第三十六幕
前回のあらすじ
袁紹さんと戦うだけでなく、今後の領地の安全まで考えてあげた主人公
「ねぇ、愛紗ちゃんは、どう思う?」
「どう思う、とは?」
「さっき、朱里ちゃんに、雛里ちゃん。二人共にも聞いたんだけど、二人共、賛成してくれたの」
「言っていることが、さっぱりわからないのですが?」
軍議を終えて夜。
公孫賛の屋敷で風呂を借り、劉備と関羽は、一糸まとわぬ姿で、一人の人物をこの先、仲間として迎え入れるか、否か、話し合っていた。
「ねぇ、鈴々はどう思う、伊邪那岐さんのこと」
「あのお兄ちゃんが、仲間だったら、きっと心強いのだ」
「確かに、腕も確かですし、智謀にも長けてはおりますが」
「ははっ、愛紗は自分が、手も足も出なかったから、拗ねてるのだ」
「拗ねてなどいない」
湯から上がり、声を荒立てる関羽。ただ、訂正しておくなら、あの場であしらわれたのが、たまたま彼女だっただけで、代わりに他の人間が同じことをしていても、同じように軽く、あしらわれていたことだろう。
「あっ、桃香たちもお風呂だったんだ」
「ああ、この子達があなたの言ってた」
「失礼します」
それぞれ口にして、湯に入ってくる咲耶、凶星、天照の三名。
「ねぇ、咲耶ちゃん。伊邪那岐さんのこと、教えてもらえないかな?」
「あいつのこと? 別に、桃香が見た通りよ。冷血漢の鉄面皮。少し知恵は回るし、腕もあるけど。それだけ。あと、ついでに言っておくと、人を虐めて楽しむ。人の面をかぶった悪魔よ」
劉備の問に、自分の思っていることを素直に口にした咲耶。ただ、それが失敗だったと気づくことができたのは、左右からほぼ同時に、自分の首に刃が突きつけられてから。
「咲耶、あなた、口の利き方を勉強したほうがいいわよ?」
「部下が主の陰口を叩く。今後のために、教育しておきましょうか?」
凶星に天照。口では平静を装ってはいるものの、目は至って真剣で、突きつけられた刃からは、隠してもいない殺気が伝わってくる。
「ごっ、ごめんさない」
自分の軽率さを、素直に認め、咲耶は素直に謝罪を口にする。
「えっと、凶星さんに、天照さんで、いいんですよね?」
「ええ」
「はい」
「あの、お二人からみた、伊邪那岐さんって、どんな人ですか?」
朔夜からだけでなく、凶星に天照。二人からも情報を聞き出そうと、劉備は問いかける。ただ、彼女の頭の中には、情報を聞き出したいというより、純粋に興味を持っている人物のことを知りたい。その考えの方が大きかった。
「そうねぇ?」
「そうですねぇ?」
問われた二人は、刃を咲耶からからどけ、桶へと投げ入れると、二人同時に空へと視線をむける。そして、悩むように、腕を組んだり、瞳を閉じたり、そうして、ようやく言葉を絞り出す。
「一言で言えば、努力家、かな?」
「努力家、ですか?」
「うん。あいつ、元々、そんなにね、才能なかったの。人がすぐできることを、できないことなんて、ざらにあって。でも、そこで諦めたりしないで、次々とものにしていくの。それこそ、他人の何倍も時間がかかっても」
「へぇぇ」
「努力に勝る才能なし。私たちがいた里の、先代の長の言葉なんだけどね。あいつは、それを体現してるといっても間違ってない。おかげで、才能にあぐらかいてた私たちは、全員、あいつにごぼう抜きされちゃった」
口にはしているものの、凶星が練磨を絶やしたことなどない。だが、彼は、伊邪那岐はその何倍の量も鍛錬をして、常人の域から、超人と呼ばれる領域に足を踏み入れた。どれほどの時間を費やし、様々なことを成し遂げてきたか、それは、彼女も知らない。
「一言で言うなら、伊邪那岐様は、媚薬です」
「媚薬?」
「はい。味方は言うまでもなく、敵でも、伊邪那岐様の生き方は、心を惹きつけ、魅了します。智謀だけでなく、腕だけでなく、志、優しさ。それら全てが、言葉に出さずとも伝わってくるのです」
「それ、褒めすぎじゃない、天照?」
「思ったままを口にしただけです」
「まぁ、わからなくもないけど」
口では彼女を責めたものの、概ね、凶星の見解も同じもの。
「二人共、あいつのこと、褒めすぎ。そりゃ、ね、多少はわからなくはないけど。あいつ、二人よりも弱いじゃん?」
「あなたこそ、何を言ってるの? あいつ、もの凄く強いわよ」
「凶星、仕方ありません。彼女は知らないのですから。あなたも、最近まで、知らなかったではありませんか」
序列で言えば、凶星は二位、天照は五位。そして、当の本人である伊邪那岐は十位。序列通りの力しか知らない、咲耶がそう捉えていてもおかしくはない。死合をする前の、凶星が彼の力を見誤っていたように。
「ああ、そっか。言っておくけど、咲耶。私、真龍刀使って、死合で、真龍刀を持ってないあいつに、負けてるのよ」
「私は、月読と二人が掛かりで、奇襲を仕掛けましたが、見事、掌の上で遊ばれました」
それは、二人の技量を知っている彼女にしてみれば、寝耳に水。にわかに信じがたい事実である。
「嘘、でしょ?」
「この傷、もうすぐ、傷跡すら残らずに消えるけど。これが動かぬ証拠」
そう口にして、凶星が指差すのは、自分の右脇腹から左胸にかけて、伊邪那岐の水鏡によって切り裂かれた傷。その後の処置が適切かつ、迅速だったこともあり、彼女の言葉通り、あと少し時間をかければ、傷跡すら残らずに消えることだろう。だが、体に刻まれた傷跡は消えても、心に付けられた傷跡はなかなか消えることはない。
「私としては、傷跡が残ってくれてたほうが、あいつに迫りやすかったから、残って欲しかったんだけどね」
「あなたという人は、少しは慎みを持ってください」
「そういう天照だって。私、知ってるのよ。いっつも、熱っぽくあいつの寝顔を見つめてること。夜這いでもするのかって、ハラハラものだったわ」
「なぜ、そのことを」
その様子を見ているだけで、劉備には言葉に出さなくても伝わってくる。伊邪那岐が、どれほど二人を魅了し、信頼されているかが。
「お二人は、本当に、伊邪那岐さんのことが、好きなんですね」
「「ええ」」
冗談めかして口にした彼女だったが、二人に即答されては、逆に、顔を赤くしてしまう。そんな彼女を気にすることなく、立ち上がったふたりは、その場にいる人間に、言葉の刃を突きつけたまま去っていく。
「私たちが、今回、あなたがたに手を貸すのは、伊邪那岐様が、そう、お決めになられたから。それ以上の関係をあなたたちが望むのは、分不相応と知るべきです」
「忘れないことね。もし、あいつを傷つけようと、あなたたちが動いたら、私は容赦なく、あなたたちを殺すわ」
ガールズトーク、キタ━(゜∀゜)━!
鈍感すぎる主人公、死ねばいいのに




