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ライトオン  作者: 蒼空
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 ムシの発生から1年。民間のビーデルハンターとして名を掲げる事務所は、何十社と広がっていた。

 すでに、ビーデルハンター協会が作られており、ムシの情報交換はもちろんのこと、認定を受けた者のみビーデルハンターと名乗れるなどの規約がいろいろ作れていて、その活動は世に知られることとなっていた。

 そのビーデルハンター協会の中でも、末席に位置する小さな事務所が渋谷にある。

 その事務所の名を「ライトオン」と言う。

  社員3人の上、認定を受けているハンターが2人と言う少人数のため末席に追いやられていたが、その所長の力の凄さは、他のハンター達も一目置くこととなっていた。

 そのライトオンで、この度3人目のハンターが誕生した。


  「う~、緊張する~」

  朱里はお腹を押さえて、唸っていた。

 ビーデルハンターの資格をようやくとれ、本日初めての仕事となる新米ハンターは、数日前からこの調子だった。

  「そう言い続けて、どのくらい経つのですかぁ~?」

  少し呆れたようにしながら、所員の陽は所長の臣に入れたお茶を手渡しながら朱里に声を掛けた。

  「陽君、だって~」

  年上の陽を捕まえて君付けもないのだが、その物腰の柔らかさや、童顔の顔立ち、誰に対しても敬語を使う所から、朱里はいつしか陽を君付けで呼んでいた。それには陽にも異論はないようで、そのまま受け入れている。

  「所長、こんな調子では心配です。今回も私がついていきましょうか?」

  今まで教育係として自分の現場に朱里を同行させて教えていた陽だけに、そう臣に提案した。

  「わぁぁぁぁ。それは、ダメダメ!」

 その言葉に朱里は慌てて否定した。

  「せっかく、資格取れて一人で仕事出来るようになったんだから。それにいつまでも半人前ではだめでしょ?」

 その言葉に臣はお茶をすすり、呑気に「そうだねぇ~」と答えた。

  「うちも厳しいからねぇ~。私は使い物にならないし~」

  「所長はいいのです。その術の特性上命を削ることになるのですからね」

  臣の言葉に、陽は少し厳しい口調で言った。

  「はははは、それに武器の方はからっきしだからねぇ~」

  臣が言ったことに、二人はうんうんと頷いた。

  本来ムシは生命力も強く、日々進化していて、すでに拳銃・火炎放射の類は効くことが出来なかった。現在では特殊な薬品を用いた武器を使用して、虫を消滅させるのが一般的だった。

  対して所長である臣は、特殊能力の持ち主だった。世界に数人しかいないライグーンの使い手で、自ら作り出す光で虫を消滅させることが出来る。その光の大きさはその人によってだが、臣の場合誰よりも大きいものを出すことができた。

 ただ、その光はもろ刃の剣。自分の命を削って出しているだけに、仕事を請け負うと数日間は体調を崩すと言うもので、協会の強い要請がない限りは臣がハンター業を行うことはなかった。

 そのため、陽一人の仕事での稼ぎで事務所を運営しており、いつも財政難で苦労していたのだ。

  「だからこそ、私が一人前になって、ライトオンを引っ張って行かなきゃだめなのよ!」

  力強く握りこぶしを作って、朱里は宣言した。

  陽も「おおー」と言いながら、パチパチと拍手をする。

  「そうです、その息です!さあ、約束の時間に遅れますよ」

  時計をみた朱里は「まずい!」と呟いて、「では、所長行ってきます」と臣に挨拶をした。

  「ああ、頑張るんだよ~」

  相変わらずのほほんとした口調で臣が声を掛けた。

  「最初が肝心ですからね。弾の充填だけは忘れずに!それから…」

  陽の忠告が続きそうだったので、朱里は「分かっている!」と遮りながら、足早に事務所を出ようとした。

 ちょうどその時、入れ違いに一人の美しい女性が入ってきた。

  (お客さんかな?)

  見覚えのない顔に朱里はそう思ったが、頭を軽く下げただけで出ていった。

 その女はどこかしら朱里を値踏みするように、後ろ姿をじっと見ながら、今度は臣に話しかけた。

  「ふふふ、あれがゼロの秘蔵っ子なのね?」

  女の言葉に臣の顔からは、先程の穏和な雰囲気が消え去っていた。

  「ナナ、ここでは私は臣と言う名なのだが…」

  冷めた表情で冷たく言い放つ。その変わりように、陽は慣れたもので特に気にしてないようだ。

 そして、それはナナも一緒だった。

  「ふふふ、そうだったわねぇ~。それで、あの子があなたの後継者になるのかしら?」

 ナナは意味ありげな、魅力的な微笑みで臣に聞いた。

  「さあな」

  誰もが虜になるはずのナナの笑みは、臣には全く通じてないようで不機嫌そうに答えただけだった。

  「本当、くえない男ねぇ~」

  素直に答えを返さない男に気を悪くする様子もなく、ナナは可笑しそうに笑った。

  「そんなことは、時が経てば分かるはずだ」

 もしかしたら、今度の事件で…と言う言葉を、臣は飲み込んだ。

 この女に情報を与えてやる気は、さらさらなかったからだ。

  「そうねぇ、楽しみに待っているとするわ」

 どこか含みのある女の言葉に眉をひそめながらも、臣はナナに用件を促した。

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