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中に入ると、あたりは静まり返っていた。
とりあえず、ムシは見当たらなかったが、安心はできないと朱里は銃を構えながら警戒する。
その後を、なんとか後ろに付いてくるように言い含めて、しぶしぶ付いてくる飛鳥とコウがいた。
「ちぇ~、せっかく来たのに全然出てこないじゃあないか」
文句言う、飛鳥に朱里は「うるさい」と怒鳴った。
とにかく、この飛鳥って男は黙っていることがなかった。
それを執事のコウが諌めるのだが、全然聞く様子がない。
すでに朱里はいらいらが頂点に達していて、早く仕事を終わらせようと朱里はムシ探しに集中した。
ところどころ僅かだが、壁が齧りとられている所があるようだった。
それから、推測するにまだ初期段階の小型のままのムシだろう。
朱里は目を凝らして、隙間など注意深く見ていた。
その時―――
飛鳥が左を指差し、声を上げた。
「朱里、そこ!」
その言葉に朱里はすかさずターゲットを確認した。その方向には、小型のままのムシが2匹中央の柱に齧りついていた。
それからの朱里の行動は素早かった。二人に下がるように言いながら、ムシ目がけて銃を発射した。
それはムシのいた場所に命中し、青い炎を上げ燃え上がる。その中の虫達は、次の瞬間所滅していた。
そうしてその後、すぐに炎が消えるのだが、後には燃えた様子が少しもなかった。
「なんで、あんな強い火だったのに…」
飛鳥の驚いた声に、朱里は得意げに答えた。
「これは、普通の銃とは違うのよ。特殊な弾が入っていて、ムシのみを焼き尽くすことが出来るんだから」
飛鳥は凄い!と驚き、ムシのいた場所に掛け寄って興味深く見ていた。
朱里はほっと胸をなでおろした。
とりあえず、報告の2匹は処分したし、後は他にいないか確認するだけで任務が完了する。特に変化した様子もないから、たぶんもういないだろうと言う気持ちがあったからだ。
「朱里様は、本当に凄いですね」
コウが声を掛けてきた。
「朱里様はやめてください。朱里でいいですよ」
普段呼び慣れてない言い方をされて、くすぐったくなった。
「嫌、このようなことを私と対して変わらないくらいの女性がやるなんて、本当に驚きました。しかし、あなたは何故ビーデルハンターになろうと思ったのですか?」
コウの賛美に照れながらも、朱里は答えた。
「私は孤児だったんですけど、拾ってくれた人がハンターをやっていて、少しでも力になりたかったんです」
朱里は臣の事を思いながら答えた。もしも、臣が拾ってくれなかったら、自分も世に多くいる少年ギャングになっていたかも知れなかった。
その答えに、コウは目を細めて「そうですか」と微笑みながら答えた。
「では、これからもその方の為に、ビーデルハンターをやって行くのですね?」
「はい」
朱里が元気に返事をした時、目の前にノイズが走った様に揺れた。
(えっ…)
それは一瞬のことで、すぐに何もなかったので気のせいとも思ったのだが、朱里はなんだか嫌な胸騒ぎを覚えた。
その時―――
「おお、なんだ、これ?」
っと、飛鳥が大声を上げて、朱里を呼んだ。
どうやら、ムシがいたところに出来た穴を発見したようで、朱里もすぐに確認しようと飛鳥の元へ向かった。
しかし次の瞬間、その穴から大量のムシ達が飛び出して来た。
「ギャーーーー!」
飛鳥は大量のムシ達に囲まれて、叫び声を上げた。
「飛鳥!」
「飛鳥様」
二人は飛鳥に声を掛けた。
とりあえずは、簡易シールドが効いているので、食われることがないようだが、飛鳥はパニックを起こしていた。
「朱里様、何とかしてください」
コウの言葉に朱里はリュックから、武器をとり出していた。
「飛鳥、コウさん、目を閉じて!」
そう叫んで、朱里はボールの様なものを飛鳥の元に投げた。
ボールは飛鳥の近くに当たり、次の瞬間に目を開けることが出来ないくらいの閃光が目の目を覆った。
閃光が収まると、ムシ達は一時フリーズしているかの様に動きを止めた。
その瞬間に、朱里は飛鳥に掛け寄り、ムシの穴から離れさせた。
「殺したのか?」
飛鳥の問いに朱里は、首を振った。
「動きを止めただけよ」
そう答えると、すぐさまムシのいるところに向かって銃を連打した。
青い炎上げ、止まったムシ達がどんどん消滅しているのだが、すでに動きだせるムシ達もおり、どこからともなくどんどん集まってきて、朱里の攻撃だけでは追いつかなかった。
(くぅ~、すでに巣が出来ていたなんて…)
先程飛鳥が発見した穴は、間違いなくムシの巣だった。
今は小型のものたちだけがいるようだったかが、これから大型のムシ達が出てくる可能性が高かった。
その時、コウが飛鳥を見て声を上げた。
「飛鳥様、シールドの色が…」
朱里も慌ててみると、緑の光だったシールドが薄い黄色に変わっていた。
(先程のムシの攻撃で、シールドの力が弱まったかもしれない…)
シールドが解けた瞬間、飛鳥の死は免れないだろう。
ムシ達もそれが分かったのか、次の瞬間に再び飛鳥に向かっていた。
「飛鳥…」
「うわぁぁぁぁ」
すでに閃光弾もなく、飛鳥がいる限り銃を撃つことも叶わなかった。
朱里はどうすればいいか考えるのだが、何の案も浮かばない。
(こんな時臣さんがいたら…、私に力があったなら…)
視線の先には、ムシに取り囲まれる飛鳥。
朱里は今、切実に力を願っていた。
すべてをうち砕く力が欲しい…その強い願いは、朱里の中で膨らんでいった。
その願いが最高潮に達した時、朱里は頭の奥で鍵が開くような、大きな音を感じた。
次の瞬間には、緑の眩くまでの光がフロア全体に広がっていた。
その光とともに、すべての音が消え、朱里は気づかないうちに意識を手放していた…。