4
朱里が気を失うとともに、神々しい光も消えた。
そして、それと同時にムシ達もすべて姿を消していた。
中央には、コウと飛鳥が肩で息をして、ひざまずいているだけだった。
初めに口を開いたのは、コウだった。
「この娘がライグーンの使い手だったとは。しかも半覚醒の状態でこれ程の力を出すなど…ますます気に入った」
いままでの人の良さそうな雰囲気は微塵もない傲慢そうな口調で言う。
その様子に飛鳥も気にしないように、コウの元に行き声を掛けてきた。
「剋苑様、大丈夫ですか?」
飛鳥の方も、先程のわがままな若様の様子は微塵もなく、口調をがらりと変えコウを気遣う。明らかにその態度は主人に対してのものだった。
「ああ。しかし、ムシの影響を受ける我々にも、かの光は作用するらしいな」
体中に倦怠感が襲っていた。それは飛鳥も同様だった。
「そのようですね」
顔をしかめて言う。
その様子に剋苑は面白そうにしたが、改めて朱里に視線を移し「ますます欲しくなった」と呟いた。
それは、子供がおもちゃを欲しがるような、気軽な言い方だった。
それに飛鳥は、眉間にしわを寄せて言った。
「しかし、その力、確実に我々の脅威になりますが…」
次の瞬間剋苑の顔に、残忍な表情が浮かんだ。
「そうだな。おしいが今始末しておく方が無難だろう」
その言葉に、飛鳥は表情も変えないで「御意」と答えて、朱里に近づいた。
その時---
どこからともなく光が飛んできて、朱里を包んだ。
次の瞬間光の中には臣が現れており、朱里を大事そうに抱え上げていた。
「うちの子が世話になったようだね」
いつもよりかなり低い声で威嚇しながら、二人に言った。
「ゼロか。かの組織の総裁自ら登場とはな…」
剋苑は面白そうに言った。
それに臣はますます不機嫌になっていく。
「元だよ。そちらもおいたが過ぎるんじゃないか?こんな用意周到な罠まで仕掛けて」
その言葉に剋苑は「くっくっくっ」と笑った。
「お前のことだ、分かっていて乗って来たのだろう?」
「貴様が関わっていると分かったら、この子を行かせることなどしなかった」
吐き捨てるように、言う臣に剋苑は再び可笑しそうに笑った。
「その娘がやはりお前の後継者なのか?」
剋苑はそう問うたが、臣は心底嫌そうな顔をして答えた。
「そんなこと、お前には関係ないことだろう?」
その答えに、剋苑はふっと笑った。
「そうだな。しかし、その娘、我も気にいった。いつしか迎えに来るとしよう。それまで、大事に育てるがいい」
そう言い捨てると、指を鳴らした。次の瞬間大量のムシが剋苑と飛鳥をとり囲み、次の瞬間ムシ達もろとも消えていた。
「誰が…。つぎに会った時にはぶっ殺してやる」
殺意むき出しの顔で、二人が消えた空間を睨んで吐き捨てた。
「う…臣さん…」
その時、朱里が意識を取り戻したように身じろいだ。
「朱里」
臣は先程剋苑達に対する態度とは、180度変えていとおしそうに朱里の名を呼んだ。
「ん…なんか合った…?」
夢うつつのままで、何が起こったのかまだ理解出来なかったようだ。ただ、優しい緑の光に包まれて、朱里は心地よさを感じていた。
「何もないよ。さあ、今はまだお休み」
臣は綺麗な笑みを浮かべて、朱里にささやいていた。
「うん…」
そのまま、安心したかのように、再び眠り始めた。
「そう、まだ知らなくてもいいのだよ…まだね」
囁くように、朱里に言う。
それは、彼女の過酷な運命から、少しでも遠ざけようとするようにも思えた。
「やはりその子が、貴方の後継者なのね?」
そう言うのは、どこからともなく現れたナナだった。
途端に臣は険しい顔に戻った。
「組織に報告するのか?」
ナナの問いには答えずに聞いた。
「ふふふ、貴方に借りを作るのもいいわね」
楽しそうにナナは言った。
「お前もくえない女だなぁ」
その借りがどのような大きな物になるかは、臣は想像する気もならなかった。
ただ今はまだ、この子が過酷な運命に出会うその日が、少しでも遅ければいいと願うのみだった。