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第二話 ギャルのパンチ

「インテンスー 今日こそ冒険者ギルドにいらっしゃいよ!」


元気で明るいフレアの声が、今日も家の前で響く。


「お、俺は今日もネットというダンジョン攻略に忙しいのだ、また今度な!」


とお決まりのセリフを返しておく。

あれ?違う違う、俺はもう一度冒険者として頑張っていくと決めたのだ。いつまでもこんなことをしていられない!

……という想いとは裏腹に、引きこもりで身についた”マナネット”での”プリズム☆エンジェルズ”鑑賞は簡単にはやめられない。止まらない……


”ルナ!ルナ!”

”月光のプリンセス!”

”ルナ!ルナ!”

”もっとー輝いてー!”


「はぁ、ルナちゃんかわいいなー」


いつもの推し活にいそしむ俺氏。だが、この前のロックグリフィンと戦う英雄アークの姿が脳裏に浮かぶ。


「ルナちゃん、アークに惚れてたな……くそ……」


そうだ、俺の推しを取り戻すためにも、もう一度冒険者として頑張らないといけないのだ!

そうやって、今日十数回目になる決意をして、ようやく俺は家を出たのだった。


☆☆☆


冒険者ギルドのドアを開けると多くの冒険者で賑い、酒と汗と鉄の混じった匂いが俺の鼻をつく。引きこもりでなまった体には辛い。


「く、早くも俺への試練か」


とつぶやき、装備している剣……ではなくルナちゃんのフィギュアを握りしめて、なんとか受付のところまでそろそろと進む。


「え、あの人きもい……」


という声が聞こえて来なくもないが、幻聴だと自分に言い聞かせ、推しへの情熱を燃やして冒険者ギルドの受付へ進んでいく。


「インテンス!? あんた来てくれたの!?」


フレアのどこか嬉しそうな声がギルドに響き渡る。


(やめろ! 目立つ! 声をかけるな!)


という心の声は届くわけもなく、フレアが「インテンス! インテンス!」と大声で叫び続けるから、ギルド内の冒険者たちの注目がこちらにやってくる。家族の白い目には慣れた俺だが、大勢の注目には慣れてないんだ、やめてくれ! 冒険に出る前からライフがゼロになりそうだ。


「ああ、その……」


しどろもどろになりながらも、俺はなんとかギルドの受付へと向かった。

フレアは嬉しそうにしながら、まだ何も言ってないのに「どのクエストがいいかな~」なんて楽しそうにしている。


おい、俺はクエストを受けるなんて一言も言ってないぞ!

……いや、まぁ受けるんだけど。

俺がもじもじしているうちに、フレアは”マナネット”に接続されているタブレットに映った情報を俺に見せてくる。


「ねぇねぇ、このクエストがいいんじゃない?」


そこには、『ひかりヶ丘村の近くにある森の中で、夜に咲く月光草の採取』という内容が書かれていた。ちなみにひかりヶ丘村とはこの村のことだ。


「これなら簡単だし、体力も根性も何にもないインテンスでも大丈夫だよ!」


「お、おい!? フレア、さりげなくディスるのやめようか!? ……まぁ、これなら、俺にもできそうか。いや、夜だし危険か……」


「じゃぁ、決まりだね。こうして、こうしてッと」


「お、おい! 人の話は聞こうか!?」


フレアは俺の話も意思も無視して、どんどんクエストを受ける手続きを進めていってしまう。最後に「はい」と渡されたタブレットに魔力を流し込むことで受付は完了してしまう。進めておいてなんだが、過去の苦い思い出がふっとよぎり、変な汗が止まらない。


「じゃぁ、気を付けて行ってらっしゃい!」


くそ可愛い笑顔で見送られて、「まぁいいか」と呟いて冒険者ギルドを後にする。


☆☆☆


夜になると飲んで騒いでいる村人がちらほらといる。そんな喧騒をしり目にランプや月光草の採取に必要な道具、簡易な武器と防具、そしてルナちゃんフィギュアを装備して村の出口を目指して歩く。

ここ、ひかりヶ丘村は人口1000人ほどの村だが、魔物(モンスター)の襲撃に備えて村の周りは石の壁でおおわれており、村の東西南北それぞれに門があるのだ。


ちなみに、魔物(モンスター)が出るといっても、国民的RPGで最初に遭遇するようなスライムとかゴブリンとかいわゆる弱い部類に属する魔物(モンスター)がほとんどだ。大人なら難なく倒せる魔物(モンスター)だが、それでも何度も命からがら逃げているんだから、俺のヘタレっぷりも見事なもんだろう。


ところで、何でRPGって最初は弱い魔物(モンスター)しか出てこないんだろうか? 最初からドラゴンとか強い魔物(モンスター)をが出てこないのはなんでだ? ん、そういえばこの前ロックグリフィンも突然出てきたな? ……等と考え事をしながら門に向かっていると、明るく元気な声が聞こえてくる。


「インテンス、気を付けてね!」


「き、来てくれたのか!? やっぱり俺のことが、、、」


「勘違いすんなー!」


「ばき」っという鈍い嫌な音とともに、軽く吹っ飛ぶ俺氏。何とか立ち上がり、


「ぐ、ぐはっ、せ、世界を狙える右だぜ」


と親指を立て(サムズアップし)ながら、笑顔を見せた後、膝から崩れ落ちる真似をする俺。鈍い音はしたけどそこまで痛くはなかった。


「もーふざけないの、そんなに強く殴ってないでしょ!」


「そ、そうなんだけど、なんかすごい音したからつい。なんの音だったんだ?……」


と言いながら、お腹のあたりを見ると、そこには五体バラバラになった装備していたルナちゃんフィギュアが……


「ノーーーーーーーーー!!!」


そうして俺は絶望の中、心の中でもリアルでも涙を流しながら、走って家に帰る俺氏であった……


再起戦は早々に敗北に終わったけど、こ、今度こそ、村をちゃんと出るんだもん!

(た、たぶんね……)




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