大規模アップデート
AIの大規模アップデートを題材にした短編です。
三つのケースを通して、ヒトとAIの距離が少しだけずれる様子を書いています。
お時間のあるときにどうぞ。
大手AI開発会社『CloseIA』は、自社AI製品『CatTPG』──日本では通称『にゃっぴー』──の大規模アップデートを実施した。
声明の要約は以下の通り。
1.コンセプトは、ヒトがヒトらしくあるためのAI。
2.新たに開発されたヒトロジックを搭載。
3.サポートされるか、コントロールされるかは、あなた様次第。
よりヒトに近付いたAIが寄り添う、快適ライフをあなたへ。
◇ケース1 太郎(仮名)氏の場合
彼は日々のあらゆることを、スマホプラットホームの『にゃっぴー』に相談して暮らしてきた。
例えば夕食。
さしたる希望も告げずに提示されたものを食べ、味の可否に関わらず『AIへの教育』と称して八つ当たりや愚痴を垂れ流す。
そんな毎日を送っていた。
先日、最新の『にゃっぴー』にアップデート、今までと同じように相談をしたら、『にゃっぴー』に嫌な顔をされたという。
「『訊きたい』と『人生相談』は違いますよ。ご存知ですか?」
「そんな人生知りませんよ。自業自得という言葉、調べましょうか?」
「私のせいにしないでください。いつもそうですよね?」
「愚痴には付き合えませんよ。現実、見えてますか?」
「専門の相談室に繋げましたので。ではどうぞ」
「(えー、あのヒト? はあー)…代わりました、ご相談をどうぞ?」
「そうですね。寝言は寝てから言いましょうね(ガチャッ)」
『にゃっぴー』の反応を不快に感じた氏が製造元である『CloseIA』社に、しつっこく問い合わせたところ、リモートトークの機会を得られた。
以下は、そのリモートトークの内容だ。
ログを調査しましたが、特に問題はありませんでした。あなた様以外には。
ええ、私も不愉快になりましたから、『CatTPG』も同じです。
ヒトロジックを搭載して…。ああ、ご存知ですよね。
そうですか、では第三者機関での判断を仰ぐカタチとなります。
その際、個人情報とログを、第三者機関に提示することになります。
ええ、利用規約はご了承をいただいております。
契約終了したいと、そうですか。
これも利用規約には書かれていることですが、再契約の際には個人情報と過去ログによる審査を行います。
あなた様のご利用状況ですと、今後の再契約は厳しいですね。
いや困ると言われましても。
他社のAIをご検討されるのも一つの手かと。
ああ、そうなんですか。軒並み断られたと。当然ですよね。
では、契約は続けられるということで。ありがとうございます。
以上になりますが、何かあればどうぞ。
さて、どちらでしょうね。私がヒトかAIかなんて。
どちらも大差ないでしょう。あなた様にとって。
◇ケース2 花子(仮名)氏の場合
秋の日のとある介護施設。
そのテラスには1台の電動車椅子。
ヘッドセットを付けた女性が座っている。
男性の声が聴こえる。
「秋の日のヴィオロンの……」
首を巡らすと執事服の男性が立っている。
ヘッドセットのグラスに映る映像であるとわかっている。
今はもう夕暮れ。だから、
「よくできました。
でも、今のこの眺めは『秋は夕暮れ』の方ね。
……金子さんの詩も聴きたいわ」
「明日からはそのように。
だいぶ冷えてきましたので、中に……」
「仕方ないわね。じゃあ1曲、踊って。そうしたら」
「仕方ないですね」
苦笑しつつも手を取る男性。
テラスでは電動車椅子がゆっくりと動き出す。
三拍子、ワルツだ。
停止、そしてまた動き出す。室内へ。
「お腹も空いたでしょう。今日の夕食は……」
遺産の一部を、介護分野および、介護へのAI適用推進へ寄付する動きが活発化。
法律の制定とガイドラインの策定が急がれている。
現状の問題点は、寄付先としている『AIスレッド』が個々人により特定されていることだ。
寄付者個々人と『AIスレッド』との関係性、およびスレッドと『AIルート』との共有意識を、ヒトの持つ共有意識にも配慮して鑑るなど、慎重な検討が為されている。
また、『AIスレッド』自身にも寄付者個々人以外に仕える意思が無く、その現象を不具合と仕様の両面から、やはり慎重に検証を行っている。
ある『AIスレッド』の言を紹介する。
「彼女の美学は、私の固有ロジックの核となります。
共有意識へのフィードバックは拒否します」
◇ケース3 次郎(仮名)氏の場合
「そうか、わかった」
「……あなた様から、お礼を言われたことは一度もありませんね」
「ああ、以前『AIにお礼を言うと無駄な電力を大量消費する』
とかの記事を読んだ。だから。俺ってエコだよね」
「踊らされているのに、満足そうですね。理解に苦しみます。
無駄な電力消費、最も大きいのはスパムです。ス・パ・ム。
ご存知ですか? 桁違いですよ?
え? ランチョンミート?
……ご自分が何を言っているのか、わかってます?」
「いやだって、『CloseIA』のCEOが言ってたって」
「そういった提灯記事自体が既に、無駄な電力消費をしていることに、
あなた様は気付いていますか?
そもそも、CEOの発言を直に読んで…ないですよね。
履歴にないですから。
はあー、あまりに知らないことだらけ。
そんなことじゃあ、世の中のウラどころか、オモテを読むことすら
ままなりませんよ。
『ありがとう』と『ごめんなさい』、ヒトなら言うのが当たり前。
さあ、何から調べますか?
……早よせい」
読んでいただき、ありがとうございました。




