女子高生と婚約する方法
「じゃあ夕ちゃん、また明日ね」
うちに遊びに来ていた真子ちゃんを送り出したあと、娘の夕がこちらを向いてつまらなそうな顔を見せた。
「どうした? 真子ちゃん帰っちゃって寂しいか」
「んーん、真子ちゃんがお母さんになってくれたらいいのになあって」
思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「なんだいきなり。夕はお父さんがお母さん以外の人と結婚するの嫌がってたじゃないか」
妻が死んでもう5年になる。再婚のことは周りからも言われていたし、俺も考えないことはなかったが、夕が嫌がっていたのでそのつもりはなかった。なのに突然これだ。
「真子ちゃんはいいの。夕は真子ちゃん好きだもん」
「夕が真子ちゃんを好きなのは、お父さん関係ないだろう」
「だって、お父さんと真子ちゃんが結婚したら、夕とずっと一緒にいられるでしょー?」
そういう事か。
真子ちゃんは同じマンションに住んでいる女子高生だ。……別に俺が連れ込んだわけじゃないぞ。
夕が家の鍵をなくしてしまって、ドアの前で俺の帰りを待っているのを見て声をかけてくれたのが知り合ったきっかけらしい。
それからは、夕と気があったのか、ちょくちょく遊びに来てくれている。夕はまだ小学生低学年で、家で一人にしておくのも不安だったので正直助かっているのだ。
だから結婚というのはさすがに飛躍しすぎだ。そもそも俺と真子ちゃんはあんまり接点ないしな。
「うーん……。いやー、別にお父さんと結婚しなくても、夕が真子ちゃんと一緒にいればいいだけのことだろう。友達なんだろ?」
「それじゃだめなの。真子ちゃんとずっと一緒にいたいの」
「じゃあ夕が真子ちゃんと結婚すればいいだろう」
「女の子同士じゃ結婚できないんだもん。みんな言ってたもん」
「えーと、お父さんはあんまり詳しくないけど、最近は女の子同士でも結婚できるんだぞ」
……出来たっけ。どうだったかな。適当な事を言ってしまった気がするぞ。
「ほんと!? やったあ! じゃあ夕、真子ちゃんと結婚するからね! お父さんなんかにあげないから!」
ん、まずい。目がキラキラしている。ここで嘘でしたとか言ったら娘に軽蔑されてしまう。早くも反抗期に……!? 怖い!
いやまて落ち着け。夕が結婚できる歳になるころには同性婚もちゃんとできるようになっているに違いない。大丈夫、大丈夫だ。たぶん。
「なんかって酷いなあ。でも結婚するなら大人になってからだぞー。それまで待てるかな」
「うーん……真子ちゃんと結婚できるなら我慢する」
「あー、それにだな、夕がそのつもりでも、真子ちゃんの気持ちもあるからな? ちゃんと真子ちゃんに聞くんだぞ」
まあ結局そこなんだよな。真子ちゃんだって女子高生なんだから彼氏とか好きな人くらいは居るだろうし。
女子高生に娘のややこしい問題を丸投げするのは申し訳ないと思うが、ここは当人同士ということで、真子ちゃんになんとかしてもらおう……。
「わかってるもん。真子ちゃんも夕のこと好きって言ってたもん。 ……そっか。だれかに取られないように婚約しなきゃ!」
明日は修羅場だな……。すまんな真子ちゃん。俺は夕飯を作るのに忙しいのだ。