3-2
警察署の最寄りにある喫茶店で、ミン刑事と落ち合った。私の向かいに座る彼は「おごってやる」と言い、だからメイヤ君は遠慮することなくオレンジジュースを注文した。果汁百パーセントの高級品である。ミン刑事自身はコーヒーをオーダーした。私はお冷やで充分なので、特に注文はしなかった。
「で、なんですか?」私はおしぼりで手を拭きながら訊いた。「速やかに用向きを伺いたいのですが」
一回り大きなサイズの茶色いボルサリーノをかぶっているメイヤ君は、私の隣でメモを取るべく構えている。
「男が娘を殺した。男の身柄はすでに拘束してある」
「父親が血の繋がりがある子を殺したということですか?」
「そうだ。犯人は『貝屋』の主人だ」
『貝屋』とは文字通り、貝の殻を剥き、貝を売る店のことである。
「『貝屋』のご主人ですか。他に情報は?」
「やっこさんは、娘がやかましかったから殺したと言っている」
「やかましかったから?」
「ああ。とにかくやかましかったらしい」
「文字通りやかましい、何かとうるさいお子さんだったと?」
「娘の友人だという人間を数名当たった」
「ご友人に? 奥様には訊かなかったんですか?」
「五年前に亡くしたらしい」
「なるほど。で、ご友人いわく、なんと?」
「朗らかで元気な娘っ子だったということしかわからなかった」
「外向きには明るく快活であっても、父親には反抗的な態度ばかり取っていたというだけのことでは?」
「いや、どうにもそういうことじゃないらしい」
「父親がそう言っているんですか?」
「ああ」
「では、父親はどうして娘を指してやかましいと言ったのか。そのへんの事情を、その父親から直接訊き出されれば良いのでは?」
「口を割ったってんなら何も問題はないだろうが。やっこさんときたら、『どうせ信じてもらえるはずがない』。その一点張りなんだよ」
「だから、私に動機を訊き出せと?」
「目先を変えてみようと思ったんだよ。お前は無駄に博識だ。そんなお前としゃべっている内に、やっこさん、ぽろっと何かを漏らすかもしれねー」
「無駄にと言われると多少傷つきますね」
「嘘こけ。金なら払ってやる」
「いえ。個人的に興味がわいてきました。お代は結構です」
「えーっ」メイヤ君が不満そうな声を発した。「こっちは仕事をするのです。なら、相応の報酬はいただかないとダメですよぅ」
「ふむ」私は小さくうなずいた。「確かに報酬をいただいたところでバチは当たらないね」
「そうですよ。もらえるものはもらっちゃいましょーっ」
「金を払ってやると言ってる。無論、首尾良く何かを訊き出せたあかつきには、という条件は付くがな」
「とりあえず、面会させてください」
「ああ。わかった」




