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恋姫異聞録~Blade Storm~  作者: PON
第一章 世界放浪
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第一幕

いきなり、巻き込まれてしまった少年の行先とは?

「ここは、どこだ?」


 目を覚ませば、視界が揺れている。身体に異常はなく、周囲には麻袋や、木材で作られた大きな箱。

 自分が体験したことが、夢の中のことなのか、それとも、今いる自分こそが夢の中なのか、混乱する頭を少しでも落ち着けようと立ち上がった少年は、その足を進めて外へと出る。


 視界に入ってきたのは、一面の青。

 少年が気づいた場所は船の中だったらしく、今、航行の最中といったところ。


「どうした、それでしまいかっ」


 そんな少年の耳に響いてきたのは、割れんばかりの怒号。

 気づかれないように、気配を殺しながら様子を窺う少年。


 その視線の先には、後ろで桃色の髪をひとつに束ね、剣一つで男どもを斬り殺していく女性の姿。返り血を浴びることも気にせず、むしろ、積極的に浴びているようにも見えるその姿は修羅そのもの。


「関わると、面倒なことになりそうだな」


 おそらく、あと数分もすれば、女性によって男たちは全て、葬られることになる。それほどまでに、目の前の女性と男たちとでは、明確なまでの力量差が存在していた。いうなれば、月とすっぽんといった具合に。


 そんな時、弓を構えている一人の男が、少年の視界に飛び込んでくる。狙いは、男たちを嬉々として斬り殺している女性。殺戮を楽しんでいるように見える、あの状態では狙われているということに、おそらく、気がついてはいない。


 そして、その引き絞られた弓から矢が放たれた瞬間、少年の体は既に行動していた。狙われていた女性の脚を払い、体勢を崩し、頭を狙って放たれた矢をつかみ投げ返す。


「お主っ」


「話はあとだ」


 抗議の声を上げる女性を一蹴し、矢を放った男の乗っている船へと跳躍。着地した瞬間には、少年の右手には刀が握られ、先ほど矢を放った男の喉元へ切っ先を突きつけている。


「貴様っ、何者だ」


「黙れ、聞かれたことにだけ答えろ」


 男の憤りを柳のように華麗にスルーした少年だったが、その左の瞳が軽く閉じられ、男の首を刎ねるのと同時、あいている左手で背後から放たれた矢を掴む。


「ああ、しまった。聞く前に殺してしまった。お前のせいだぞ?」


 血を払って刀を鞘へと戻した少年は、とぼけたように背後から矢を放った人物へと声をかける。


 黒髪を後ろで団子状にまとめ、その瞳は刃の切っ先よりも尚鋭いだろう。男たちの中にいて、異彩を放つのは、女性であるという点ではなく、その滲み出る実力の違いからだろう。


「まぁ、お前でもいいか」


「なっ」


 抗議の声が上がったものの、それは遅すぎる。その時、既に少年は、女性の腰へと手を伸ばし、肩に担ぎ上げて、先ほどの船へと向かって跳躍していた。


「ふむ」


 船へと無事に着地した少年は、担いでいた女性を床へと落とし、血に汚れていない場所を見つけ、その場に腰を下ろす。


「お主、何者じゃ?」


「いきなり刃を向けて、それが人に尋ねる態度には思えないんだが?」


「答えいっ」


「別に答えてもいいが、後ろはいいのか?」


 腰を下ろした少年に対して刃を向けてくる女性。それでも、少年の言葉には耳を傾け、その指差す方向へ視線を移動させると、その場では弓を構え、女性に対して矢を放つべく、弓を引き絞っている女性の姿。


「我が名は、甘寧。孫堅、その命、この場にて頂戴する」


「ほう、私の命を奪うと」


 桃色の髪の女性が、孫堅。黒髪の女性の名が甘寧。それぞれ女性の名前が分かったことだが、三国志という歴史上の物語が日本に伝えられるのは、遥か先のこと。当然、名前を知っても、そのことを知らない少年にとってみれば、些細なことでしかない。


「一つ聞いておきたいのだが、お前ら、敵同士なのか?」


 場違いな少年の発言に対し、同時の首を縦に降る二人。その反応を見て、少年はつまらなそうに立ち上がると船内へと姿を消してしまう。


 元より、少年の出現がなかったとしても戦う宿命にあった二人。互いの武器を構え、相手の出方を窺いながら、ジリジリと間合いをずらし、己の得意とする間合いへ相手を誘導しようと、甲板の上でお互いの距離を縮めるべきか、離すべきか、思考しながらも、動くことをやめはしない。


「まだ終わってないのか、はぁ。お前ら、あれか、度胸もなく、技量もない、そのくせ、名乗りだけは立派で、いっつも、戦場の後ろでふんぞり返ってる城主か?」


 二人を侮辱するような、否、確実に侮辱する言葉を吐き、船内で拝借してきた酒を一気に煽る少年。無論、その言葉を聞き流せるほど、二人の武人としての矜持は軽くない。お互いから視線は外さないものの、少年に対する気配が、不審者から明らかに敵対者へと格上げされ、殺意まで放たれている。


「そういうところが、お粗末だと、俺は言っている。理解できないほどの馬鹿どもか、お前らは?」


 一瞬の出来事。二人はお互いの敵から視線を決して外すという愚行は犯していない。だが、現実に、二人の首には刀の切っ先が突きつけられ、踏み込んでも、引いても、その場で命が奪われるという状況に変化してしまっている。


「チンタラやっているから、こうなる」


 少年が刀を鞘へと収めるのとほぼ同時、甘寧の弓と孫堅の剣、その二つが音を立てて甲板へと落下する。当然のように、二人は獲物から手を離すことなどしていない。ただ、弓も剣も半ばで切断され、重力に誘われ、落ちただけのこと。それでも、その場にいた二人には、その事実は重くのしかかる。少年がいつ、刀を抜いたのか、動かしたのか、それを目で追うことができていないという事実。それすなわち、自分の首が、己の獲物と同じように甲板に転がっていてもおかしくはないということに、他ならない。


「殺すのなら、機を逃すな。逃せば、他人に横取りされる。まぁ、俺が言いたいのはそういうことだ。あと、時間をかけすぎ」


 二人に対して背中をみせ、変わっていく景色を肴に、酒を飲む少年。それこそ、背後から襲いかかってきたとしても、返り討ちにする自信があると、雄弁している。


「ああ、そうだ。お前らに聞きたいんだが、ここはどこだ?」


「「はぁ?」」



最初に聞くはずのことが、何故か一番最後に

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