表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
香夢異~夢見る紅茶専門店~  作者: 朝川 椛
第二章 動きだす影
20/66

 仕事場の帝都ホテルまで急ぐ。

寝坊したわけではないが、撮影の場合、待ち合わせの十分前には目的地へ

たどりついていることが数少ない輔の信条だった。

 息を切らせて帝都ホテルの入口へ到着する。

待っていたのはファッション誌の記者ではなく、成美だった。


「社会部のお前がファッション雑誌の取材なんかできるのか?」


 疑わしげな気持ちを隠しもせず口にすると、成美が腕を組んで、知らないわよ、

と反論してくる。


「急病がでたからいってこいって言われただけなんだから」

雄司やっこさん)はどうした?」

「あっちのカフェで腐ってる」


 輔の揶揄やゆへにこりともせず、成美は親指で向かいのカフェをさした。


「かわってやろうか」


 淋しいだろ、とからかい半分で申しでてみると、成美が眉根を寄せて

かぶりを振る。


「やめてよ、私たちはそんなんじゃないんだから」

「へいへい。あいつも報われねえなあ」


 呟くと、成美が睨みつけてきた。


「うるさいわね。あんただって人のこと言えないじゃない」

「あん?」

「今まで曖昧な関係のままやることだけやって、

適当に遊んでた奴が言うことじゃないって言ってるのよ」


 成美の言葉に、輔は小さくうめいた。


「うっせーな。若気のいたりってやつだよ。心配すんな。もうしねえから」

「へえ?」


 成美が軽く目を見開きこちらを見る。輔は眉を顰めて彼女を見返した。


「なんだよ?」

「あんたがそんなふうに言うのって初めて聞いたわ。

どこがそんなに気に入ったの? やっぱり顔?」


 成美の問いに、輔はふと結衣のことを思う。

 ふわりと揺れる黒い短髪。紅茶をそそぐ時の細い手首、括れた腰に豊かで柔らか

そうな胸と薄い桃色の唇、いつも遠くを見つめているあの黒い瞳……。

 想像するだけで夢心地になるようなその姿は、確かに世間一般からしても

美人の部類に入るだろう。

 だが、彼女の魅力はそんなものではない。


「あー、まあ、確かに顔もいいが。やっぱり性格かな」


 うまい言葉が見つからず端的に答えると、

成美がこれ以上ないほどしてやったりな笑みを浮かべてきた。


「ふうん。そう」


 しきりに頷く成美に対し、輔は渋面を作る。


「なにニヤついてやがんだよ。気持ちわりぃなあ」

「だって、なんだかめずらしく本気らしいんだもの。

こっちとしてもありがたくって涙がでるわ。なんて言ったって、

これ以上あんたに捨てられた女の子たちを慰めるのはごめんだしね」


 わざとらしく溜め息をついてくる成美に向かい、輔は鼻を鳴らした。


「ふん。それこそお前さんに言われたくねえなあ。

いつまで雄司を待たせるつもりなんだよ? え?」


 軽く逆襲してやると、案の定成美がいきり立つ。


「うるさいわね。あんた仕事しにきたんじゃないの?」

「まあね」


 肩をすくめながら、機材を担いでホテルのエレベーターへと乗りこんだ。


「何よ、他になにかあるの?」

「まあ、色々と。個人的に興味があるって感じだな」


 半分うわの空で答えると、成美が目を剥いてくる。


「なにそれ? 言っておくけど、あの件は私たちの掴んだネタですから。

横合いからきてかっさらっていったら承知しないわよ!」

「そんなんじゃねえよ。本当にちょっとした好奇心だって」


 おどけたように笑ってみせながら、

「ただの」とは言いがたいがな、と内心でつけ加えた。

高峰光輝に会えば、中森康次郎翁のことを訊きだせるのではないか。

そんなことを考えている自分は、やっぱりずいぶんと利己的な人間かもしれない。

そんなふうに自嘲していたら、またしても成美に睨まれてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





cont_access.php?citi_cont_id=904022106&s

yado-bana1.jpg
相方さんと二人で運営している自サイトです。




― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