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超Q探偵  作者: XI
10/204

2-4

 改めて『フグ屋』の暖簾をくぐった。


 私とメイヤ君がアパートから『フグ屋』まで移動する間に、主人は娘から電話ですべてを明かされたらしい。主人は泣いた。「良かった、良かった」と言って、真相が得られたことを大いに喜び、おいおい泣いた。報酬として分厚い封筒が用意されていた。遠慮なくいただき、懐におさめた。大して働いたわけではない。だから、全額受け取るかどうか迷った。だが、それも刹那のこと。基本的に金があるところからは、ふんだくる主義だ。

 

 主人いわく、警察に裏金を渡して、留置所にいるハン氏に戻ってきてもらうとのことだった。その上で、やはり娘婿として迎え入れるという話だった。ベストな考え方だろう。明らかに悪いのは娘に絡んでいた男なのだから。とはいえ、店が毒を出したという話は少なからずあたりに広まるに違いない。すでに広まってもいるだろう。その点については、主人が信用の回復に駆けずり回らなければならないはずだ。


 『フグ屋』からの帰路、私の隣をとことことついてくるメイヤ君である。


「なるほど。こういったかたちで探偵は事件を解決するものなのですね。勉強になりましたですよ」

「メイヤ君」

「はいです」

「君は今回の案件について細かくメモをとっていたようだけれど、結局それはなんの役にも立たなかっただろう?」

「まあ、そうですね。本件の場合はそうでした」

「いつか役に立つと思っているのかい?」

「なりますよ、きっと。何かの折にはエビデンスになるはずです」

「エビデンスだなんて、君は難しい言葉を知っているね」

「ボキャブラリーは豊富なほうなのです」

「いいことだ」

「でしょう?」

「うん。ところでなんだけどね、メイヤ君」私は彼女の恰好に注目する。「短いスカートばかりはくのはやめたほうがいい」

「それってどうしてですか?」

「異性の邪な欲求を掻き立てる要因になりかねないからだよ」


 メイヤ君が自宅からウチへと転がり込んでくる際、私も引っ越し作業に駆り出された。プラスティック製の収納ケースをを運び出すのを手伝われされたのだ。計二つ、それぞれ三段重ねでそれなりに重かった。彼女はいわゆる衣装持ちなのだ。


 彼女はやはりとことこと歩き、やがては私の隣に並んだ。


「わたしはミニスカはやめません」

「それってどううしてだい?」

「脚がすーすーしていないと気持ちが悪いのですよ」

「男の私からすると、わからない感覚だね」

「まあ、そうでしょうね。それにしても、良かったのですか?」

「何がだい?」

「ハンさんと娘さんは、ヒトを殺すことを企て実行した。それって立派な殺人事件です。なのに、マオさんは警察に話を持っていくつもりはないのですよね?」

「持っていったところで、私は得をしないからね」

「ということは、殺人を見逃すということですよね?」

「法的な善悪においては、私のやり方は間違いなんだろう。でも、私は自身の価値観を優先するタチなんでね」

「おぉっ、それってなんだかとってもカッコいいセリフです」

「綺麗ごとを言っているつもりはないんだけど」

「いいことはいいこととして押し通す。だけど悪いことは見過ごさない。要するに、マオさんってそうヒトなのですね」

「そうかい?」

「そうなのです。で、しょうもないっていうか、つまらないヤクザさんですか? それってどんなヒト達なのですか?」

「ケチくさい連中だよ。既得権益にしがみついているだけさ」

「取るに足らないヒト達だってことですか?」

「その通りだよ。しかし、そんな奴らが幅を利かせているのが実態だ。だからこの街は、こんなにも胡散臭い」

「マオさん」

「ん?」

「わたし、この仕事が好きになれそうです」

「それはまたどうしてだい?」

「事件の真相を突き止める。それって凄くカッコいいことじゃないですか」

「そうかなあ」

「そうですよぅ。いつか私も事務所を開きたいなあって思っちゃうくらい、カッコいいです」

「今すぐにでもいい」

「はい?」

「君が主人で私が助手でもいいと言っている」

「そんなそんな、滅相もない。わたしはまだまだ駆け出しですから」


 メイヤ君は私の前方に躍り出ると、茶色いボルサリーノの左右のふちを掴んで、ぺこっとお行儀良く頭を下げた。


「マオさん、これからも色々とご指南いただきたいのです。よろしくお願いいたします」


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