旅立つもの、願うもの
やっと二日目です、まだ二日目だともいえます。
そのうち、アインハルトとワリアの悪夢も書きたいと思います。
それでは、今回も最後までお付き合いいただければ幸いです。
「アイシャ...。」
紡がれたのは記憶の断片、いまもなをこの身をさいなむ俺の悪夢、失ったものは己の愛したものか、それとも俺の心か。
嫌な汗をかきながら、俺が今の今まで寝ていたであろう寝台から体を起こす。
「おはようございます、クロノ様」
気がついてはいたが、寝台の隣に置かれている一脚のいすに俺の服を抱きしめたシズネが座っている。
多分、彼女がいたから俺はあの夢を見たのだろう、まあ、物理的に彼女の「闇に包まれし悪夢」<ナイトメア・カーズ>のせいなのだが、シズネは似ているのだ、「彼女」に、外見的な意味ではなく、もっと内面的なところで、おれがシズネを見て無意識のうちに「彼女」を思い出してしまうくらいに。
そこまで考えて、俺はその思考を振り払った、こんなことをいつまでもうだうだと考えても何も意味が無いからだ。
シズネにおはようと返しながら、そういえば、なぜ俺は上半身裸なのだろうか思案する、露出する趣味は無いはずなんだが。
まあ、懐かしい記憶によってかいた汗に開け放たれた窓からの風が心地いいのはいいのだが。
「寝ながら服を脱ぐほど、特殊な寝相はしていないと思ったが、なぜ君が俺の服を持っているんだ?」
「服ですか、これは昨日酔いつぶれてしまったクロノさまを、運ぼうと思って<ウィンド>を使ってみたら、不思議なことにクロノさまのお召し物がズタズタになってしまったので、私がつくろっておいたのですよ」
その言葉に、やすやすと昨晩の光景が想像できる。
簡単なことだ、今現在も彼女の言葉に反応して、この部屋の中をカマイタチが暴れ狂っているのだから。
しかし、彼女の魔力保有量、魔力親和性は相当なものだとは思っていたがここまでとは、俺が着ていた服は上級詠唱魔術も防げるようになっているはずなんだけどな。
シズネが持っていた服を受け取ると俺は身に着けていく、彼女がつくろったというにはそれは見事なできばえで、もともとが俺のふくなこともあり俺の体のサイズにぴったりだった、ただ、なんと言えばいいのか、服の形が黒い法衣になっていたのは勘弁してくれといいたかった。
俺、魔王なのに。
シズネは今日は動きやすそうな、村娘の服装になっている、まあ、実際のところ彼女が自分で作ったというその服は、布は神殿内で使われているものなので、かなり高価だったりするのだが。ちなみに、昨日は普通の巫女装束でした。
朝ごはんなので呼びにきました、という彼女とともに部屋を出ると食堂に向かって歩いていく。
場所的には廊下の突き当たり、シズネの部屋のほうとは逆方向に曲がってまっすぐ行くとあるそうだ。
こっちにいくと私の部屋があるんですよー、とどこか間延びした声にうなずきながら、不自然にシャンデリアのかけた廊下と、風穴の開いた司祭様の部屋をとおり過ぎる、そのありえない光景を見ながら俺はその理由をシズネに聞くことはできなかった。
シズネについて食堂に入っていくと、普段は活気がありそうな食堂も不自然に静まり返っている。
人は、大勢いるのだが、皆一様に覇気がないのである。
まあ、この大地に侵略者が攻めてきているような状況だ、それもしょうがないかと気にすることなく、神殿騎士ようの朝飯を、食堂のおばちゃんから受け取ると、知った顔を見つけたのでその隣に腰をかけた、ちなみにシズネは俺を呼びにくるのが仕事だったらしく、今は食堂のおばちゃんたちにこき使われている。
知った顔、エルフ族の王ワリアが疲れきった表情を隠さずに、聖職者用の朝食を食べていた。ちなみに騎士用は主に体力が必要なので肉料理がメイン、聖職者用はパンに温かいスープといった献立になっている。
「ワリア、お前が疲れているのは理解できるのだが、なぜ皆一様に疲れきった表情をしているのだ」
ワリアはどこか呆れたような表情を浮かべると、兵士たちから聞いたのだろう内容と、俺の部屋に行く途中であったシズネから聞いた話を語ってくれた。
まあ、ぶちゃっけた話、廊下のシャンデリアも、司祭の部屋の風穴も全部シズネが無自覚でぶち開けたのだろうということと。
「シズネ殿が、寝るときに、松明の火を消そうとして<アビス>を使用したらしい」
とのことで、大体の状況はわかったのだが。
「ちなみに、誰も動かせる人がいなくて庭に放置されたアインハルト殿は、朝、眠気覚ましに庭を散策していたらふて腐れていたよ」
と、続いた説明には俺も思わず噴出していた。
あとで、また酒樽でもかっぱらって顔でも見に行ってやるか。
一仕事終えたらしいシズネとともに、ツクヨミ神殿を囲むように発展したテンショウの町の出口に向けて歩いていく。
