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恋姫異聞録~Blade Storm~  作者: PON
第三章 大陸玉座
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第八十三幕

前回のあらすじ

ツンデレは正義!これだけは譲れない

 祭りが終わって一週間後。

 ようやく体調を回復させた伊邪那岐は、いつものように執務室で政務にとりかかっていた。ただ、前までと違い執務室は広くなって室内には布都も同席している。これは、一人で彼に政務をさせると自分を犠牲にして取り組んでしまうため、布都という名のストッパーを用意した苦肉の策と言える。


「さて、今日はこれぐらいにしておくことにしよう」


「そうか、では先に上がるといい。俺はもう少し仕事をしてからにする」


「阿呆、俺が終わりにすると言ったらお前も終わりにするに決まっているだろうがっ。それでなくともお前は自分の体のことなど気にせず仕事をするのだから。休息も仕事のうちだということをいい加減に覚えろ」


「布都、お前何をそんなに怖がっているのだ?」


「言いたくない。だが、俺が終わりと言ったらお前も終わりにするのだ。これは決定事項だ」


 先日、武将たちを差し置いて伊邪那岐と一戦やらかしてしまった布都。後日、彼の三人の妻に説教という名の精神的拷問を受けたことは記憶に新しい。そのことを思い出してしまったのだろう、彼の顔色は青へと変色してしまっている。


「失礼いたします」


 そんな時、控えめなノックのあとに扉が開き執務室に数人の人間が足を踏み入れてくる。


「劉備か、こんな時間になんの用だ? 俺と陛下の本日の業務は終了しこれから帰宅する予定だ。くだらぬ要件であれば後日に改めて顔を出せ」


「お時間はそれほどいただきません。返答をさせて頂く為にこの場に足を運びました」


 返答。

 劉備の告げる言葉は自分たちの未来を決定するものであり、祭りの二日目に布都が急がせたもの。


「なるほど、聞かせてもらおう」


 伊邪那岐の言葉を受けた途端、劉備たち一行は揃って彼に対して臣下の礼をとる。


「不肖、この劉備以下八名、陛下の旗下に加えていただきたくこの場に馳せ参じました。今までの非礼を詫びるとともに手厚い待遇へのお礼をこの場にて述べさせていただきます」


「半年前とは違う返答だな。お前らは本当に全員で話し合い、その答えを総意として俺に口にしているのか?」


「はい」


 劉備の言葉を受け、彼はつまらなそうに視線を一人の人物へと向ける。


「魏延、お前の望みは劉備を王とすることだったはずだ。そのお前も俺の旗下に加わるというのか?」


「はい」


「にわかには信じられぬ話だな。どういう心境の変化があったのかは知らぬが、本当にそう思っている保証はどこにもない。お前の心の内を包み隠さず口にしてみよ」


 彼の言葉を受けて魏延は重たい口を開く。


「本当のところを、あたいはあんたのことを皆みたいに信頼していない」


「では何故だ?」


「でも、気づいちまったんだよ。あたいは今まで自分の意見を桃香様に押し付けてただけで、桃香様のことを理解なんてちっともしてなかったってことに」


 彼女たちは良かれと思い、劉備という名の神輿を担いできた。だが、実際のところそれは彼女たちのエゴであり、劉備の意見はどこにも入っていなかった。そのことに魏延が気づけたのは、先日咲耶と戦った時にみた彼女の涙。彼女は自分の力のなさに涙し、伊邪那岐を侮辱されたことに怒りを露わにしていた。それを見て重なったのは自分の姿。だが、決定的なまでに違ったのは二人の間にある信頼関係。


 振り返ってみれば劉備はいつも部下である自分たちの意見を重視して、己の意見を押し殺してきた。対して、伊邪那岐は部下の意見と自分の考えをすり合わせてひとつの意見としてまとめあげる。協調性とは自分を押し殺すことではない。時には自分の意見を貫くことも必要だということ。そういった違う意見をぶつけ合い、自分を見せなければ本当の意味での信頼関係を築くことなどできない。


「諸葛亮に鳳統、賢いお前たちのことだ、俺を出し抜く策をひねり出すことなど容易なはず。それでもお前たちも俺の旗下に加わるというのか?」


「「はい」」


「ならばその理由を聞かせろ」


「私たちは桃香様の理想が美しく、それと同時に脆いものであるということを知っていました。そして、それを成すための道がどれほどの困難を極めるものであるかも」


「誰もが笑い合える国は絵空事。現実は血で血を争う戦の毎日。そのことを知っていたからこそ、私たちは内心では桃香様の理想を諦めていました」


 理想はいつだって現実に背を向けるもの。それが美しいものであればあるほど、自分たちが声をかけられないほど遠い距離にいる。


「「でも」」


「この国は違いました。私たちが内心では諦めていた理想が、現実のものとなって目の前にあったのです」


「この国は違ったんです。最初、街を見たとき、街で生活している人たちを見たとき、私は悪夢を見せられていると思いました。私たちでは実現できなかったことが、目の前で広がっていたのですから」


