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恋姫異聞録~Blade Storm~  作者: PON
第二章 立志建国
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第五十三幕

前回のあらすじ

馬騰さんへの提案に現れた神楽

「それはそれは、とても魅力的な提案ですね」


 神楽の言葉を聞き、馬騰はとても楽しげに口にしたが、その次の言葉を聞いて彼女は体を固くする。


「ですが、拒否します」


「今、なんと?」


「耳が遠いのでしょうか、お断りするといったのですよ」


 その言葉はまさに寝耳に水。

 王朝がこの戦いで崩れれば、すぐさま群雄割拠の時代へと突入することになる。そうなれば、伊邪那岐の提案した貢ぎ物は領主であれば誰であろうと、喉から手が出るほど欲しい品々に他ならない。それを目の前の人物が拒否するというのだから、聞き間違いと思ってしまっても無理はないだろう。


「大きすぎる餌をぶら下げるということは、それに伴った危険があることと同義。あなたの主はそのことに関して一言も触れてはいない。そんな人間と交渉するほど、私は大胆でも愚かでもありません」


 きっぱりとした拒絶の意思を示す馬騰。そんな彼女を見て、大きくため息をついた神楽は、


「凶星、私を解放してください。この場で、あなたたちに害するつもりはありません」


 自分を押さえつけている凶星に願い出る。訴えかけられた本人は、馬騰の表情を確認したあと、ようやく神楽を解放した。


「やはり、師父の見立て通り。試すような言葉を投げかけた非礼、この場を持って詫びさせていただきます」


 解放された神楽は、身なりを整えたあと馬騰に対して謝罪を口にし、頭を下げる。


「私を試した? なんのことでしょうか?」


「師父は、私に対してこう口にされておりました。「俺が口にした提案を素直に受け入れるような人間であれば、この話は白紙とする」っと」


「あらあら、なかなか面白い冗談を口にされるのですね」


 笑ってはいるものの、馬騰の瞳は笑ってはいない。王たる存在が、他者に試されて笑えるはずがない。それ即ち、その領地に住む者たちすべてを試し、嘲笑っているのと同じ意味合いを持つ。


「こちらが、師父から私が託された文にございます。お受け取り願います馬騰殿」


 懐から竹簡を取り出し、馬騰へと手渡す神楽。それを開いた彼女は一瞬瞳を点にしたあと、力任せに竹簡を地面へと叩きつける。その顔からは先ほどまでの笑みが消え失せ、怒りのためか拳が震えている。


「このようなことを平然とする人物だとは、私の見立て違いにも程があるというもの。これが、あなたたちの主だというのですか、答えなさい、凶星」


「何を言っているのか、さっぱりわからないんですけど?」


「わからない、ええ、わからないでしょうね。あなたたちに私の怒りが理解で来てたまるものですか。なんという卑劣な、目的のために手段を選ばぬとはまさにこのような人物のためにある言葉でしょうね」


「失礼、馬騰殿。文にはなんと書かれていたのでしょうか?」


 文を預かってはきたものの内容を知らない神楽、そして文に書かれている内容を全く知らない凶星の二人は馬騰の豹変ぶりに驚きを隠せない。


「そうですね、あなた達に当たっても事態は好転しない。いいでしょう、凶星。あなたたち全員私についてきなさい。こうなれば病に蝕まれた体でも動くしかありません。直ちに戦の準備をさせなさい。私が出ます」


 そこにいるのは先程までの女性ではない。噂違わぬ勇猛なる将にして、北方の騎馬民族をたった一人で纏め上げた豪傑。


「「それで、文の内容は?」」


「いいでしょう、教えてあげます。この悪党は、よりにもよって私の娘を人質に命令してきたのです。「娘の命が惜しくば、おとなしくこちらの要求を飲め」っと。加えて、「こちら側は貴公を敵に回しても構わない。ただ、その場合、娘は大地へと帰ることになる。聡明なる貴公の判断に期待する」こう、書かれていたのです」


◆◆◆◆◆◆◆◆


「久しいな、恋」


「・・・・・・」


「恋殿は久しぶりっと、口にしております」


 張遼に華雄、二名の武将とその部下たちに指令を飛ばし、虎狼関をあとにさせた伊邪那岐は二人の人物を待つため、単身この場所に残っていた。待っていたいのは会話をした人物である呂布りょふ陳宮ちんきゅうの二人にほかならない。