ワリアがラクエスタの森に帰るのを見送るためだ、ほかの英雄たちと違い、ラクエスタの森でエルフの一軍を上げて戦いに出るつもりのワリアはどこの国にも客将として買われてはいないからだ。
街道に続く町の出口に向かう途中、見つけた酒屋によって酒樽を二つ買ったりしながら歩いていく、金をどうしたかって、俺の時代の金貨を出したら価値が換わっていたらしくて酒屋店主が卒倒したりシズネが道を歩いていた人をふっとばしたりしたあと、しょうがないので両替商のところに向かう、俺の持っている金を全部両替しようとしたら、店がつぶれると怒鳴られた、仕方ないので当面の生活費を両替して、酒樽を購入、など紆余曲折を経て、今目の前にはワリアがたっているってわけだ。
「もういくのか」
「ああ、森に戻ってすぐ民を纏め上げる、我らもこのアクアポリスに生きる民に違いないからな」
旅の準備を終え、わざわざ俺たちが来るのを待っていたのだろう、エルフ族の王は、そういって微笑みを浮かべている。
その姿が、懐かしい友の姿にかぶさった気がして俺も自然と笑みを浮かべていた。
「かつて、お前と同じ台詞をはいた俺の友は、その後このアクアポリスを支配したよ」
その言葉に、少し驚いた表情を浮かべてたのを微笑みで塗りつぶすと。
「古の英雄王と、一エルフでしかない私を比べられても困るのですがね」
「あいつも、最初は一人の人でしかなかった」
そんな言葉を交し合いしばしの沈黙の後、笑いあう俺たちを、うらやましそうにシズネが見ていたがそれは気にしないようにしよう。
「土産だ、旅の友に持っていきな」
といって、酒樽と共に購入しておいた地酒のビンをワリアに投げ渡すと、それを受け取りエルフの王は歩き出した、
「また、会おう」
俺とシズネに笑みを残して、必ずもう一度会おう、そう俺の心に言葉を残して。
どもども、お馴染みシズネです、今日はクロノ様と共に町に下りてまいりました。
私にとっても神殿から出る機会は今までほとんど無かったので今日はとっても楽しみです。るんるん
皆さん活気がありますね、あれは何でしょう、これはアクセサリーでしょうか。
あら、クロノ様が酒屋さんに入って行きましたね、と思ったら店主方がお倒れになってしまいました。
どうしたのかと思ったら、クロノ様ったらかなり非常識な物を店主に見せたらしいですね。
アリアス金貨ですねあれは、このアクアポリスに生きる人間なら知らない人はいない、幼いころから子守唄代わりに語られる伝説の英雄王、その横顔を象ったといわれているアリアス金貨は、古金貨と呼ばれ、いまなら一枚、金貨20枚くらいの価値があるっていわれてますね。
もちろん、コレクションとしての価値も高いらしいですけど、実際金の使用量が違うらしいのですよ、大きさも違いますしね。
そこを歩いているおじさんどうしたのですか、私の博識ぶりにびっくりしたのですか。
何々、空を見ながらぼそぼそつぶやいているお嬢ちゃんにびっくりしたって、失礼な私はわからないだろう方々に説明していただけですよ。
「光よ」<ライト>
あら、閃光で目を回して差し上げる程度のつもりだったのですけど、なぜあのお方は十メートルも向こうで倒れ付しているのでしょう?不思議ですね、世界は不思議で一杯です。
まあ、目を回すという目的は達成したので良しとしましょう。
クロノ様が両替商に向かうそうなので、私も後をついていきます。とてとて
いやーびっくりしました、クロノ様が両替商の店主の前にアリアス金貨を数百枚ほどポンって置いたときは、店主さんの顔が引きつってましたね。
まあ、金貨の価値については改めて説明する必要は無いとおもうので、店主に怒鳴られながら店を出たといっておきましょう、両替?ちゃんとクロノ様がしてましたよ。
店主さんが、二度と来るなーーーー!っていってましたけど。
酒屋さんに戻って、倒れてウンウンいってる店主の代わりに、おかみさんから酒樽二樽とあれは何でしょう、地酒でしょうかを買い取って、ワリアさんの元にシュッパーツ
やってまいりました町の端、出口で御座います、今現在クロノ様とワリアさんが何か黒い笑みを浮かべて話あっておられます。
あ、ワリアさんが行くみたいですね
ワリアさん、クロノさんもですけどもうつぶれて寝込んでしまうまで、お酒は飲んだらだめですよ。
あら、お二人が生暖かい笑みを浮かべてくるのはなぜでしょうか。
また会おう、そういって歩き出したワリアさんに私もお別れの言葉を差し上げなくては、
「ワリアさん、あなたの旅路にラウラ様のからの、光<ライト>がありますように。」
その後、ワリアがどうなったかは、皆さんの想像にお任せします。
ええー、他人から見たシズネと、シズネの心理描写が違いすぎるのは気にしないでください。ちょっとやりすぎな感じは作者もありますので。
誤字脱字感想新魔法などありましたら書き込みのほうお願いします。
それでは、今回も作者の脳内垂れ流し駄文に最後までお付き合いいただきありがとう御座いました。