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恋姫異聞録~Blade Storm~  作者: PON
第一章 世界放浪
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第十八幕

前回のあらすじ

夏侯淵、典韋と共に視察へ行くことになった主人公

「なぁ、秋蘭よ」


「伊邪那岐、聞きたいことというか、次の言葉が予想できているのだが、一応聞いておく。なんだ?」


「なぜ、このようなことになった?」


「それは、華琳様のみ、知ることだと、私は思うぞ?」


「秋蘭、伊邪那岐。何をしている、遅いぞ」


 伊邪那岐の悩みの種となっている本人は、気楽にも自分より遅れている二人に手を振ってくる。これほどまでに単純な人間を彼は、今までの人生で一度たりとも見たことがない。誰かを引き合いに出そうと考えても、彼女と比べると、誰でも、少しは複雑な思考回路を持っていると感じてしまうほどに。


 本来であれば、この視察は、伊邪那岐、夏侯淵、典韋の三名で行われるはずだった。だが、いざ、曹操に対して、出立の報告をしに出向けば、そこに手合わせを拒否された夏侯惇が乱入。


「なら、流流の代わりに私が行く」


 この言葉を聞いたとき、彼は、確実に曹操に言いくるめられて、却下されると思った。なのに、事もあろうに曹操は、


「そう、じゃあ、頑張ってきなさい」


 止めるのではなく、彼女の蛮行を了承してしまったのである。彼にしてみれば、自分が、夏侯惇が現れた時に、一瞬だけ嫌な顔をしたことを見られ、そのことで彼女の嗜虐心を刺激してしまったと、多少、後悔している。


「あいつに視察の任など、務まると思っているのか、華琳は」


「あんなにはしゃいで、姉者は、本当に可愛いな」


「お前、完全に他人事だな」


 単純な計算式に当てはめてしまえば、夏侯惇が仕事をする訳もなく、当然、姉を愛でるという特殊な趣味を持っている夏侯淵も、一緒に仕事をするというよりは、遊んでしまうだろう。そうなれば後は簡単。伊邪那岐一人で、仕事をするという結果が待っている。


「こんなことになるなら、あいつらの誰か一人を連れてくるべきだった」


 彼の私兵扱いとなっている天照、月読、火具土の三人。そのうちの誰かひとりでも連れてきていれば、一人で仕事をする羽目にはならなかっただろう。ただ、こんな事態を、予測すらしていなかった彼は、出立の報告を曹操にしに行く前に、自分についてきて、与えられた仕事をおろそかにするなと、命を下してしまっている。


「まったく、伊邪那岐。お前は、何をそんなに考えているのだ?」


「誰のせいだと思っている」


「なぁ、秋蘭。誰のせいなのだ? 私が一言文句を言ってきてやるぞ」


「さぁ、誰のせいなのだろうな?」


「皮肉すら通じない相手を言いくるめる方法。少しでも、後のために学んでおくべきか」


◆◆◆◆◆◆◆◆


 目的地にようやく着いた三人だったが、やはりというか、予想通りというべきか、夏侯惇、夏侯淵の姉妹は彼のそばにいない。


 仕方なく、伊邪那岐は一人で視察を開始。

 すると、ものの数分、村を練り歩いただけで異変に気付いてしまった。この村は、武装をしている人間が少なからずいる。これがもし、許昌のように、軍隊を駐留させている場所であれば、彼もおかしいとは感じなかっただろう。だが、ここは国境に近く、軍隊を配備するには不向きな場所に位置している。しかも、村全体から、肌で感じられるほどの緊迫感が発せられているのだから、おかしいと思わない方が逆におかしい。


「あんさん、あんさん、見てってやぁ」


 そんな風に思案しながら歩いていると、露天商と思しき女性に声をかけられ、伊邪那岐は視線を移す。そこには、何を売るつもりなのか、正直、判別がつかないほど、大量のモノが乱雑に並べられ、どれ一つとして値札がついていない。


真桜まおうちゃん、売れたぁ?」


沙和さわの方こそどないや?」


「さっぱりなのぉ」


「こっちもや。でもな、いま一人、捕まえたところや」


「そうなのぉ。じゃあ、お兄さん、じっくり見てってなのぉ」


 最初にいた女性、そこに加わったもうひとりの女性。会話の最中、どうして、自分はこの声に反応してしまったのか。伊邪那岐は自責の念に駆られていた。そこで、無視して立ち去ってしまえばいいものの、その場に残ってしまったのは、決して、仕事の疲れからくる苛立ちを紛らわせたいと、考えたからではないと信じたい。


「ここでは、何を売っているのだ?」


「見てわからん?」


「見てわかんないのぉ?」


 どうやら、彼女たち自身は理解しているらしく、わからない彼の方が批難されてしまった。仕方なく、その場にしゃがんで、商品を一つずつ手にとって確認してみる。


「真桜、沙和」


 そんな時に限って、また一人、災難が増えてしまう。


なぎ、どないしたん?」


「凪ちゃん、どうしたの?」


「値札がついてない」


「「あっ」」


 どうやら、災難は彼を好き好んでいるらしく、手を離してはくれないらしい。しばし、どうやってこの場を切り抜けようか、考え始めた伊邪那岐だったが、その耳に、小さな音が聞こえてくる。首をかしげ、周囲を見渡しているものの、他に人は見当たらない。しかも、次は三箇所から同時に。


 そこで彼は納得してしまう。時刻も時刻、そして、目の前の女性三人が三人とも、お腹を抑えていれば、子供だって理解できるだろう。


「すまんな、どうやら、俺の腹の虫は機嫌が悪いらしい」


「「「えっ」」」


 三人の言葉が偶然にも重なる。


「ここの商品は、生憎、手持ちの関係で買うことはできん。だが、代わりに買いたい商品が見つかった。それなら、今の俺の手持ちで十分足りるはずだ」


 そこで伊邪那岐は立ち上がり、


「三人分の食事代にはなるだろう。俺に、とっておきの商品じょうほうを売ってくれ」




さりげない優しさって大事だと思う

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