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買われいく者達

シズネ&第三者視点です。

誤字脱字を指摘していただくと助かります。

ツクヨミ神殿の一室、普段は神官達が会議などを行う部屋では、今現在このアクアポリスを治めている四国家、アマテリア神皇国、魔工都市国家レイブラウン、シルベリア帝国、そしてツクヨミ神殿が存在するライオネル王国の主要な面々が顔をそろえていた。


「それでは、アインハルト殿は、我々アマテリアが客将としてもらいうける、異存はありませんな」


「我ら、シルベリアはライオネル殿をお借りしよう」


彼らは、一心不乱に、自国を少しでも守るために、自分が目をつけた英雄達を商品棚に陳列された物を買い叩くおばちゃんたちのように買いあさっていく。

ただ彼ら強欲な商売人どもも、一つだけ手を出しにくい商品があった、クロノ・クロス、黒髪黒目の見た目青年になったばかりかという商品を、彼らは買うのをためらっていた。

それを買えば、自国を守るどころか滅ぼされてしまうのではないか、そんな恐怖が彼らに最強であろうそのカードを買うのをためらわせる。

あらかた、商品が片付いて、集まった人間達が、見ないようにしていた商品を意識し始めたころ、その商品をてにっ取った者がいた。

衆目たちが、固唾を呑む中、少女はその華奢な手でその商品カードを拾い上げる。


「皆様が、必要とされないようなので、このお方は、我々ツクヨミ神殿が、いえ、私がお預かりいたします」


そう語った少女、シズネ・ユカは、愛しそうにそのカードを、キュッと懐に抱き込むと、各国の代表達を一瞥して、


「それでは、各国の代表の方々、我が神殿に、おのおの方が客将として向かえた方々に見合うだけのご寄付をお願いいたします」


各国の代表達に対価を要求する、そう、商品のように扱っていたというわけではなく、神殿にとっても各国の代表にとっても、彼らは本当に商品なのだ。

客将と当たり障り無く呼ばれはしても、彼らにとって英雄達は商品であり消耗品であった。

少女の突然の、行動に驚きはしたが、一番厄介なものを引き取ってくれると聞いた代表達は嬉々として寄付の申し出を受けていく。


「我ら、ライオネルは神殿に金貨4000枚を寄付いたそう」


我らは、1000枚、3000枚をと、続く各国の声に神殿側も満足そうにうなずいている。

ちなみに、お金は、白石硬貨、玉石硬貨、銅貨、銀貨、金貨とあり、価値的には、白石硬貨が一円で、それに価値が上がる順に一桁づつ増えていく、つまり金貨一枚で大体一万円くらいだ。

そんな、神官たちと代表達の攻防が続く中、シズネは静かに席を立つと、見咎められない程度に静かにゆっくりと会議室を退出していった。

神官でありながら欲望にまみれた者達や、過去英雄と呼ばれたものたちを消耗品としか見ない人間達に嫌気が差したかのように。






シズネは途方に暮れていた、会議室での醜い攻防に嫌気が差して飛び出してきたものの、ただただその強大な魔法力でもって、ツクヨミ神殿にアクアポリスに危機が迫った時に勇者を召還するといった使命しか与えられていない少女は、それ以外の生活、娯楽どころか暇な時間をつぶすといった行為すら今まで許されていなかったのだ。

神殿側にとっては、強力な召還術は生死掛けると同義であり、少女が生き残る、ましては十数名も英雄を召還してしまうとは夢に思わなかったわけだが。

どうしようと、物思いにふけりながらふらふらと神殿の庭、広さ的には庭だけで広大な公園くらいの敷地を持つ、を歩いていくと、シズネは何か硬いものに躓いてしまった、膝からぺたんと地面に座り込みながら、顔をあげてヒッと言葉を詰まらせる、自分が今蹴っ飛ばしてしまったのは、アインハルトと呼ばれる賢竜の尻尾の先端であったからだ。


「おやや、これは巫女殿、会議はもうよいのかのぅ」


どこかろれつが回ってない気がして、賢竜の周りを見回すと、そこには、早速気があったのか、エルフ族の王と人の姿をした魔王が、どっかりと座り込み、賢竜とともに大量の酒樽を開けていた。

