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恋姫異聞録~Blade Storm~  作者: PON
第二章 立志建国
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第四十一幕

前回のあらすじ

袁紹軍を退け、いっときの平和を勝ち取りました


「兄様、さすがに、今回のことは、今回の事に関しては、僕としましても、見て見ぬ振りはできません」


「伊邪那岐様、私も同意見です。貴方様の体は既に、貴方様お一人のものではないのですよ。自覚していただけないと困ります」


「伊邪那岐。どうして、おらに、何も言わねぇで、そんな無茶するだ。一歩間違えば、おめぇ、死んでだかもしれねぇんだど」


「今回に限っては、私もあなたのこと、弁護する気はないわ。伊邪那岐、あなた、どんだけ無茶したか、わかってんの?」


「主殿、どのような事情があったのかは、存じませぬが。流石に、今回のことはやりすぎではないかと」


「あんたねぇ、わかってんの? 勝利ってのは、全員無事でこそなの。みんな無事でも、あんたが傷ついてたら、それは勝利じゃないの」


 袁紹軍を退けた翌日。

 公孫賛の領地では、昼夜問わず、勝利の宴が開かれていた。だというのに、今回の戦において、最大の功労者であるはずの伊邪那岐。彼は、公孫賛に与えられた自室で、部下たち全員から、文句を言われ、槍玉に挙げられていた。


 原因となっているのは、彼が、禁じられた呪法を用い、自分の右目を失ったこと。そのことを、誰にも口にしなかったことの二つ。彼が使った、時空歪曲という呪法は、封印されて長く、彼以外、誰ひとりとして、その代償を知らなかった。代償を知っていたのなら、この場にいる全員が全員、彼を止めていたことだろう。その行動が、予測できていたからこそ、彼は口にしなかったのだが、それが、今回のこのような事態を招いてしまったのである。


「ああ、もう、悪かった。次からは気をつけるから、いい加減、機嫌を直せ」


「「「次、ですか?」」」


「「次ねぇ」」


「つぎ~?」


 謝罪を口にしたものの、誰ひとりとして信じてくれないのは、彼の今までの行動のツケだろう。それぐらい、彼は、人が無茶だと思う行為を平然とやってのけてしまう。そして、次に彼が発した言葉。これが、火に油を注いでしまう。


「だいいち、目玉の一つや、二つで大げさすぎなのだ、お前らは。目玉一つ程度で、俺はみなを守る力を手に入れたのだ。良いではないか、安すぎる代償だぞ?」


「「「「「「よくない」」」」」」


 彼が、自分たちのことを思っているからこそ、今回のような行動に出たと、全員が思っている。だからこそ、ここで彼の考えを正しておかなくてはならない。そうでなくては、また、同じようなことが起きてもおかしくない。そもそも、彼は、皆の為、皆を守るための力。そう口にしているが、この場にいる全員が気づいている。彼の言う、皆の中に、彼自身が含まれていないことを。


 平然と自分の体を傷つける行為。死地へと単身で赴く行為。自分を大切と思える人間であれば、前述の行為は決してしない。犠牲が自分一人で済む。その考えを彼が捨てない限り、彼は誰よりも先に、傷つくことをやめようとはしないだろう。


「今回のことで、月読は目が覚めました。兄様の、軽率すぎる単独行動を減らすため、明日から、最低一人は、兄様が一人で出歩かれる際、護衛として付いてもらうことにします。よろしいですね、皆さん?」


「その案、いいわね。ナイスよ、月読」


「なかなか良い意見です」


「まぁ、妥当よね」


「伊邪那岐のためだぁ」


「主殿への忠義、見事ですな、月読殿」


「お前ら、それはやり過ぎではないか? そもそも、俺の意見は無視か?」


「「「「「「勿論」」」」」」


 異論を口にしたかったが、さすがに六人を相手にするとなると、彼でも骨が折れる。さらに言えば、説き伏せようとしている六人、全員が全員、彼のことを真剣に考えてのことなので、さすがに、気が引けてしまう。


「明日には、ここを発つ。それまでの時間、どのように使うかは勝手だが、準備だけはしておけよ」


 そう口にして、部屋を後にするのが、彼の今できる、精一杯の抵抗だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 室内を後にしたものの、特にやることもない伊邪那岐は、屋敷内を散策していた。屋敷に通されたなら、必ず、攻めやすい場所と、脱出するための退路を探してしまうのは、もはや、軍師として己を律してきた、彼の癖ともいえる。


 そんな中、一人、腰掛け、手に酒を持ったまま、空を見つめている劉備が視界に入ってくる。そのまま、放っておいても良かったのだが、通り過ぎることを彼がやめたのは、彼女の横顔を見てしまったからだろう。それは、似ていたのだ。他の誰でもなく、うちひしがれていた、過去の自分に。


