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第1話:エレオノーラ、追放される

【毎日18:10更新】


 物語の導入だ。


 「優秀な人材ほど、無能な上司の下では評価されない」。これは異世界だろうと前世だろうと変わらない、世のことわりだな。


 まずは、主人公がいかに理不尽な扱いを受けたか、その「マイナス」の状況を徹底的に描写する。バネは縮めれば縮めるほど、高く飛び上がるものだからな。


 それはそうと、本作は来週火曜日まで毎日更新する。毎晩18:10だ、覚えておけよ。

 王宮の大広間を彩っていた華やかなオーケストラの演奏が、唐突に鳴り止んだ。


 数百もの魔導シャンデリアが煌めくその場所はセレスティア王立学園、その卒業記念舞踏会の会場だ。


 ドレスや宝石で着飾った貴族の令息令嬢たちが、何事かと視線を一点に集中させる。


 その視線の先にいたのは、セレスティア王国の次期王となる男と、彼に腕を絡ませる小柄な少女。


 そして、彼らと対峙するようにたった一人で立つ、公爵令嬢エレオノーラ・ヴァレンティンの姿だった。


「エレオノーラ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄する!」


 王太子アランの裏返った声が、静まり返ったホールに響き渡る。


 対するエレオノーラは、豪奢な紺碧のドレスを身に纏い、扇で口元を隠していた。その瞳は、まるで路傍の石を見るかのように冷ややかだ。


 彼女は内心で深く溜息をついていた。


(……やれやれ。今月の国庫収支報告書の決裁がまだだというのに、なんと非生産的な時間を取らせるのかしら)


 アランの隣では、聖女と崇められる男爵令嬢ミナが、「怖いよぉ、アラン様ぁ」と猫なで声で震えている。


 その瞳が、勝ち誇ったようにエレオノーラを嘲笑っているのを、聡明な彼女が見逃すはずもなかった。


「理由を……伺ってもよろしいでしょうか、殿下」


 感情を一切乗せないエレオノーラの声は、周囲の空気を数度下げたかのように冷たく響いた。そのあまりの落ち着き払った態度に、アランは顔を紅潮させて叫んだ。


「白々しい! 貴様がミナに対して行った数々の陰湿な嫌がらせ、知らぬとは言わせないぞ!」


 彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、高らかに読み上げ始めた。


 教科書隠し、階段からの突き落とし、ドレスの切り裂き――。


 読み上げられる罪状に、周囲の貴族たちからは「なんと恐ろしい」「やはり氷の令嬢は心まで冷たいのだ」とひそひそ話が漏れる。


 だが、エレオノーラにとってそれは、あまりにもお粗末な喜劇でしかなかった。


 彼女は扇をパチリと閉じた。乾いた音が、アランの言葉を遮る。


「殿下。ミナ様の教科書がなくなったとされる日は、私は王宮で財務大臣と税制改革の詰めを行っておりました。階段から突き落とされたという時刻は、魔導師団の結界メンテナンスの指揮を執っておりましたわ。そして、ドレス云々に至っては……」


 エレオノーラの氷のごとき視線が、ミナが着ている安っぽいピンクのドレスを一瞥する。


「そのような趣味の悪い布切れに触れれば、私の指先が穢れますもの。切り裂く手間すら惜しいですわ」


「なっ……!?」


 淡々と事実を陳列されたアランとミナは、顔を真っ赤にして絶句した。


 論理的思考ができない人間に、理屈を説いても時間の無駄だったかもしれない。


「う、うるさい、うるさい! 口答えをするな! 証拠などどうでもいい、ミナが悲しんでいることが真実なのだ!」


 アランは駄々っ子のように喚き散らす。一国の王太子にあるまじき醜態だが、彼自身はそのことに気づいていない。


 彼はエレオノーラを指差し、決定的な言葉を告げた。


「エレオノーラ・ヴァレンティン! 貴様のような可愛げのない女は、我が国の王妃にふさわしくない! よって、貴様を国外追放処分とする!」


 会場がどよめいた。


 追放。それは貴族にとって死刑に等しい。


「行き先は、北の魔境の森だ! 魔獣の餌にでもなって、そのひねくれた性根を悔い改めるがいい!」


 魔境の森。魔王の領域と接するその場所への追放は、実質的な処刑宣告だった。


 周囲の貴族たちが、憐れみと、それ以上の侮蔑を含んだ視線を彼女に向ける。


「いくら優秀でも、愛されなければ終わりだな」

と。


 しかし、彼らは大きな勘違いをしていた。


 エレオノーラは、ゆっくりと顔を上げ、アランを見据えた。


 その美貌に、絶望の色など微塵も浮かんでいないことに気づき、アランがたじろぐ。


「……謹んで、お受けいたしますわ」


 エレオノーラは優雅にスカートの裾をつまみ、完璧な一礼(カーテシー)を披露した。


 その姿は、断罪されている罪人とはとても思えないほど、気高く、美しかった。


「な、なんだその態度は! 泣いて許しを請わないのか!?」


「泣く? どうして私が涙を流す必要がありますの?」


 彼女は微笑んだ。それは、氷の華が咲くような、冷艶な笑みだった。


「私はこれまで、無能な王家のために、睡眠時間を削って政務をこなし、結界を維持し、国を支えてきました。ですが、それも今日で終わり。……ええ、清々しい気分ですわ」


「き、貴様……負け惜しみを!」


 近衛騎士たちが両脇を固める。


 エレオノーラは抵抗せず、背筋を伸ばしたまま歩き出した。


 煌びやかな会場の出口へ。その先にある、闇の荒野へ。


 去り際、彼女は一度だけ足を止め、肩越しにアランたちを振り返った。


「王太子殿下、そして皆様。どうぞ健やかに」


 エレオノーラはアランだけでなく、自分を笑う貴族たち、そして勝ち誇るミナを見回す。


「私が支えていたものが崩れ落ちた時……せいぜい、泣きっ面を見せないよう頑張ることですわね。――ごきげんよう」


「なっ、最後まで可愛げのない……! さっさと連れて行け!」


 怒号を背に、彼女はホールを出た。


 夜風が熱った頬を撫でる。


 馬車に乱暴に押し込められながら、エレオノーラは夜空を見上げた。


 星は見えない。分厚い雲が垂れ込めている。


 けれど、彼女の心はかつてないほど晴れやかだった。


(さあ、自由の時間よ)


 王都の門をくぐり、馬車は北へと走る。


 かくして、エレオノーラが消えたことで、この国の内政はボロボロになってしまった。


 だが、さらに不幸なことに、時を同じくして、セレスティア王国、いや、聖光大陸・ルメリス最強のSランク冒険者「レオナ」も姿を消してしまったのだ。


 これらの出来事が、この国を滅亡させるきっかけとなり、さらに世界を揺るがす覇道の始まりになるとは、この時の彼らは知る由もなかった。


 書いていて思ったが、この王太子、経営判断のセンスが絶望的だ。


 「内政の要」と「最強の武力」を同時に手放すなど、私なら怖くて夜も眠れん。


 ちなみに、主人公のエレオノーラが隠していたSランクの力。これは、いまはやめたが私の「男装」と同じで、能ある鷹は爪を隠すという処世術だ。共感するな。


そして、面白かった、次も読みたいと思ったら、ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援してくれ!


さぁ、遠慮することなく、私の承認欲求を満たすが良い!

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