魔王が生まれた日
ええー今回は、初戦闘シーン&シリアス?です。
外伝的な位置づけで話的には、クロノの悪夢(過去)です
最後まで、飽きずに読んでいただければ嬉しいです。
まどろみの中、ふわふわと自分の存在を確定できていない、これは夢か。
確か俺はシズネの「闇に包まれし悪夢」<ナイトメア・カーズ>を食らって。
そんな思考を振り払うような、懐かしい声ともに視界がはれていく。
「ふふふ、流石だなクロノ、こんな凶悪な気を浴びながら居眠りできるとは」
新緑色の髪に、特徴的な蒼い瞳、女性が10人いれば10人が振り向くだろう顔に悪戯を成功させた時のような微笑を浮かべて、懐かしき友がそこに立っていた。
「ふん、こいつ程度で参っていたら親父殿の前に立っているだけで死んでしまう、それに俺は断じて寝てなどいない」
わかってるわかってる、と俺のかたをポンポン叩きながら笑っていやがるこいつの名は、アリアス・ライドネル、このアクアポリスの大地に生きる一部族でしかなかった人間族を纏め上げ、魔王軍と戦えるようにまで鍛え上げた張本人だ、こんな優男みたいな面してその統率力と用兵は侮れない。
普通の魔物にすら地力で劣る人間族を魔物とまともに戦うために考案した三人一組で戦う三個の陣や、それまでばらばらの武器しか持たなかったもの達の武器を統一することによっての集団戦力としての強さを徹底的に教え込んだのがこいつのまとめた人間族の強さだった。
「さてさて、あの曲者の長老どもを纏め上げ、こいつらに魔物に勝てるということを徹底的に教え込んでやっとここまできたわけですよ、クロノ殿」
「ああ、そうだな」
「クロノ殿がいなければ、ここまでこれなかった...。」
「ああ、そうだな」
「とは言わないが、あと10年はかかっただろうね」
「ああ、そうだな、て、おい、さっきから何が言いたい」
俺はさっきから嫌な予感しかしなくて極力見ないようにしていたアリアスの顔を凝視する、凝視してしまった、そこにはさっきと同じ悪戯っ子な微笑を浮かべたやつがいることはわかっていた。
「正直感謝している、だからだ、だからこそ、こいつらに死にいく前の檄を飛ばしてくれ」
嫌な微笑から一転して真剣な表情で俺にアリアスはそう頼んできた。
その真剣な表情に俺が断れるわけもなく、それでも肯定の言葉でこいつが調子に乗るのが嫌だったので俺は無言で一歩前に出た。
俺とアリアスの動きをずっと注視していたであろう人間族の軍団にさっと緊張が走るのを確認して。
「野郎ども、死ぬ準備はできたか!」
俺は低く大きく声を張る。
「「「応」」」
自分の胸、心臓を軽く握ったこぶしで叩く、そんな特徴的な敬礼とともに幾千もの咆哮が響き渡る、あるいは覚悟のために、あるいは決意のために。
「明日を生きる家族のために!」
「「「明日を生きる家族のために!!!」」」
復唱しろといってもいないのに、返ってく言葉が彼らの決意の程を物語っている。
「我らはこの身を剣としよう!」
「「「我らはこの身を剣としよう!!!」」」
その言葉とともに俺は自分の腰に挿していた刀を引き抜いた。
俺の隣でもアリアスがその腰に挿していた白銀の剣を引き抜いた。
「全軍突撃!」
「魔物どもを一匹たりとも生きて帰すな!」
「「「おおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」」」
雄たけびとともに数千もの軍勢が走り出した、目指す先は俺たちの前にある黒き草原、幾万もの魔物どもがひしめく草原の向こう、黒き邪神<魔王>の元まで俺たちは決して脚を止めることはないだろう。
俺は誰よりも速く魔物の群れの中にその身を躍らした、俺の手の中では長年愛用してきた「薄蓮」が魔物どもの血を吸い命を刈っていく。三個の陣を敷いた人間族もなかなかの奮戦を見せている巨大な盾のみを持った兵が魔物の前に立ちふさがり、その兵の後ろから槍を持った兵が魔物の弱点を狙って攻撃し、さらにもう一人、二人の後ろで詠唱魔法を唱えていた兵が火炎の塊を魔物に向かってぶっ放す。
三個の陣、一人で勝てないなら三人で挑め、三人が無理なら六人で、それがだめなら九人で。
三人ずつチームを組み時にチーム同士助けあい、戦場を魔物の血で染めていく。
それでも、もちろん被害は免れなかった、当たり前だが、徐々に人間族はその姿を消していった、時に盾ごと食い破られ、時に体力がつき倒れていく、ただただ、人のみで一匹でも多く魔物を刺し貫き焼き殺しながら、魔力が枯渇しても血反吐を吐きながら火炎を打ち放つもの。折れた槍の変わりに己の身に刺さった魔物の牙を魔物に突き刺し果てるもの。
ここは紛れも無く戦場だった。
「アリアス、どれ位残っている」
「それは魔物が、それとも仲間が」
いつもの微笑を浮かべながら、そんな返事を返してきた友に俺も魔物を切り刻みながら叫び返した。
「魔物に決まっているだろうが!」
そうだ、決まっている、俺たちは魔物を殺しに来たのだから。その向こうにいる魔王を殺しにきたのだから。
