君を殺した幾多数多の言葉
悼む人の居ない葬列
ピクシブには2011年3月に投稿
「汝を殺した幾多数多の言葉と共に、亡き骸は葬りさられ」
泣く者のいない葬儀だった。
黒い服を着た男達と、黒いベールで顔を隠した女たち。
神父はいない。牧師もいない。
男は八人。女も八人。
葬儀の人数として寂しすぎるわけではないが、多いわけではない。
泣く者がいないことも、故人の繋がりの薄さを示していた。
抜けた蒼穹には何もなかった。鳥もない。
ただの空ろな蒼。
「汝を殺した幾多数多の」
全員が口々にそれを呟く。
カエルの歌の輪唱を思わせ、見ているものがいればそれはとても滑稽に思えただろう。
誰の顔も、面倒ごとをさっさと終らせたいという様子だ。
誰も、棺の中身を悼んではいない。
そのことで、誰が不利益をこうむろう?
遠く、波の音がする。
女が行く。
黒い衣服を着ているが、心から悲しんで葬儀に参列するのではないらしい。顔はどこか明るかった。
足早に、快活に墓地の入り口を通り過ぎようとした。
管理人はふっと女の顔を見た。
「今、葬式をしているよ。あんた、棺桶の中にいた女の子にそっくりだ」
「でしょうね」
女はかすかに微笑む。
「どこでお葬式はしているのかしら?」
「ずっと向こうだよ。海に面した、西の区画だよ」
「ありがとう」
足早にそこを抜ける。
神父もいない。牧師もいない。
「幾多数多の言葉と共に、亡き骸は」
男の一人がひびく声で慰忌を述べる。
「葬儀を中止して」
女は言ったが、十六人には聞こえていない。
棺は穴に落とされた。
男達はスコップを手にし、無表情に土をかける。
女たちは遠巻きに見ていたが、申し訳程度に死を悼むための花を投げ込んでいく。
「やめてっ」
女は穴に飛び込んだ。
「言葉と共に、亡き骸は葬りさられ」
土をかけられながら、女は棺の蓋を引っぺがした。
中味は二つの小さな骨しかなかった。
女はそれを口にした。
小さいとはいっても、それは死体に比べたらだ。左上腕骨。そして、心臓を守っていた肋骨。
女は埋められていきながら、それを齧った。
完全に埋まってしまう、その前に。
女はそこから這い出した。
泥だらけにされたが、土は乾いていたので、軽く叩くと落ちた。
黒い衣服に土が白く見える。
彼らは空の棺の上に石をのせた。
男達が四人かかりでやっと動かせる石だ。あれがのってしまったら、女ではもう骨を取り戻せなかった。
入り口で、管理人がいう。
「あんた、どこかで見たことあるぜ?」
「そうでしょうね」
女は微笑んだ。
「私を殺した幾多数多の言葉と共に、亡き骸は葬りさられ、私の骨と心は数多の言葉とともに散り散りに。全部見つけて、一つになって、そうしても」
新たに戻った左腕をさすりながら女は言った。
「生き返ったりはしないのよ。だって私はもう死人だもの」




