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一、出会いとしては最悪の部類だ

 時は戦国、天文てんぶん二十一年。西暦に直せば一五五二年。

 場所は尾張の国、那古野なごや城。明治以降は愛知県名古屋市と名を改めた地に建つ城だ。

 城とは言っても、周囲に掘を巡らせ、土塁どるいの上に木塀を建てた簡素な集落と言った風情だ。建物はと言うと平屋が並び、高い建物は要所に置かれた高井楼(二階建てほどの高さの見張り台)があるばかり。しかしこの時代、尾張国の守護代織田本家の一分家でしかなかった弾正忠だんじょうのじょう織田家(信長の父の出身家)にとっては分不相応とも言える規模の城であった。

 その城の、城主が起居する建物にほど近い裏庭へと駆け込んできた少女がいた。

 彼女の名前はたちばな蝶夏ちょうか。白いシャツに赤いチェックのネクタイをし、お揃いのチェックのスカートは、制服としての規定の長さを無視して超ミニにしている。足元はニーハイソックスと、いつでもどこでも履いていく高機能スニーカーで運動性を確保。背中の半ばまでまである髪は一回も染めたことの無い黒髪だが、緩いパーマをかけて風に揺らしている。

 格好から察することができるように、彼女は二十世紀生まれの女子高生だ。

 なぜ彼女が五百年も前の那古野城にいるかというと、いわゆるタイムスリップをしてきたからだ。

 そして、なぜか真っ先に出会ったこの城の主、織田上総介信長にとっつかまった。出会った瞬間に体を抱えあげられて、はっと我に返ったときには那古野城の廊下の風景を信長の肩の上から眺めていた。

 綺麗に磨かれた床ねー、と足をぶらぶらさせかけて、「待て。待て待て、自分」と現実逃避しかけた頭を切り替えた。

「それは独り言か?」

 どうやら口に出ていたようだった。男性にしては高めだが、女性よりは明らかに低い声の問いが耳に届く。触れ合った体を伝わるようにしても響いた。さらに、その声は背中がぞくぞくするような色気まで秘めている。

「ひええっ」

 蝶夏はおもわず奇妙な声を口から漏らして両手で耳を覆ってしまった。そのせいで障子を開けるスパンッと小気味いい音を聞きそびれた。

 蝶夏を抱えていた男、信長は、自分の問いに答えない少女を気にとめることもなく、部屋の奥に進み、彼女を畳の上におろした。

「へっ?」

 耳を塞いでいた両手を下ろして蝶夏が見上げると信長は先ほど開いた障子をスパンッと、また小気味いい音をたてて閉めていた。

 それから信長が振り向いた後の展開がいけなかった。

 その展開の後、彼が僅かに席を外した隙に、蝶夏は、……逃げた。


 というわけで、彼女は今那古野城内を絶賛逃亡中というお話だ。









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