ちなみに、酒瓶ではなく酒樽なので一個あれば数十人兵士がぶっ倒れていても可笑しくないのだが、彼ら三人の周りには大量の酒樽が転がっていた。


「会議はもう終わりました、み、皆さんはここで何をしておられるのです」


峻烈といっても良い美貌を朱に染めながら、エルフ族の王ラスタは酒樽を飲み干しながらシズネの疑問に答えた、


「私はな、戦友であられるお二人のお話を、酒の肴に聞いておったのだよ」


その言葉に、黒き魔王が茶々を入れる、


「正確に言えば、アインハルトとラウラの二人が俺様に負けまくって、泣いて逃げていたころの話だがな」


「ふむ、クロノよ「鏡の女神」様と、三人がかりとはいえ、我らに封印術をくらい悔しがっていたのは誰だったかのぅ」


それに反撃を加える賢竜と言った三人の様子を、シズネは唖然として見守っていた。

それも当たり前で、彼らが語っているのは神代のころの伝説と呼ばれている内容であり、神殿に属する歴史学者が聞いたら卒倒しそうな内容であった。


「ラウラ様に自らが封印したって!、クロノ様はまさか「阿修羅の系譜」の中でも最強といわれた、「黒のりゅ...」」


不穏な単語を二つも発しそうになったシズネを、クロノ本人が押しとどめる。


「はい、ストップだよシズネちゃん、俺は封印されようとも、まだこの世界を気に入っているんだ、君の言葉がおおやけになったら、俺はこの世界を滅ぼす羽目になる」


どこかのんびりと、しかし有無を言わせぬ口調でそう釘を刺されたシズネは、クロノに口を塞がれながらコクコクと首を振ると了解の意を示した。


「しかしな、我々としては、シズネ殿の規格外の召還術に驚いておるのだがのう」


空気を変える為にそう質問したであろう、賢竜にシズネは自分の境遇を告げることにした。


「いえ、私はアインハルト殿にほめてもらえるような事はしてはいないのですよ、事実私が使えるのは召還術のみですから、今までそのために育てられてきたようなものですしね」


「そうか、神殿には召還専用の贄が育てられている、と風の噂で聞いてはいたが、まさか真実だったとはな、まあ、召還術の性質上シズネ殿が生き残ったのは神殿側にとっても完全に予想外だったのだろうが」


シズネの言葉を、エルフの王が彼女の言葉をほかの二人に理解できるように捕捉していく。


「て、ことは嬢ちゃんは、もう自由ってことかね」


「へっ?」


「ああ、そうだな、そういうことだ」


エルフの王に続くようにクロノが放った爆弾に、何を言われたのかまったく理解できていないシズネの代わりに、賢竜が彼の発言を肯定した。


「そうですね、あなたはもう自身として果たすべき義務は果たしたでしょうし、あなたの思うように生きてかまわないと思いますよ。」


重ねて肯定をする、エルフの王。

三人の言葉にシズネは完全に茫然自失となっていた。


「あ、あの、私、自由に生きていいんですか、好きなように生きて良いんでしょうか」


彼女の疑問に答えたのは、驚くことに魔王だった。


「良いんじゃないのか、いざとなれば、俺を選んだ君を俺が守れば良いだけだ」


「ああ、そうだな、森に戻るラスタを除いて、国に買われなかったは、クロノ貴様だけだろう」


多少自嘲気味な魔王に、賢竜がからかうような言葉をかける、会議にいないはずの彼らから、決定事項のようにそんな言葉を聴いたシズネは不思議に思った。


「なぜ皆さんが、そのことを知っているのですか、皆さんが商品のように扱われていることに気づかれるのはしょうがないとしても、最強といっても可笑しくないクロノさんを、どこの国も買おうとしなかったのをなぜわかるのですか」


そんな疑問を投げかける彼女に、賢竜と魔王当たり前のように答える。


「こんな化け物を、好き好んで自国に入れようとする人間はいないだろう」


「買われなかったのは、君がここに来た時点で気づいている」


そういって、酒樽を空ける賢竜と、シズネの胸元を指差す魔王。

そこまでされて彼女は、自分がずっとクロノの名前が書かれたカードを胸に抱きしめていることを思い出した。


「え、いや、これは、チガイマスヨ」


何が違うのか、彼女自身まったくわかっていなかったが、顔を真っ赤にしながら否定の言葉を彼女は呟いていた。


「と、なれば短い間だが、君に召還術以外の魔法を教えておこうか」


「お、いいね、俺は初級の魔法は苦手だからな、頼むぞラスタ」


「そうだな、クロノと共にいくならば魔法くらい使えなくてはな、何、あそこまで大規模の召還術を使えるほどの魔法力を持っておるのだ、一週間程度あれば、並みの魔法使い程度の強さにはなれるだろう」


三者三様、どんどん話を進めていく英雄達にシズネはおろおろと翻弄されていくのだった、勝手に魔王と旅に出ることを確定事項とされていることに気づかずに。

それでも、今まで召還術のためだけに生きてきた少女の口元には、彼らと語り合った時間、世界最強クラスといえる三人を前にして終始微笑が浮かんでいた、これから自分の人生が大きく変わるだろうことを少なからず予感しながら、少女は生まれて初めて未来というものを夢見たのだった。 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想、修正点などをご指摘いただけると嬉しいです。

視点めちゃくちゃだから直せといわれても困りますが。

今のところアクアポリス英雄譚は、一週間に一度の更新ペースで行くつもりなのでこれからもお付き合いください。


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