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第二十話 自由よさらば!?

クリスタルピークでの英雄パーティと別れた翌日、俺とフレアは乗り合い馬車に揺られ、懐かしのひかりヶ丘村へと帰還した。


「それにしても、アンタ、ちょっとは見直したわよ。アーク様パーティの役に立つなんて!」


帰り道の馬車の中、珍しくフレアが俺を褒めてきた。


「フッ、ま、まあな。俺もやればできる男だったというわけだ。もう、ヘタレのインテンスとは呼ばせないぜ」


俺がドヤ顔で胸を張ると、即座に冷たい視線が突き刺さる。


「調子に乗らないの。ほとんどアーク様たちのおかげでしょ。アンタが役に立ったのは、その変な棒と頑丈な鎧だけなんだから……」


「ぐっ……的確なツッコミやめて……ダメージが痛い……」


相変わらず的確な攻撃だぜフレアさん。


村に着くとフレアと別れて自宅に颯爽と向かう俺。何せ引きこもりのインテンスが、ダンジョンから五体満足で帰ってきたのだ。これは親にも褒められる案件なはずだ。


「まあ! インテンス! あなた、推し活してたわけじゃなくて、本当に冒険に行ってたのね! 」


駆け寄ってきたオフクロは、そもそも冒険に行ってたとすら思ってなかったようだ……なんてことだ!


「……思ったより無事だな、俺の作った鎧……」


鍛冶場から出てきた親父は、相変わらずの無口で、しかも息子の俺の無事よりも鎧の無事を喜ぶなんて、なんて奴だ……


「あんたが無事でよかったよ!」


「……うむ。無事でよかったな」


「父さん、母さん、ただいま戻りました。」


感動の対面とはいかなかったが、二人とも俺が返ってきたことを喜んでくれているみたいだ。父さんも、その強張っていた口元が、ほんの少しだけ和らいだのを、俺は見逃さなかったぜ。


なんだかんだと言いながらも、父さんと母さんと久しぶりの親子の会話を楽しんだ後、自室に戻ってベッドにダイブする俺。冒険の疲れを癒す。ああ、やはり我が城、我が玉座ベッドは落ち着くな……。このまま永遠に寝ていたい……。


いや、ダメだ! 今の俺は、ただの引きこもりじゃない! セブンスタージュエルを求める英雄候補(仮)なのだ!


……と、心の中で高らかに宣言したところで、俺はまず冒険で失われた精神的エネルギー、すなわち「推しエネルギー」を補給せねばなるまいと結論付けた。そう、これも英雄になるための重要な準備の一環なのだ。


俺はむくりと起き上がり、体に染みついた手順で”マナネット”を起動する。


「ただいま! 俺のルナちゃん! そして、”プリズム☆エンジェルズ”のみんな!」


画面の向こうで輝く推しに、俺は歓喜の叫びを上げる。まずは”マナチューブ”で、俺がダンジョンに潜っている間にアップされた最新動画を片っ端からチェックだ。メンバーの近況報告、新曲のティザー映像、そして……あった! ルナちゃん誕生祭の詳細告知動画!


『みんなに会えるのを、楽しみにしています……☆』


「はい! 俺も楽しみにしてます! 絶対行きます!」


俺は画面に向かって力強く頷く。


「く、限定グッズも、全部買うしかねぇ……!」


そんな俺の部屋をこっそり覗いてため息をつく母さん。「我が息子ながらだめね。これはフレアちゃんにお願いしないとだわ。」という独り言など俺には聞こえるはずもなく、久しぶりの推し活ライフを楽しむ俺氏。


……それから数日後、久しぶりの恐怖のドアノックがやって来る。


ドンドンドンドンッ!!!


