序章
どうも、初めての二次創作になります。
まぁ、生暖かい目で見守ってください
周囲は火に囲まれ、煙が視界を、焼け落ちてきた木材が足場を奪っていく。それでも、その刃は精彩を欠くことなく、襲いかかってくる男の命を一つ、また一つ。踏み出す一歩とともに奪い去り進んでいく。
「この城の城主、道重兼定、間違いないな?」
「いかにも、貴公は?」
「悪いが、名乗る名など、今の俺は、持ち合わせてはいない」
「そうか」
天守閣、全身を白の衣装、死装束で固めた男、道重兼定に対し、少年は刀を右手に握ったまま歩み寄る。そこにあるのは、殺意でもなければ、敵意でもない。ただ、それが当然と言わんばかりに、少年の刀は振るわれる。
故に、刀を鞘へと収めた少年の表情には一切の変化がなく、先ほど落とした首を、無造作に髪を掴んで、炎の中へと放り投げる。戦場で勝ち名乗りをあげる武士でもなければ、武功を欲しがる将でもない。
剣の一族。
特定の主を持たず、金銭によってのみ動く、殺し屋集団。ただ、その腕だけは確かであり、中には、一人で国を墜とすことさえできる者もいる。傭兵という、扱いやすさで、彼らを軽んじ、報酬を払わず、逆に潰されてしまった国も少なくない。
「まったく、末恐ろしいね、君は」
軽口を叩きながら、手をたたいて姿を現したのは、少年よりも頭ひとつほど身長の高い女性。
「他の者であれば、後、二、三日は、かかっていた計算なんだか。よもや、その若さで、愉悦に浸ることも、狂に落ちることもなく、国を墜としてしまうとは。でも、いただけないな。首は、きちんと持って帰る決まりだろう?」
「あんなものに、何の価値が?」
「価値ならあるさ。我ら、一族の風評を広めるという重要な価値が」
「売名行為か、くだらん」
女性の脇をすり抜け、その場を去ろうとした少年だったが、その腕を掴まれ、
「調子に乗るなよ、小僧」
一瞬、城を焼いている炎ですら揺らぐ殺気を受ける。
「なら、この場で俺を殺したらどうだ、ホオトリ?」
「殺して欲しいのかな、君は?」
「いや、ただ一つ、名案が浮かんだ。この場でお前殺して姿を消せば、俺も死んだこととなり、里からの追っ手も放たれない、と」
「やれるものなら、やってみるがいい、小僧」
膨れ上がる殺気。並みのものであれば、この場で膝から崩れ落ち、失禁していてもおかしくはない。
「もう、終わっている」
そんな女性、ホオトリに対する少年の声音に変化はなく、それ故に、女性の心を逆撫でする。
「さて、明日から、どうしたもんかな」
少年が一歩踏み出すのとほぼ同時、ホオトリの首が横へとズレ、音を立てて炎の中へと落下していく。後に残るのは、肉を焼く嫌な臭いと、首を失った肉体が木の床に倒れこむ大きい音。
崩れそうな城、その場から脱出しようと動き始めた少年だったが、目の前の光景に脚を止める。
それは、白い装束を纏った女性、桃色の髪をたなびかせ、少年へと一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。傍らを通り抜けるのは容易い。その首を落とすことは尚容易い。だというのに、少年はその場を動けずにいる。
魅入ってしまった。その一言に尽きるだろう。それほどに、女性の姿は浮世離れしており、妖艶であり、薄幸だった。
「私を、殺して」
笑みに似た声音で、女性は告げる。
するとどうだろう、少年の右手には、先ほど収めたはずの刀がいつの間にか握られている。そして、その切っ先を己の喉元へと誘うように、女性は、その手が朱に染まることも気にせず、刃に触れる。
「何を、言っている?」
「私を、この場所にいない、私も、殺して」
鞘に収まるように、女性の喉元へと切っ先がゆっくりと埋め込んでいく。その光景を、少年は、見続けている。
「お願い、だから」
その言葉とともに、少年の視界は光に飲み込まれた。