5-1
「買いだしにいってほしいのよ」
扉を開けたとたんに結衣がこちらを真っ向から見つめてきた。
とっさのことに言葉を詰まらせていると、
学校から帰ってきた裕彦が、ただいま、と背中へ飛びのってくる。
「ヒコ君、おかえり。早かったね」
「家の手伝いしようと思って飛んで帰ってきたんだ」
朱雄は、わざわざ遊びを断ったんだよ、と背中で微笑む裕彦をおろし、
頭に手を置く。
「買い物にいくんでしょ? ぼくもいく!」
今度は腕にぶら下がってくる裕彦へ、結衣が、こら、と腰に手をあてた。
「遊びじゃないのよ?」
「知ってるよ。言ったじゃん、手伝いに帰ってきたって。
ぼくって役に立つんだよ? ねえ、しゅおさん?」
首をかしげてこちらを見つめてくる裕彦に、朱雄はくすりとする。
「そうだね。じゃあ一緒にいこうか」
「やったね!」
裕彦が飛びあがって喜んだ。
裕彦の様子を眺めながら、結衣がこちらへ問いかけてくる。
「いいの? 邪魔じゃない?」
「いえ、ヒコ君がいると僕も楽しいですから」
かぶりを振って答えると、結衣がすまなさげに眉をさげた。
「ごめんなさいね、朱雄君。裕彦、朱雄君に迷惑かけちゃだめよ?」
「はーい」
裕彦が姉の言葉に元気よく返事をして、部屋へ黒いランドセルを置きにいく。
「今日も元気ですね」
裕彦は自分と違い、一日一日が輝いて見えているのだろう。
朱雄がしみじみ呟くと、結衣が苦笑した。
「そうね。元気はあの子のとり得の一つだわ」
***
午後の商店街には制服姿をした学生たちの笑い声がこだましていた。
どの店も軒が低く作られていて、昔ながらの八百屋や肉屋、魚屋のほかに、
最近流行りの飲食チェーン店も見受けられる。小さめのスーパーの横には、
女の子が好きそうなファンシーショップや学校帰りの学生たちで
ごった返しているゲームセンターもある。
朱雄は楽しげに顔を綻ばせている少年少女を見ながら、
大の大人が五人は並んで歩ける広さのレンガ道を歩いた。
道の両脇には景観を気にしてか、レトロ感を意識したような茶色の街灯が点在し、
明りの灯るすぐ下あたりに銀色の細長いポールが横へ渡されている。
ポールは長く両脇を店に沿うようにして、商店街の終わりまで続いていた。
(これって確か、ミストシャワーとかいうやつだっけ?)
一昨年くらいから納涼用にと設置された装置で、
夏の限られた期間のみ霧状の水を噴射させていた気がする。
残念ながら夏以外の使い道は皆無にひとしいが、
真夏の熱いさなかにはずいぶん癒された記憶があった。
(あともう少しで冬だもんなあ)
ミストシャワーをしみじみと眺めやる。
これの世話になってからもう二カ月経ったのか、
としばし感慨に浸っていたら、前方から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「しゅおさん、早くはやく!」
「うん、今いくよ!」
朱雄は、はしゃぎきみに手招きをしている裕彦に答えて走り寄った。