「インテンス! あんた、あれから何日経ったと思ってるの? いい加減外に出ていなさいよ!」


嵐のようなドアノックと怒鳴り声。俺が慌てて外に出てみると、そこには腕を組み、鬼の形相をしたギャルもといフレアが立っていた。


「やっと出てきたわね。てっきり部屋で魔石になってるのかと思ったわよ」


「し、失敬な! 俺は今、次の冒険への英気を養って……」


「うるさい!」


フレアは俺を押し退けて部屋に上がり込むと、散らかったスナックの袋と、マナネットがつきっぱなしの”マナネット”端末を見て、こめかみに青筋を浮かべた。


「英気を養うって、これのどこがよ! ただの自堕落な引きこもりに戻ってるだけじゃない! せっかくちょっとは見直したのに、がっかりさせないでよ!」


「うっ……」


正論すぎて何も言い返せない。


「もういいわ! アンタに任せてたら、ルナちゃんの誕生祭どころか、次の冬までこの部屋から出ない気でしょ! アタシが計画を立ててあげる!」


そう言うと、フレアは俺の”マナネット”端末をひったくり、情報を検索しだす。


「いい? ルミナリアに行くには、ここからじゃ直通の馬車はないわ。一度、交通の要衝であるエアリーポートまで行って、そこから空飛ぶ船に乗るのが一番早いのよ」


「は、はい……」


フレアのあまりの手際の良さに、俺は頷くことしかできない。


「それで、エアリーポート周辺で何かめぼしいクエストしてお金を貯めるしか……って、あんた、また変なサイト見てるでしょ!」


フレアが俺の端末の検索履歴を見つける。「セブンスタージュエル」「伝説の魔宝石」……


「なにこれ?……セブンスタージェル……なんでも願いが叶う七つの魔宝石……月光の魔宝石……ふ~ん? 」


「あ、いや、それは……」


「あんたが、『月光の魔石の探索』のクエストに真剣だったのはこういうことだったのね……なんでも願いがかなうね~……何をかなえようとしていたのやら……」


フレアはどうせ推し活とかよからぬ願いでしょ。と言わんばかりのジト目で見てくる。く、違うんだが、違わない。その通りだ。結局英雄になって推し活に邁進したいだけなのだ……

それにしても、フレアに”セブンスタージュエル”のことがバレてしまった。これからどうしようかと考えていると、


「……まあ、いいわ。どうせろくでもない願いなんでしょ。それに、『月光の魔石』と『月光の魔宝石』が同じとも限らないし、ほんとに心配なんだから。あんた、一人じゃどうせろくなことにならないでしょ! アタシが監視してあげる!」


「え!?」


胡散臭いセブンスタージュエルなんて馬鹿にされると思っていたら、ついてくると言い出すではないか。俺のこと心配してついてくるなんてこんなの惚れてしまうだろ!? 嬉しさと高揚感と胸のときめきが一気に噴き出す!


……ん……いや、待てよ?


俺の脳内で、警報がけたたましく鳴り響く。 フレアが、一緒に行く……?


(それってつまり……朝は叩き起こされ、夜は強制的に寝かされ、食事は野菜中心にさせられ、クエストは強制参加させられ、自由にマナネット鑑賞する暇もなく厳しく制限されるだけなんじゃ……!?)


俺の脳裏に、スパルタ教官と化したフレアが、竹刀を片手に「ほら! さっさとスライムを100匹狩ってきなさい!」「まだマナチューブ見てるの! そんな暇があったらダンジョン突入!」等と叫びながら拳を握りしめ向かってくる姿が、4K画質で鮮明に再生された。


(これじゃぁ、俺の自由気ままな『”セブンスタージュエル”探し』と『旅先でこっそり楽しもうと思ってた推し活』が、フレア教官の地獄のブートキャンプですべて奪われてしまうじゃないかー!)


さっきまで胸にあった温かい感情は、地球温暖化もびっくりの速度で冷却されていき、今や氷河期の絶望に変わっていた。


「なんで急にそんな絶望した顔してんのよ!? アタシがついてってあげるって言ってるんだからありがたいでしょ!? 」


「は、はい……」


俺は、もうなすすべもなく、抵抗する気力も失っていた。


こうして俺は、半ば強制的に、そして新たなる冒険への希望よりも、これから始まるであろう地獄の管理社会への絶望を噛み締めた。そして、次なる冒険に出たが最後、俺の部屋という楽園には戻れないだろうと絶望するのであった。


自由よ、さらば……!

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