「僕らが、腕を振るう分は残っているよ」
友からの楽しげな報告を聞きながら、俺は目の前でブレスを出そうとしたドラゴンの首を切り飛ばした。
ちなみに、アリアスはとっくに剣が血糊で使えなくなったのか、折れてしまったのかはわからないが、魔物から奪ったであろう曲刀を振るって、金棒ごと鬼族の腕を切り飛ばしていた。
いつ終わるとも知れない戦い、ただ前に立ちふさがる物を切り飛ばし、穿ち、粉砕する。愛刀の代わりに右腕を振るえばオーガの頭部を石榴のように爆砕させ、魔法を唱えればウルフが燃え尽きた。
どれくらい、その狂乱と血と混沌の宴に興じていたでのあろうか、天空にさんさんと輝き狂乱の宴を見守っていた太陽はすでにその役目を月に受け渡したころだろうか、この草原に蠢くものがほとんど存在しなくなったのは。
そうほとんど、人も魔物もその姿を減らし、響く音は微かな剣戟と苦しみを訴えるうめき声のが聞こえる程度だ。
「アリアス、動けるのはあと何人残っている」
その身を血糊で固めた俺の問いかけに、片腕を失いなお闘志を燃やすアリアス、彼が今、残った右腕で切り殺したのが俺たち以外に立っている最後の生物だった。
「僕と君と二人かな」
そんなアリアスに、最大限の笑顔を向けると俺は、彼を殴り倒した。
それで、緊張が切れたのだろう一気に気を失ったアリアスに最低限の止血の魔法をかけると、俺は一人歩き出す、この血に染まった草原の向こう禍々しき気を放つ最後の一人の元へと。
形は人、人の形にありったけの憎悪と怨嗟をぶち込んだような雰囲気、ただしどこまでも鋭く、どこまでも美しい、そこに立っているものを端的に説明するならそんな感じだった、俺が今まで見てきたどんな物よりも禍々しく、どんなものよりも残忍な者が、俺の顔を見ると愛くるしく微笑んだ。
まるで、ずっと待ち焦がれたものにやっと出会えたのが本当に嬉しかった、そんな微笑を。
「やっと来てくれたんだね、クロノ」
「ああ、アイシャお前を殺しに来た」
そうだ、俺は殺しに来た、かつて愛したものを、もっとも残酷な<魔王>の呪いから救うために、人間族をすべて犠牲にして、友さえもこの身で気絶させ誰も邪魔が入らないようにして。
この狂ってしまった彼女を、何よりも誰よりも愛した彼女を殺しに来たんだ。
「さあ、僕をギュッて抱き締めて、そして誰よりも優しく僕を殺しておくれ」
言葉と裏腹に彼女はどこからとも無く二双の大鎌を引き抜く、その豊かな黒髪をなびかせて、抱きしめれば折れてしまいそうな華奢な体に不釣合いな大鎌<双頭刃>を。
「愛してるよ、クロノ」
囁きながら、彼女は今さっきまで俺の首があった場所を刈り払う。
かわしたはずの斬撃は、真空の刃となってなお俺の体を引き裂いていく、切り裂かれた鎧の下、鈍く黒色に輝く俺の体をアイシャは相変わらずその殺気には不釣合いな表情で見つめていた。
それは、まだ彼女が正常だったころに彼女が珍しがってよく見せてくれとせがんできた漆黒の鱗、俺が人間ではなく魔人の証。
「やっぱり、きれいだねその鱗は」
ほぅ、と吐息を吐きながら彼女は昔と代わらず愛しそうに俺の黒鱗を見つめていた、その姿からはすでに殺気が失せていた。
いや、そもそも、その殺気自体戯れでだしていたのだろう、本来今の彼女が本気になればこのアクアポリスごと俺は存在を消しているだろう。
「もう、いいのか」
「うん」
俺の質問に対して満面の笑みを浮かべると、彼女はその身を俺に投げ出した、優しく壊れないように抱きしめてやると。
「優しく終わらしてね」
彼女は俺に最後のお願いをした。
「ああ」
俺は抱きしめている腕に力を込めると静かにうなずいた。
-【断章魔法】<フラグメント> 「悠久の眠りを」<オールドスリープ>
「安らかに眠れ、アイシャ」
彼女のためだけに用意した、優しく、夢のように相手を殺す【断章魔法】、抱きしめているアイシャの体から静かに力が、体温が失われていく。
「クロノ、ごめんなさい」
か細くなって命、最後に彼女は謝罪の言葉を述べた。
「魔王を、押し付けて、ごめんなさい」
そして俺の腕の中で最後の命の一滴が抜け落ちた。
それは、俺が魔王になった日、愛するものを殺し、魔王になった日。
おれが、もっとも見たく無かった悪夢の断片だった。
今も時折思い出す、最善の選択はこれだったのかと、もっとうまく彼女を救えたのではないのかと、しかし、それは無理なのだろう。
なぜかって、あたりまだ、俺は「勇者」じゃない「魔王」なのだから。
ふう、自分で書いてて大分落ち込みました。
そして、まだ一日目が終わっていないってね。
今回は、暗かったですが最後まで読んでくれた方に感謝を
誤字脱字感想などなどありましたら書き込んでいただければ嬉しいです。
作者的には僕っ娘が大好きなので、外伝的にアイシャをもう一度書きたい、今度は正常の状態でって言うのが当分の目標です。
それでは、皆様飽きずに脳ない垂れ流し駄文にお付き合いいただきありがとうございました。