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プロローグ 

処女作です。「自分の作品って他人から見てどうなんだろうか」と、思ったのがここで書いてる理由なので、もしこの作品を読んで何か感じたことがあったら、何でもいいので感想お願いします。

 ずっと、「声」が聴こえてくる。

低い「声」、高い「声」、嬉しそうな「声」、恐れるような「声」、嫌悪感に満ちた「声」、様々だった。 はじめは、そのすべてが僕にとって耳障りだった。

 というのも、その声は小さく、また何人もの声が入り混じっていて、何を言っているか僕には理解できなかったのである。

 それは耳を塞いでも聴こえてくる。五月蝿い、黙れ、と叫ぼうとしても僕を包む緑色の薬液によって阻まれた。

 退屈だった。毎日緑色の液体で満たされたケースの中でただ心臓を動かし、起きたり眠ったりを繰り返すだけの日々は、僕にとってあまりに単調だった。

 そして何より、孤独だった。

 自分が入っているケースで世界が隔てられているようだった。

 白衣を着た人たちが、こんなにも近くにいるのに彼らは時々ちらりと僕を一瞥するだけで、ずっと彼らだけで話をしている。

 どうして話しかけてくれないの?僕が君たちと違って裸だからか?

 ああそうか、どうせ話しかけられてもどうせこの薬液の中じゃしゃべれないんだ。なんてひどい話だろう。

 出たいよ、この狭い世界から。人と話がしたい、人のことが知りたいんだよ。 僕は、いつの間にか声にならない声で叫んでいた。

 すると、いつしか僕にとってどうでもよくなっていたざわめきのような声が意味を持ち始めた。

 そして、僕は理解した。この「声」が聴覚を通して伝わるものとは全く別のものであり、自分が聴いているのは人の心の「声」であるということ、また、外の人たちの「声」を聴くことで彼らが「研究所」の「スタッフ」であること、そして自分は彼らの「研究対象」であるということを理解した。自分の持っている「聴く」力が特別なものだということも知った。

 そして僕は、もっと聴きたい、もっと知りたいと思うようになった。

 だから聴いた。スタッフ一人一人の思考をじっくりと聴き、そこから一人一人の立場や人間関係を探っていった。いつしか彼にとって「声」は耳障りどころか、それが唯一の楽しみとなっていた。

 でも、僕は変わらず孤独のままだったし、何より、他人の心の声を聴けば聴くほど、自分の無知を認識することになった。

 「今日は雨だ。」

 「雨」って何だ?

 「朝飯食べてきたか?」

 「トースト一切れだけです。」

 「トースト」ってなんだよ。っていうか「食べる」って何だ?何をどうするんだ?こんな当たり前のように使われている言葉さえ知らない。

 「スタッフ」の「声」を聴くことはできても、映像のような具体的なイメージは読み取れないので、「スタッフ」が研究所の外で何をしているのか、いや、研究所の外には何があるのかさえ僕にはわからない。

 だけど一番わからないのは「大切な人」の存在。親、兄弟、恋人、友人どれも僕には理解できない存在だった。

 やがて、僕はみじめになり、「声」を聴こうともしなくなった。

 その日は、「研究所」の空気がいつもとは明らかに違っていた。

 よく聴いてみると、何でもこの「研究所」の「所長」が来るらしい。僕は今までその「所長」がここに来るのを見たことがなかった。「研究所」のスタッフたちの声を聴いても彼らもよく知らないということが分かっただけだった。

 僕は期待に胸を躍らせた。「所長」はいったいどんな人間なんだろうか。男?女?年齢は?ここに来る理由は?というかなぜ今まで来なかった?そいつに合えばこの実験の目的もわかるのか?久しぶりに退屈から抜け出せると考えただけで口から笑みがこぼれ出るのを抑えられなかった。

 やがて、「所長」が来る予定の時刻が来たと同時に分厚い金属製の自動ドアが開き、「所長」が姿を見せる。

 そいつからは、何一つ「声」が聴こえてこなかった。全神経を集中させても何も聴こえない。

 そいつの外見は、僕が想像したどんなものとも違っていた。

 これといった特徴はなく、普通の少年のように思えた。だが、懐かしいような顔でもある。

 おかしい、こいつとは初対面のはずなのに、初めて会った気がしない、なぜだ?

 ああそうだ、わかった。こいつの顔は僕と同じなんだ。

 そいつの、僕と同じ薄い唇から言葉が漏れる。

 

「うん?随分面白い顔をしているね。ああそうか、「能力」が効かないから驚いているんだね?」


 僕は生まれてこの方自分の声を聞いたことがなかった。にもかかわらず、なぜか僕は、その男の声を聞いて間違いなく自分の声と同じだと確信できた。

 僕がパニックに陥っている中、その男はなおも話し続ける。


 「実験をそろそろ次の段階に進めないとねえ。そのためには・・・」


 その男の眼は先ほどまでと明らかに違い、ぞっとするほど冷たかった。


 「そのためには…君に死んでもらおうか!」


 そこで、僕の意識は途切れた。

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