「しけた面をしているな、劉備」


「い、伊邪那岐さん。どうしてここに?」


「なに、部下どもに、今回の戦で無茶をしたと怒られてな。居場所をなくして、彷徨っているのだ」


 許可を得ることなく、彼女の左隣に腰を下ろした彼は、これまた許可を得ずに、勝手に空いていた盃を持ち、酒を注いで、一気に傾ける。


「その、右目のこと、ですか?」


「ああ」


 遠慮がちに聞いてくる劉備。それに、彼は即答する。部下に責められることになったものの、彼自身、右目を失ったことに、微塵も後悔がない。これで、ようやく、肩を皆と、並べられたと思っているから。


「伊邪那岐さんは、強いですね。そんな怪我までしたのに。表情一つ変えないなんて」


「鉄面皮と言う奴もいるがな。単に、感情表現が下手なだけだ」


「それでも、強いです。今回の戦も、伊邪那岐さんがいなかったら、私たちは負けてました。私なんか、皆の力を借りただけで、何も出来なくって」


 その瞳からは、涙がこぼれてくる。自身のふがいなさ、肩を並べていたはずの人間に、置いていかれる切なさ。それが、涙を止めようと、拭っている彼女の動作に反して、涙を流し続ける。


「なぁ、劉備。一つ問うが、皆は、泣いていたか?」


「えっ? いえ、そんなことは」


「笑っていただろう?」


「はい」


 涙を流す女性を、慰めることもせずに、彼は言葉を続ける。


「劉備よ。強さの定義など、俺にもわからん。力に心、知恵に技。比べるものが多すぎて、どれとどれを比べて、どちらが強いと、どちらが弱いと、判断を下すのは、自分ではなく、他人でしかないからな」


「でも、私は」


「力が足りないというのなら、力をつけろ。知恵が足りないというのなら、知恵を磨け。他の者たちが、お前より強いと思うのは、お前より、そのことに対して時間を費やしていたからに過ぎない。追い抜くことができずとも、追いつくことは可能だ。俺のように、な」


「伊邪那岐さんが?」


 彼女の知っている伊邪那岐は、関羽を赤子扱いするほど、武の腕をもつ。それに加えて、智謀にも長けている。そんな人物が、口にしているのだから、虚言を吐いていると、疑ってしまってもしょうがない。事前に、凶星から聞いていたとしても。


「俺が嘘をついていると、顔に出ているぞ?」


「え、嘘?」


「正直だな、お前は」


 ようやく涙は止まったものの、今度は、羞恥で顔を赤くしてしまう。


「関羽だって、最初から強かったわけではない。諸葛亮に鳳統だって、あそこまで知恵をつけるのに、時間をかけた。俺も同じだ。むしろ、あいつらほど才能に恵まれていなかった俺は、あいつらの倍、それこそ三倍の時間を費やしたかもしれんが」


「そう、なんだ」


「俺みたいな奴が、ここまで来れた。なら、お前も、昇っていくことができる。自分を信じられれば、必ず、それはお前に応えてくれる」


「努力に勝る才能なし」


「聞き覚えのある言葉だ。確か、先代、里長の言葉」


「この前、一緒にお風呂に入った時に、凶星さんが教えてくれました」


「そうか」


 空になった盃に、酒を注ぎ、またもや一気に煽る伊邪那岐。


「なに、焦る必要などない。俺が言うのもなんだが、時間はまだ、腐る程あるのだから」


「えっと、伊邪那岐さん。ちなみに、歳のほうは?」


「多分、十六だが?」


「嘘っ、年下?」


 彼女の瞳には、彼の姿が、自分よりも年上で、非常に頼もしく映っていた。だからこそ、彼の返答を、素直に信じることができず、思わず声を上げてしまった。


「さすがに、そこまで驚かれると、俺でも、多少は傷つくぞ」


「す、すみません」


「まぁ、別に構わんが。酒、馳走になった」


 そう口にして立ち上がる伊邪那岐。そして、そのまま彼女は背中を見送るつもりなどなく、


「伊邪那岐さん。私、きっと、なってみせます。自分自身を誇れるように」


「その志を、忘れなければ、大丈夫だ」


「あと、私のこと、桃香って呼んでください。まだまだ、白蓮ちゃんにも、曹操さんにも、袁紹さんの足元にも及んでませんけど、きっと、そこまで、駆け上がってみせますから」


「大きく出たな」


 彼女の言葉を受けて、珍しく彼は微笑を浮かべている。


「そうしたら、私から、会いに行きますから。その時は、私に力を、貸してくれますか?」


「いつになることやら。まぁ、気長に待っておく」


 そして、彼は振り返り、彼女の今後の支えとなる言葉を口にしてくれる。


「誰かを真似るのはいい。だが、誰かになろうとするな。お前はお前、他人は他人。所詮、人は自分以外の存在になれはしない。お前の周りには、たくさんの人間がいる。お前は、お前のまま、迷って、挫折して、立ち上がって、前へと勧め。自分を偽ることなく、力を、知恵を付けることができたなら。桃香、お前は、素晴らしい女になれることだろうよ」


「はい」



きっちりと劉備さんも落としていく主人公。


この天然ジゴロぶりが、最近、さりげ無さ過ぎるのが怖い

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