「世辞ではないようだな」


 二人の言葉受け、知らず知らずのうちに布都は言葉を口にしていた。


「黄忠に厳顔、お前たちはなぜ俺の旗下に加わろうと思った?」


「私はこの中で唯一子供を持つ身。この大陸で一日にどれほどの子供たちが飢餓に苦しみ、命を失っていくかを知っています。だからこそ、子供たちを慈しみ教育を受けさせるこの国に力添えしたいと思ったのです」


「儂は、仲間さえ無事でいればいいと思っておった。その認識を変えたのがこの国じゃった。異民族に元奴隷、そのような者たちを家族と呼び迎え入れる。そんなことできるわけがないと思っておった。だが、貴殿と民たちの信頼関係を見て嘘偽りのものではないと感じた。大陸を一つの国とする貴殿の願い、是非とも儂に手伝わせていただきたい」


 二人の言葉を聞いて伊邪那岐は深々とため息をつく。


「お前らは何か誤解をしているみたいだな。俺は民と言葉を交わして力を貸しただけ。この国がここまで栄えたのは全て民たちの力。俺は誰かに褒められるようなことをした覚えはない」


「伊邪那岐、お前はまだそのようなことを」


「布都、お前は少しの間でいいから口を閉じていろ」


 食い下がろうとする布都を封殺して彼は言葉を続ける。


「俺の力は小さい。誰かの力に頼らなければすぐにでもこの国は他国の侵略行為に怯えていたことだろう。そうならなかったのは、俺に手を貸してくれた親友に部下、民たちの力があったから。人一人で出来ることなどたかが知れている」


 そして彼は立ち上がって全員に背中を向ける。


「俺の国は民あってこそ。そして、お前らは改まって俺の旗下に加わりたいと申し出てきたが、それがそもそもの間違いだ」


「間違い、ですか?」


 自分たちの決断を間違いと言われ、劉備は首をかしげてしまう。だが、その言葉の真意を見抜くことができた諸葛亮と鳳統は、


「「まさかっ」」


「流石にお前たちは他の奴らと違って知恵が回る。俺の言いたいことが既にわかったようだな」


「でも、そんな」


「ひょっとして、あの時から」


 思考を口々に出しては否定していく。


「どういうこと、朱里ちゃん雛里ちゃん?」


「お前らは気づくのに時間がかかりすぎなのだ、まったく。いいか、俺はお前達に最初にこう言ったはずだ。民たちは家族として迎え入れると。どうしてその民の中にお前たちが含まれていないと思った?」


「「「「「「あっ」」」」」」


「人の言葉はきちんと聞いておくものだ。お前たちを受け入れた時から既に俺の心は決まっている」


「それならば何故、あのような条件を?」


「気づけば簡単なことだ。相手に要求を飲ませるために必要なものは偽りの中に真実を混ぜること。俺はそのことにお前らが気づくかどうかを試したに過ぎない」


「あの時の面白いことを思いついたというのはそういうことか」


「布都、お前も気づくのか遅すぎだ。この話をしたとき、碧のやつはすぐに気づいたぞ?」


 彼女たちを迎え入れる時の会話を思い出し、布都はため息をついてしまう。


「まぁ、決意を持ってこの場に現れたというのだから、それに応えてやらねばなるまい」


 そう口にして机に向かった彼は引き出しから薄い竹簡を取り出して読み上げる。


「魏延、黄忠、厳顔、張飛」


「「「「はっ」」」」


「お前らは軍部へと配属する。その武をもって力なき者たちの盾となることをこの場で誓え。そして、決して俺のために命を捨てるような愚行をしないことをこの場で誓え。俺の部下に己の命をいついかなる時でも捨てるような馬鹿はいらん。わかったかっ」


「「「「はっ」」」」


「諸葛亮に鳳統」


「「はっ」」


「お前たちは首脳部に配属する。先の祭りでお前たちも聞いたとおり、賈クが遅かれ早かれこの部署で穴を開ける。それを補って余りある成果を叩き出せ。できないとは言わせない、できないのであればその理由を持って俺の前まで来い」


「「心に命じておきます」」


「劉備に関羽」


「「はっ」」


「劉備は布都と碧のもとで学び、知識と力をつけろ。関羽は劉備の付き人とする。泣き言を口にしている暇などないほどしごいてやる。だが、それに耐えきったときお前が成長していることを俺が約束しよう」


「「はっ」」


「配属は以上だ。各部署の責任者には明日俺から通達しておく。今までただで飲み食いしていた分、きっちりと働いて返せ。俺にではなく、民に」


「「「「「「「「心得ました」」」」」」」」


「明日からまた忙しくなるぞ、覚悟しておけよ布都?」


「そのための俺だ。それにしても、気づいていなかったのは俺だけか?」


「いや、おそらく碧と首脳部の軍師たち以外はお前同様に気づいていなかったと思うぞ?」


 そんな中、控えめな挙手とともに一人の人物の声が室内に響く。


「あの、盛り上がってるところ悪いんだけど、私、配属先言われてないんだけど?」


「あっ」


「今、あって言ったな。もしかしなくても私のこと忘れてただろっ」


「すっかり頭の中から抜けていた」


「うわ~ん」




途中まで作者も忘れていたことはオフレコです

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