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第4話:エレオノーラ、高みの見物をする

 タイトル通り、物理的にも精神的にも「高み」からの描写だ。


 愚か者たちが泥にまみれて進む中、ヒロインは優雅にワインを傾ける。この対比コントラストこそが、ざまぁ系小説の醍醐味と言えるだろう。


 わざわざ道を開けてやるあたり、彼女の性格の悪さ(褒め言葉だ)が出ていて気に入っている。


 数ヶ月後。


 魔王城の最上階のバルコニー。


 そこでエレオノーラは、最高級の赤ワインが入ったグラスを揺らしながら、空中に浮かべた遠見の魔法鏡を眺めていた。


「あらあら。ずいぶんと賑やかですこと」


 鏡に映っているのは、彼女の故郷――かつて「光の国」と謳われたセレスティア王国だ。


 だが今、その国は阿鼻叫喚の地獄へと変わり果てていた。


 国境の結界は消滅し、魔物の侵入が常態化。


 王都の大広場には、救いを求める民衆が溢れかえっていたが、その祈りが届くことはなかった。



「聖女様! また北区画にガーゴイルが現れました! 早く浄化の光を!」


「私の家が燃えているんだ! なんとかしてくれ!」


 悲痛な叫びを浴びせられ、王城のテラスに立った聖女ミナは、引きつった笑顔で杖を振った。


「え、えーっと……聖なる光よ、悪の化身を打ち払え、聖なる光(ホーリー・ライト)! ……あれぇ?」


 彼女の杖からは、線香花火のような頼りない光がポツリと漏れただけ。


 当然、空を飛び回るガーゴイルには傷一つつけられない。


 それどころか、ガーゴイルは嘲笑うかのように急降下し、民衆の目の前で屋台を粉砕した。


「ひぃっ! 怖いよぉアラン様ぁ!」


 ミナは悲鳴を上げ、隣にいたアランの背後に隠れてしまう。


 その無様な姿を見た瞬間、民衆の不満が爆発した。


「なんだそれは! それでも聖女か!」


「前の……エレオノーラ様がいらっしゃった時は、こんなことは一度もなかったぞ!」


「そうだ! あの方が結界を張り続けていてくださってたんだ!」


「おい、この女……実は魔力なんてほとんど空っぽなんじゃないか!?」


 誰かが投げた石つぶてが、ミナの足元に転がった。


 それを合図に、「偽聖女(ニセモノ)!」「税金泥棒!」「エレオノーラ様を返せ!」という怒号の嵐が巻き起こる。


「う、うるさい! 静まれ愚民ども! ミナは調子が悪いだけだ!」


 王太子アランは顔を真っ赤にして怒鳴り返すが、もはや騎士たちですら冷ややかな視線を向けていた。


 執務室に逃げ帰ったアランは、震える手で剣を握りしめた。


「くそっ、これもおのれも、全て魔王の仕業だ……!」


「そうよぉ! 魔王が、私たちの『便利なエレオノーラ』を誘拐したからいけないのよ!」


 民衆の暴動は時間の問題だった。


 ここにいては殺される。アランとミナは、自分たちの保身と、都合の良い妄想を正当化するために叫んだ。


「近衛騎士団を招集しろ! これより魔王城へ進軍し、魔王を討伐! そしてエレオノーラを奪還する! あいつさえ連れ戻せば、民衆も黙るはずだ!」


 それは、国家の存亡をかけた決戦というよりは、暴徒化した国民から逃げるための、あまりに身勝手な夜逃げだった。



 その様子を魔法鏡で眺めていたエレオノーラは、クスクスと笑いながら、隣に来た魔王ヴェルザードに果実を差し出した。


「ふふ、ご覧になりまして? あの必死な形相。滑稽ですわ」


「性格が悪いな、俺の妻は。……だが、わざわざ城までの道を開けてやるなんて、優しすぎるんじゃないか?」


「あら。泥遊びをするお客様のために、断罪の花道(レッド・カーペット)を用意して差し上げなければ。それに……」


 彼女の指先一つで、森の魔獣たちが道を開ける。


「そうしなければ、あの方々たち、途中で全滅してしまいますわよ」


 それは慈悲ではない。彼らを確実にこの城へ招き入れ、絶望の底へ叩き落とすための誘導だった。


 こうして、アランとミナ、そして王命により嫌々従う数百名の近衛騎士団による「魔王討伐隊」は、裏門からこっそりと王都を出発し、人類未踏の地――北の魔境の森へと足を踏み入れたのだが……。


「はぁ、はぁ……なんだ、この泥濘ぬかるみは……!」


「水が……水をくれ……」


 そこは地獄だった。


 本来ならばSランク魔獣が跋扈する死の森。だが奇妙なことに、彼らが進む道中だけ、魔獣が一切現れなかったのだ。


 その代わり、彼らを襲ったのは過酷な自然環境だった。底なしの沼、切り裂くような茨の道、そして極寒の夜風。


 補給計画もずさんな彼らは、またたく間に食料を尽きさせ、泥水をすすり、鎧は錆びつき、プライドも髪もボロボロになっていった。


「おかしい……なぜ魔物が出ない? これは魔王の罠か?」


 騎士団長が怯えるが、アランは虚勢を張る。


「ふん! 俺の王気(オーラ)に恐れをなして逃げ出したに決まっているだろう! 進め! 魔王城はもうすぐだ!」


 彼らは知らなかった。


 その道中の魔獣たちが、事前にエレオノーラの手によって「あえて彼らを通すため」に徹底的に排除されていたことを。


 彼らが這いずり回っているのは、魔王城へと続く断罪の花道(レッド・カーペット)であることを。


 そして、出発から一ヶ月後。


 泥人形のように薄汚れた彼らはついに、魔王城の巨大な正門へと辿り着いたのだ。


「ずいぶん遅かったですわね。」


 城のバルコニーからそれを見下ろしていたエレオノーラは、空になったグラスを置き、優雅に立ち上がった。


「さあ、参りましょうか。――愚かなお客様の、お出迎えに」


「断罪の花道」というフレーズ、ポチがマヨネーズせんべいを食べながら「レッドカーペットなのだ!」と言っていたのを聞いて採用した。あいつの語彙力にはたまに驚かされる。


 泥だらけで到着した彼らを待ち受けるのは、最高の絶望だ。次話、いよいよ最終回。


 それと、今回の話が面白かった、次も読みたいと思ったら、ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援してくれ!


さぁ、遠慮することなく、私の承認欲求を満たすが良い!

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