「それで音々音(ねねね)、馬の旗を掲げた者たちは汜水関からきちんと引き返していたな?」


「勿論なのです。他の領主たちは瓦礫を撤去してまっすぐこっちに向かってきているのであります」


「なるほど、こちらの予定通りだ。済まなかったな、わざわざ手間をかけさせてしまって」


「・・・・・・」


「気にするなっと、恋殿は口にしております」


 曹操が危惧していた通り、伊邪那岐は呂布の部隊を汜水関の後方へと向かわせ、一定時間経ったなら虎狼関に戻ってくるように指令を与えていた。


「ならば、心置きなく策を進めさせてもらうとしよう。残してある井戸は二箇所。お前らが戻ったことを考えれば奴らがこの地に来るのは二日後。明日の夜、残しておいた井戸を潰して洛陽に奇襲をかける」


「・・・・・・コクッ」


「わかったのであります」


 空城の計を用いた理由は、相手に対して心理的に優位に立つことだけではない。本当の目的はこのことにある。


 兵糧の中で最も重量があり、重要であるにもかかわらず一定以上の量を持ち運べないもの、それは水。連合が通ってくるであろう道筋を逆算した彼は、水の補給路がどこにあるのかいち早く確認。そして、彼らが確実に補給するであろう場所、汜水関を確実に潰し、この虎狼関でも補給をさせるつもりはない。


「さて、何人が俺の狙いに気づいたか。見ものだな」


◆◆◆◆◆◆◆◆


 二日後、虎狼関。

 汜水関で二の足を踏まされた連合の面々は、ようやくたどり着いたものの、踏み込むことを躊躇っていた。それもそのはず、先の関所で侵入しようと試みた途端、関所を爆破されるという前代未聞の攻撃を浴びせられてしまっている。頭に血が上っている袁紹、袁術であっても被害を恐れて突入の号令をかけられずにいた。


「華琳様、どうなさいますか?」


「どうしたらいいものかしらね」


 隣で馬にまたがっている夏侯淵の問いに曹操は頭を悩ませる。

 伊邪那岐の読み通り、連合にはほとんど飲み水が残っていない。日本と違って、飲み水を確保することが困難な土地で、水を奪われるということは拷問以外の何物でもない。だからこそ、早めに突入の号令を出し、虎狼関で飲み水を確保したい。その考えが彼女の思考を余計に鈍くしてしまう。


 兵たちの声も聞こえない。すぐに戦闘を開始できるよう連合が陣を敷いているのにも関わらず、相手は出方を伺っているのか、姿すら見せない。そのことが余計に、連合の思考を混乱させていく。先の汜水関と同じように罠を張り巡らされているのではないかと勘ぐらせてしまう。


「華琳様」


 そんな悩んでいる彼女に声をかけてきたのは軍師である郭嘉。そして彼女に追従するように姿を表した程イクの二人。


「何か妙案でも思いついたの、二人とも?」


「その事なんですが、華琳様。どう考えてもおかしいのです」


「おかしい?」


「はい。違和感を覚えたのは、伊邪那岐殿が先の汜水関で爆破を仕掛けてきた時です。なぜ彼は、追撃を仕掛けてこなかったのでしょうか?」


「そう言えば」


 確かにおかしい。あれほど連合を混乱させたのであれば、後方から攻撃を仕掛けて一網打尽にすることもできたはず。それを彼はしなかった。そう考えてくると、別の狙いがあるのではないか。


「華琳様、多分ですけど虎狼関はもぬけの殻なんじゃないでしょうかねぇ~?」


「風、それはどういうことかしら」


「お兄さんは、こちら側を全滅させることができたのにそれをあえてしなかった。なにかしら、こちら側に残っていてもらわなければならないと考えれば、これ以上こちら側に損害を出そうとはしないんじゃないでしょうか?」


 その言葉を聞くなり、彼女の判断は早かった。


「秋蘭、斥候を出しなさい。人数を少なめに、ギリギリまで虎狼関に近寄らせるだけでいいわ」


「承知しました」


 曹操の命を受け、すぐさま部下に指令を飛ばす夏侯淵。

 そして、結果を持ち帰ってきた者たちの報告を聞いて、曹操はその場で馬から織り地団駄を踏んでしまう。受けた報告は二つ。一つ目は、軍師たちが進言してきたとおり関所がもぬけの殻だという事実。そして二つ目は、関所内の井戸が全て潰されているという報告の二つ。


「やってくれるわね、伊邪那岐。ここまで私をこけにしたのはあなたが初めてよ。この屈辱、あなたを追い詰めて晴らさせてもらうから、覚悟しておきなさい」



さぁ、いよいよ反董卓連合との戦いも最高潮へ

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