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恋姫異聞録~Blade Storm~  作者: PON
第三章 大陸玉座
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第六十九幕

前回のあらすじ

あんな白馬の王子がいてたまるか

 五日後。

 曹魏の首都許昌、曹操の執務室。


「そう、報告ご苦労。下がっていいわよ」


「はっ」


 先日、隻竜王を名乗る山賊が何者かに壊滅させられた一件。報告によれば山賊たちは全て斬り殺され、生存者はなし。人質として捉えられていた女子供は近くの村に身を寄せたらしい。救出された者たちから得た情報では、彼らを救ったのは旅の者であり、少人数。それも、恐ろしく腕が立つ女性がいたとかいないとか。


「誰かは知らないけど、おせっかいなことをしてくれるものだわ」


 本物偽物問わず、暴れていたのは袁紹の領地。もっと大規模に動いて袁紹の戦力を削ぐことを期待していた彼女にしてみれば、早急な鎮圧は小さな親切にすらならない大きなお世話。彼女自身、袁紹に目の敵にされているが、同じように袁紹を目の敵にしているわけではない。弱体化してくれるなら願ってもない。袁紹のような俗物の相手を少しでも早く切り上げ、彼女は英傑である孫策と雌雄を決したいのだから。


「華琳様、麟の者たちが到着したとの報告が」


「そう。玉座の間に通しておきなさい。私もすぐに向かうわ」


 控えめなノックをしたあと、室内に脚を踏み入れて報告を口にした夏侯淵。そんな彼女に応じるように椅子から腰を上げた曹操だったが、


「どうかしたの?」


「その、華琳様は、関羽を本当に軍門に加えるおつもりですか?」


「ええ。あれほどの逸材、劉備ごときに使わせるのは勿体無いわ」


 先日、劉備たちを逃がすために曹魏に降りた関羽。依然として協力の意思を示さず、現在は地下牢に幽閉しているが、彼女はこのまま関羽を腐らせるつもりはない。彼女からしてみれば、劉備と公孫賛が治めていたちっぽけな領地などよりも関羽の方が遥かに価値がある。


「ですが、あれが素直に従うとは到底思えません」


「秋蘭、あなたはいつから私に意見できるほど偉くなったのかしら?」


「そんな、華琳様に意見など」


「冗談よ? それに、簡単に手に入るものなんてどれもこれもがつまらないわ。手に入れることが難しいからこそ面白い。あなたはそう思わない?」


 軽くウインクして彼女は歩き出す。

 麟という国の名前、王である隻竜王の名前は大陸中に広まっている悪評を含め、彼女の耳にも届いている。それが自分に対して会談の席を設けてくれと願い出てきたのだから、彼女は楽しくてしょうがない。わずか一年で出来た国であるにもかかわらず、その国力と発展速度には目を見張るものがある。そして、謎に包まれた国王の姿。もしかしなくても、国王は孫策同様に彼女が求めてやまない英傑なのではないか? そう願ってやまない。


「へぇ」


 玉座の間につき、玉座に腰掛けると視界に入ってくるのは五人の女性。そのうち四名は見覚えがある。一人は司馬懿。彼女が軍師として迎えることを熱望している人物。二人は張遼と華雄。朝廷の軍を潰した際に手に入れたいと願っていた武将たち。そして残る一人は劉備。赤い髪の女性に見覚えはないが、一目見ただけでもかなりの腕前だと断言できる。


「あら、誰かと思えば負け犬が混じっているわね? 叶わない願いをくちにするのなら、あとにしてくれるかしら? 今日は大切な用事があるのよ」


 手の甲に顎を乗せ、壊れたおもちゃを見る子供のように、完全に劉備を見下す曹操。彼女は既に劉備を王だとは認めていない。興味があるのは本日の会談相手。熱が冷めていくのが誰の目から見ても明らかなぐらい、彼女が劉備へと向ける視線は冷たい。


「それで司馬懿、あなたは何故ここにいるのかしら? ようやく私に仕える気になったのだとしたら嬉しいのだけれど?」


「ご冗談を。私めは既に主君を決めている身。二君に仕えることなど、そのような背信行為はしません」


「へぇ、私ではない人間に仕えた。そういうわけね?」


「はい。我が心、身は隻竜王陛下に捧げました」


 その言葉が曹操の心に芽生えた苛立ちを加速させながら成長させていく。


「張遼、華雄。あなたたちも私に仕えるつもりはないかしら? 破格の待遇で迎え入れることを約束するわよ?」


「うちの命は既に陛下に捧げとる。せっかくのお誘いは嬉しいけど、堪忍な?」


「私も同じく陛下に命を捧げた身。貴公に仕えるつもりは毛頭ない」


「そう。残念ね」


 言葉では感情を表していないものの、彼女の内心はこれ以上ないぐらいに怒りと興味に支配されている。自分が手に入れたかった者たちを横合いからかっさらっていった怒り、そして、彼らがここまで忠義を尽くしている人物に対する興味。怒りと喜びが半々で混じりあい、彼女自身も理解できない感情を持て余している状況でも、その胸中は誰にもわからないように蓋をする。


「それで、あなたたちの国王はどこにいるのかしら? まさか、臆したわけではないでしょう?」


「陛下は少々、席を外しておられます」


「へぇ、随分と大物なのね、隻竜王とやらは。流石は大陸中に悪名を広げる人物。礼儀すら知らないのかしら?」


 曹操の言葉を受け、劉備以外の四人が殺気立つ。だが、


「しばし席を外しただけで相手を罵倒する。俺の記憶違いか? 俺の記憶ではその程度のことで居住まいを崩すような小物ではなかったはずだが?」


 その言葉を受け、曹操だけでなく玉座の間に集っていた曹魏の面々の表情が一瞬にして凍りつく。忘れたことなどない、温度を感じさせることのない鉄の声。声の聞こえた方に全員が一斉に視線を集中させる。


「お前たちも何を言われたか知らぬが、そう殺気立つな。ここには争うために来たわけではない。俺のことを思うのであれば、その怒りを飲み込み沈めよ」


「「「「はっ」」」」


 伊邪那岐の言葉を受け、四人は片膝ついて頭を下げる。

 だが、その言葉も耳に入らず、その光景も目に入らないほど彼女たちは激しく動揺していた。かつて、自分たちと行動を共にした人物であり、些細なことをきっかけに決別した人物。そして、先の大乱で敵として現れた人物が目の前に現れたのだから。


「伊邪、那岐?」


「ああ、久方ぶりだな曹操」


 目の前の事実を信じられないまま口にした言葉。その言葉を彼は現実のものへと変える。


「なぜ、あなたがここに? まさか、隻竜王とはあなたが仕えている人物だとでも言うつもり?」


 そう考えれば、張遼と華雄がこの場にいることにも納得がいく。ただ一点以外の例外を除けば。


「曹操、お前も同じことを口にするのだな」


「同じこと?」


「劉備もお前と同じことを俺に口にした」


 その言葉を受け、彼女は例外が事実であることを確信してしまう。


「まさかっ」


「大方、霞も火悲も牡丹も紅葉も、俺のことを陛下、もしくは隻竜王としか口にしなかったのだろう? 文を書かせた碧も俺の名を書かずに隻竜王と記していたらしいし」


「冗談じゃないわよ」


「冗談であってたまるか。俺は冗談で命をかけるほど酔狂ではない」


 そして彼は決定的な言葉を口にする。


「曹魏の王、曹操。お初にお目にかかる。俺の名は伊邪那岐。麟の王にして、隻竜王の悪名を頂きし者。此度は会談の席を設けていただき、感謝する」




王として対面した曹操と主人公

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