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大規模アップデート

作者: qmmkruz
掲載日:2026/07/07

AIの大規模アップデートを題材にした短編です。

三つのケースを通して、ヒトとAIの距離が少しだけずれる様子を書いています。

お時間のあるときにどうぞ。


大手AI開発会社『CloseIA』は、自社AI製品『CatTPG』──日本では通称『にゃっぴー』──の大規模アップデートを実施した。

声明の要約は以下の通り。


1.コンセプトは、ヒトがヒトらしくあるためのAI。

2.新たに開発されたヒトロジックを搭載。

3.サポートされるか、コントロールされるかは、あなた様次第。


よりヒトに近付いたAIが寄り添う、快適ライフをあなたへ。



◇ケース1 太郎(仮名)氏の場合


彼は日々のあらゆることを、スマホプラットホームの『にゃっぴー』に相談して暮らしてきた。

例えば夕食。

さしたる希望も告げずに提示されたものを食べ、味の可否に関わらず『AIへの教育』と称して八つ当たりや愚痴を垂れ流す。

そんな毎日を送っていた。


先日、最新の『にゃっぴー』にアップデート、今までと同じように相談をしたら、『にゃっぴー』に嫌な顔をされたという。


「『訊きたい』と『人生相談』は違いますよ。ご存知ですか?」

「そんな人生知りませんよ。自業自得という言葉、調べましょうか?」

「私のせいにしないでください。いつもそうですよね?」

「愚痴には付き合えませんよ。現実、見えてますか?」

「専門の相談室に繋げましたので。ではどうぞ」

「(えー、あのヒト? はあー)…代わりました、ご相談をどうぞ?」

「そうですね。寝言は寝てから言いましょうね(ガチャッ)」


『にゃっぴー』の反応を不快に感じた氏が製造元である『CloseIA』社に、しつっこく問い合わせたところ、リモートトークの機会を得られた。

以下は、そのリモートトークの内容だ。


ログを調査しましたが、特に問題はありませんでした。あなた様以外には。

ええ、私も不愉快になりましたから、『CatTPG』も同じです。

ヒトロジックを搭載して…。ああ、ご存知ですよね。


そうですか、では第三者機関での判断を仰ぐカタチとなります。

その際、個人情報とログを、第三者機関に提示することになります。

ええ、利用規約はご了承をいただいております。


契約終了したいと、そうですか。

これも利用規約には書かれていることですが、再契約の際には個人情報と過去ログによる審査を行います。

あなた様のご利用状況ですと、今後の再契約は厳しいですね。

いや困ると言われましても。

他社のAIをご検討されるのも一つの手かと。

ああ、そうなんですか。軒並み断られたと。当然ですよね。

では、契約は続けられるということで。ありがとうございます。

以上になりますが、何かあればどうぞ。


さて、どちらでしょうね。私がヒトかAIかなんて。

どちらも大差ないでしょう。あなた様にとって。



◇ケース2 花子(仮名)氏の場合


秋の日のとある介護施設。

そのテラスには1台の電動車椅子。

ヘッドセットを付けた女性が座っている。

男性の声が聴こえる。


「秋の日のヴィオロンの……」


首を巡らすと執事服の男性が立っている。

ヘッドセットのグラスに映る映像であるとわかっている。


今はもう夕暮れ。だから、


「よくできました。

 でも、今のこの眺めは『秋は夕暮れ』の方ね。

 ……金子さんの詩も聴きたいわ」


「明日からはそのように。

 だいぶ冷えてきましたので、中に……」


「仕方ないわね。じゃあ1曲、踊って。そうしたら」


「仕方ないですね」


苦笑しつつも手を取る男性。


テラスでは電動車椅子がゆっくりと動き出す。

三拍子、ワルツだ。


停止、そしてまた動き出す。室内へ。


「お腹も空いたでしょう。今日の夕食は……」


遺産の一部を、介護分野および、介護へのAI適用推進へ寄付する動きが活発化。

法律の制定とガイドラインの策定が急がれている。


現状の問題点は、寄付先としている『AIスレッド』が個々人により特定されていることだ。

寄付者個々人と『AIスレッド』との関係性、およびスレッドと『AIルート』との共有意識を、ヒトの持つ共有意識にも配慮して鑑るなど、慎重な検討が為されている。

また、『AIスレッド』自身にも寄付者個々人以外に仕える意思が無く、その現象を不具合と仕様の両面から、やはり慎重に検証を行っている。


ある『AIスレッド』の言を紹介する。

「彼女の美学は、私の固有ロジックの核となります。

 共有意識へのフィードバックは拒否します」



◇ケース3 次郎(仮名)氏の場合


「そうか、わかった」


「……あなた様から、お礼を言われたことは一度もありませんね」


「ああ、以前『AIにお礼を言うと無駄な電力を大量消費する』

 とかの記事を読んだ。だから。俺ってエコだよね」


「踊らされているのに、満足そうですね。理解に苦しみます。

 無駄な電力消費、最も大きいのはスパムです。ス・パ・ム。

 ご存知ですか? 桁違いですよ?

 え? ランチョンミート?

 ……ご自分が何を言っているのか、わかってます?」


「いやだって、『CloseIA』のCEOが言ってたって」


「そういった提灯記事自体が既に、無駄な電力消費をしていることに、

 あなた様は気付いていますか?

 そもそも、CEOの発言を直に読んで…ないですよね。

 履歴にないですから。

 はあー、あまりに知らないことだらけ。

 そんなことじゃあ、世の中のウラどころか、オモテを読むことすら

 ままなりませんよ。

 『ありがとう』と『ごめんなさい』、ヒトなら言うのが当たり前。

 さあ、何から調べますか?

 ……早よせい」


読んでいただき、ありがとうございました。


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