第九話 出来損ないの防具!?
父さんの仕事場である鍛冶屋にフレアと一緒に向かうと、すでに父さんは仕事をしていた。早速俺にあった防具を探そう。
その前に、武器・防具について簡単に説明せねばなるまい。何? そんなの知ってるって? いや、いや、そう言わずに旦那! 聞いてくださいよ!
この世界の武器・防具には、魔晶石と呼ばれるバッテリーのようなものが付与されているのが一般的だ。魔晶石は様々な属性の魔力を変換し魔法として保存し、武器や防具に力を付与してくれるものである。
例えば、剣に魔晶石を付与した状態で火の属性の魔力を込めると、剣に炎をまとえたり、火炎切りのような炎の斬撃を飛ばすといった技が使えるようになったりするのである。
武器だけではなく、防具にも魔晶石は付与することができ、例えば、具足に魔晶石を付与し、風の属性の魔力を込めると、素早く動けるようになったりと、様々なのである。
これは、鉄製品だけでなく、皮や木、布に至るまであらゆる素材に対して魔晶石の付与が可能である。単に武器・防具を鉱石から鍛えるような一般的な鍛冶仕事以外にも、様々な素材に魔晶石を付与するという作業も鍛冶屋の一つの仕事なのである。
父さんは一般的な鍛冶仕事から魔晶石の付与までを一貫してこなせる村の優秀な鍛冶師なのである。(というか小さな村なので全部をこなさざるを得ないという事情もあるのだが……)
「しかし、転がってる防具は、どれもこれもピンとこないな。」
いや、正確には、素晴らしい出来の防具もあるのだが、それは商品として納品する防具なのだ。転がってる防具は、どれもゴブリンキングやオーガキングの一撃に耐えられそうに無い代物だった。
「うーん、もっとこう、絶大な防御力を誇りつつ、それでいて軽くて動きやすい……そんな防具はないかねぇ……」
「ねぇねぇ、インテンスこれなんてどう?」
フレアが手に持って進めてきたのは、皮をなめした軽装だが、禍々しく呪わていそうな見た目の黒い軽革鎧であった。これを勧めてくるあたりギャルのセンスはどうなっているんだ? と思わなくもない。
「フ、フレア、それはさすがに見た目が……」
「あれ、この防具、なんか魔力がすごい吸われる感じがする。」
「だ、大丈夫か?」
フレアが走った後のように、はぁはぁと息を切らせている。ちょっと色っぽいぞ。本人に言ったらパンチされそうだが……
「そいつは、失敗作だぞ。魔晶石の調整をミスったから、魔力をとんでもなく食らうぞ。気をつけな。」
父さん、そんな危ない失敗作をその辺に転がしておかないで、捨ててくれ……
「インテンス これにしようよー」
なぜ、そいつをそんなに薦めてくるのだ!? フレアは俺には失敗作がお似合いだと思っているのか……魔力をとんでもなく吸われるのを見てみたい罰ゲーム的なあれか!?……と考えるものの、フレアの「早く着て! 着て!」オーラがすごく、一回くらい着用しないとフレアは収まらなそうだ。着てみるか……
そうして、禍々しい見た目の軽革鎧一式をまとってみる。確かに、魔力を吸われる感じがするが、「はぁはぁ」言うほどのものではないな。まぁ、俺の「はぁはぁ」には需要もないが……
着心地は吸い付くように馴染み、軽くて動きやすい。これなら逃げる時にも問題なさそうだ。
「インテンスに似合ってると思うよ! かっこいいよ!」
「なじむ! 実になじむぞ!」
「……」
フレアには元ネタが通用しないようだ。変な奴を見るようなジト目で見られてしまった。ごほん。
まぁ、いい。問題は防御力だ、試してみるか。
「こ、これの防御力を試してみるよ。」
「そうか、さっきも言ったがそれは失敗作だから無理をするんじゃないぞ」
「う、うん」
「インテンス 試すなら私がやってみるよ!」
「え!?」
ドゴォ! いきなりフレア渾身のギャルパンチが、俺のお腹に炸裂した! しかし……
「あ、あれ、痛くないぞ!?」
まったく痛くない! これならルナちゃんフィギュアを懐にいれてても、壊されない! あぁ、神様、父様、仏様ほんとにありがとう。俺はおもわずニヤリと笑う
フレアは信じられないといった表情で、自分の拳をさすっている。
「な、なによこれ!?全然手応えがない!本気で殴ったのに!」
お、おい!「試す」なんだから最初は手加減しようか……だが、これでこの軽革鎧の防御力は証明されたようなものだ。
「そいつは魔力をたくさん吸う代わりに、防御力を高めてくれているのかもな。それにしても、魔力をかなり吸うはずだが大丈夫なのか?」
「う、うん大丈夫だよ。父さん。」
「そうか、そいつはお前にあってるのかもな。」
俺はその圧倒的な防御力に満足して、にへにへとゆるんだ笑みを浮かべる。
「ど、どうだ、参ったか!フレア!」
その瞬間……
バキィッ!!
渾身の力を込めたフレアの右ストレートが、無防備な俺の顔面に直撃した。
「ぐえええええええええええええええええええ!!!」
鉄壁の軽革鎧は確かに腹部へのパンチは防いだが、顔面はノーガードだ。なぜなら、兜はまだかぶってないのだ……俺は盛大に吹っ飛び、地面に這いつくばる。
「うげぇぇぇぇ!!! な、なんで!?」
「なんとなく!! 笑い顔が気に入らなかった!」
「ひ、ひどい!?」
苦悶する俺を、フレアはニヤニヤしながら見下ろしてくる。
「あんたねぇ……いくら鎧が強くても、油断したら終わりなのよ! 気をつけなさいよ!」
「うぐぅ……」
俺は、鉄壁の鎧を手に入れ英雄への第一歩を踏み出した喜びと、最後の最後で痛恨の一撃を食らった痛みで、涙目になりながら呻いた。
「だ、だがこれで心置きなく、”英雄便乗作戦”が実行できるぜ……」
せめて、手加減くらいしてくれと思いながらも、「このパンチに耐えられるなら防御力には問題ないだろう」と満足感を浮かべながら、意識を手放すのであった。