6-1
「輔さん」
駅前のコーヒーショップ。巻いていたマフラーをとりながら近づいてくる
朱雄に、輔は軽く手をあげて答えた。
「悪いな、バイト君。急に呼びだしたりして」
「いえ、今日はバイトも講義もないんで構いませんけど。
なにかあったんですか?」
「ん、ああ。まあな」
「輔さんが連絡してくるなんて今まで一度もなかったじゃないですか。
そもそも僕、携帯の番号教えてましたっけ?」
「ああ、それはヒコの奴が勝手に入れたんだ。ほら、去年店でクリスマス会
やっただろ? それで『タスクさんもユイ姉のことだけじゃなく、もっとここにい
るみんなとの親睦もはかっておかないと。いざというとき困ることになるよ?』
とかなんとか言って断りもなく全員分登録しちまったんだよ」
「はあ。まあ、確かに知ってるとなにかと便利な面もありそうですけど」
鞄から財布をとりだしながら、朱雄が頷く。
「ちょっとコーヒー買ってきます」
「あ、いや。ここは俺がだすから」
腰を浮かせるが、朱雄は、いえ、とかぶりを振ってこちらを制した。
「僕も暇だったんで」
やんわりと微笑みカウンターへ向かう。
しばらくして、ホットの紙コップを持って戻ってきた朱雄が、
椅子に座り直しながら首をかしげてきた。
「で、なにがあったんですか? 本当に」
「ああ、実はな」
輔は先ほどホテルであった出来事を、朱雄にくわしく話して聞かせた。
高峰光輝へ取材にいったこと。彼が「香夢異」へやってきた老人と繋がりが
あること。そして更には、「香夢異」の姉妹弟のことや自分のことについても
知っているらしいことにいたるまで、細部に渡って説明した。
激しくまばたきをしながら話を聞いていた朱雄が、こちらが口を閉ざすと
小さな吐息を漏らしてくる。
「じゃあ、その高峰さんって人が本当に結衣さんたちの知り合いだとして。
だからどうだというんです?」
「だから、別れ際の高峰の様子が普通じゃなかったんだよ。
まるで獲物を見つけた猛禽類みたいな目をしていたんだぞ。
あいつはなんだかヤバい気がするんだ」
手元のマグカップを両手で覆いながら告げると、
朱雄が軽く呆れたような声音で言葉を紡いできた。
「それって、ただ単に輔さんを恋のライバルだと思ってるから
じゃないんですか?」
「違う」
輔はかぶりを振り、朱雄を見つめる。
「いや、少しその気がないわけじゃないが。それよりもっと嫌な予感がするんだ」
こちらの言葉に、朱雄が小さくうなった。
「輔さんがそこまで言うのなら、確かにその予感は当たってるかもしれませんけ
ど。でも、だからと言って、僕らが口だししていい問題かどうか」
「じゃあなにか? あいつらがどうなっても黙って見ていろっていうのか?」
眉を顰めて朱雄を見ると、彼は複雑そうな笑みを浮かべつつ左手を軽く振る。
「いや、まあ、そうじゃないですけど。
でも、実際になにかあったわけじゃないんですし」
「おいおい。なにかあってからじゃ遅いだろうが」
「でも、これは他人の僕らがおいそれと介入していい問題じゃない気が
するんですけど」
「たとえ赤の他人だとしても、俺はあいつらが悲しむところは見たくない」
腕を組みながら意見を述べてくる朱雄を前に、輔は椅子の背にもたれかかった。
「あー……」
朱雄が組んでいた腕をほどき、気まずそうに頬をかく。
「なんだよ?」
訝しく思い尋ねると、朱雄がためらいがちにこちらを見つめ口を開いてきた。
「いまさらですけど。本気なんですねえ」
「あん?」
「結衣さんのこと、本当に好きなんだなあって」
「なんだそりゃ?」
そんなわかりきったことをなぜいまらさ訊いてくるのだろう。
目をしばたたいてると、朱雄が苦笑した。
「いや、今までいろいろ歯の浮くような台詞はたくさん聞いてきましたけど、
どれもいまいち本気には聞こえなかったりしたもんですから。
正直、どれくらい好きなのかなあって」
紙コップに視線を落としつつ告げられた言葉に、輔は天井を見あげる。
しばし考えた後、まあ、と素直な想いを口にした。




