいっ。はい、依頼です」と、飛びつくように返事をした。上目遣いで、「ダメ、でしょうか……?」と問うてくる。私は「いいえ。かまいませんよ。無論、話によりますが」と返事をした。


 少女がパッと顔を明るくした。


「本当ですか? 本当にお話を聞いてもらえるのですか?」

「そう言っています。早速、そのお話とやらをうかがってもよろしいですか?」

「実は……母の姿が、ここ三日ほど、見えないのです」

「ほぅ」

「探してはいただけませんか?」

「時にお母様は娼婦ですか?」

「えっ」

「貴女はとても綺麗な金髪をされている。きっとお母様もそうなのでしょう。この街においてそういった容姿をお持ちのかたは、良くない意味で需要がある」

「やはり、そういうことなのでしょうか……?」

「お母様からお仕事の話をされたことは?」

「日中は花屋で働いています。それは知っています。だけど、夜に出勤することについては、何も聞かされていなくて……」

「だとすると、夜の仕事は貴女に明かしたくなかったのでしょう。明かしたくない職業に就いていた」

「そうなりますよね……」

「娼館自体は合法ですが、仕切っているのはヤクザです。要するに、お母様は悪い連中と少なからず接点があったということです」

「それは、なんとなくわかりますけれど……」

「本件について、警察にはお話を?」

「持っていきました。でも、真面目に取り合っていただけたようには、どうしても思えなくて……」

「一つ、よろしいでしょうか?」

「何ですか」

「無理に敬語を使われないほうがいい。不慣れなことに関して、私は怒ったりしませんから」

「そうなのですか……?」

「貴女はまだ若い。変に礼儀正しくある必要はありませんよ」

「……じゃあ、ちゃんと言いますね?」

「ええ」

「わたしのお母さんを探してよぅ! ちゃんと見つけてよぅっ!」


 少女は大きな声を発した。涙がまじった目をこちらに向け、やがて大きなブルーの瞳から大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。


 だが、彼女がどうあれ、私は探偵だ。


「お母様を探して欲しい。それは依頼として受け取って良いのですか?」

「えっ」

「私も慈善事業で探偵を営んでいるわけではありません。相応の報酬を確約していただかないことには働きようがありません。それくらいは貴女にだってわかるでしょう?」


 少女はまたうつむく。ややあってから、バッと顔を上げた。


「依頼料、払います。たとえどんな手を使ってでも」

「依頼料を捻り出す手段。それってなんなのですか?」

「それは……」

「例えば、私が貴女の恋人であったとするならば、どんな手を使ってもなどという表現は差し控えてもらいたいと考えるでしょう。貴女のような少女が体を売るなんて、あってはならないことですよ」

「でも……」

「いいでしょう。わかりました。お引き受けします。依頼料及び調査に関する費用は、しかるべき時に請求することにします」

「しかるべき時に、ですか?」

「ええ。貴女の決意を見ましたので。私はとりあえず、動こうと思います」

「いいんですか?」

「力になりますよ」

「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 ただ商談が成立しただけなのだから、何度も頭を下げてもらういわれはない。というかやめて欲しい。女性、特に少女にぺこぺこされると、どうにも居心地が悪いのだ。


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