第十二話 俺覚醒!?
翌日、クリスタルピークを出発し大山脈のふもとのダンジョンを目指す俺たち! 何? アークのパーティについていけることになったからって偉そうにするなって? まぁ硬いこと言わないで。
アークは今日もイケメンオーラ全開で馬車に乗ってフレアと超楽しそうに話をしている。リア充爆発しろ!
ガイアは相変わらず岩のように口を閉ざし、セレナとフィリアも、なんだか俺の存在が気に食わないのか、不機嫌オーラを全身から放ちながら黙っている。
リリアだけが唯一、俺のことを心配そうに見つめてくれる。なんて優しい子なんだ。結婚するならこういう子だ。ルナちゃんがいなければ惚れていたところだろう。何? そもそも断られるって? さもありなん。
それにしても、アークの馬車、マジで乗り心地がいい。
しかも、魔物に襲われることもなく、信じられないくらい順調で快適な旅が続いている。
「もう少しでダンジョンです。皆さん、少し気を付けてくださいね。」
アークが穏やかな声で言う。その言葉に、俺はフラグさんが仕事をするのではないかと、ドキドキしてしまう。イケメン英雄さん、そんなフラグを立てること言わなくても……
「アーク、この先に魔物の群れがいる!」
まるで背後から囁くような声で、フィリアがアークに伝えた。さすが英雄パーティの斥候役、あんなに不機嫌そうな顔をしていても、ちゃんと仕事はこなすんだな。それにしても、フラグさん今日くらいはお仕事休んでていいんですよ……
「分かりました。皆さん、警戒を。」
アークは冷静にそう言うと、隣のフレアにイケメンスマイルを向けた。
「大丈夫です。僕がいますから安心してください。」
「アーク様♡」
アークの甘い言葉に、フレアは完全にうっとりモード。頬を赤らめて、アークを見つめている。それにしても、フレアはギルドの受付嬢なのに、こんな危険な場所に一緒についてきて大丈夫なのかと心配になる。いや、偉そうに言える立場じゃないんだけど。
そんなことを考えていると、ガイア、リリア、セレナ、フィリアは、サッと馬車から飛び出して魔物に備える。みんな、キリッとした表情で、魔物の気配に警戒している。
俺も、慌てて軽革鎧に魔力を込めて、防御力を増し増しにする。魔物と聞いて、マジでちびりそうだけど、せめてもの抵抗だ。もちろん、足がすくんで馬車からは一歩も出られないが……。
すると、前方の木々の間から、目がランランと光る白い狼たちが、鋭い牙をむき出しながら姿を現した!
「……ホワイトウルフの群れか。」
寡黙な筋肉の塊のようなガイアが低い声でつぶやくと同時に、巨大な盾を構えながら、まるで壁のように魔物の群れとの間に立ちはだかった。その迫力に、ホワイトウルフたちも一瞬動きを止める。
次の瞬間、先頭のホワイトウルフに突っ込んでいった!盾で狼の牙を防ぎ、渾身の力を込めた斧を振り下ろす!
ドゴォッ!
鈍い音と共に、一匹のホワイトウルフを吹き飛ばす。戦う時も寡黙なのねこの人は。一度しゃべってるところを見てみたい……無口筋肉だな……
アークは、まるで白い閃光のように剣を振るう!鋭い剣先は、正確にホワイトウルフの喉元を捉え、次々と魔物を斬り倒していく。その剣技は、本当に舞っているようだ。……くそ、イケメンだな……
「バーニングランス!」
セレナが冷静な声で詠唱し魔力を込めると、彼女が持っている美しい杖から、猛々しい炎の槍が何本も飛び出し、ホワイトウルフたちを次々と燃やしていく! アークやガイアよりも、どんな魔物よりも凶悪な攻撃な気がする。怖くて言えないけど……
フィリアは、まるで風のように素早く動きながら、正確無比な弓矢で遠くのホワイトウルフを射抜いていく。矢は、まるで吸い込まれるように魔物の急所に命中し、一撃で仕留めていく。こちらの正確さも凶悪な部類だ。その矛先が俺に向いてロックオンされないことを祈ろう……
リリアは、杖を優しく握りしめ、柔らかな光を放つ魔法でガイアやアークをサポートしている。彼女のサポート魔法のおかげで、前線で戦う二人は安心して攻撃に専念できている。一家に一人お嫁さんにほしいタイプだ……
アークのパーティは俺に勝手に評価されているとはつゆ知らず、あっという間に、ホワイトウルフの群れを倒していく。地面にはキラキラと輝く魔石だけが残っていく。
何?俺は何をしてたのかって?もちろん万全の防御態勢で馬車の前でオロオロとしているだけだ。フレアの「もっと頑張りなさいよ」という視線が痛い気がする……
アークは剣を鞘に納め、ガイアも盾をゆっくりと下ろす。安心して、フレアも馬車から降りてきた。
「アーク様、かっこいい!!」
フレアは目をキラキラさせながら、アークに駆け寄る。アークはいつものように、照れくさそうに微笑んでいる。
「皆さんのおかげですよ。」
その時だった。
「アーク! まだ一匹残ってる!」
フィリアが鋭い声で叫んだ。彼女の視線の先には、魔石になりかけているが倒れたままのホワイトウルフの陰に隠れた、最後の一匹が牙をむき出しにしてフレアに飛びかかろうとしていた!
「フレアさん!」
アークが叫んだとき、俺にはロックグリフィンがフレアに襲い掛かった時の様子が思い出される。
あの時、推しのルナちゃんをアークに取られた悔しさ(もちろん俺が勝手にそう思っているだけだが)が瞬間的に思い出される。
反射的に軽革鎧に魔力を注ぎ込むと、俺はフレアの前にかばう様に立ちふさがる!
(させるか! また目の前で、英雄アークがフレアを助けるお決まりのシーンを、指をくわえて見てるだけなんて! 今度だけは、俺が……!)
「ゴッ!」
飛びかかってきたホワイトウルフの鋭い爪が、フレアに届く寸前に何とか間に合ったようだ。鈍い音が響いたが、フレアにはかすり傷一つついていなく、俺自身も、衝撃は感じたものの、まるでちょっと触られた程度の感覚で全くの無傷だった!
さすがに大量の魔力を吸う防具なだけあるな。
その隙をついて、アークが素早く剣を振り抜き、残ったホワイトウルフを仕留めた。
「……インテンス……あんた……」フレア呆然としたまま、インテンスに呟く。 インテンスはドキッとするが、フレアはそれ以上言葉を続けられず、ただ信じられないといった顔でインテンスを見つめている。
アークは、倒れた狼と俺、そして無事なフレアを交互に見つめ驚いている。ガイア、リリア、セレナ、フィリアも、信じられないといった表情でこちらを見ている。
特に、さっきまで俺のことを役立たず扱いしていたセレナとフィリアの目は、見直したように驚いた目になっている。
「……今のは……一体……?」
アークが、信じられないといった声で俺に問いかけた。フレアも、目をパチクリさせて俺を見ている。
「え? あ、いや……そ、その……なんか、咄嗟に……」
俺自身も、半分何が起こったのかよく分かっていなかった。ただ、ルナちゃんやフレアを取られた時のふがいなさ、英雄になりたいという気持ちが無意識のうちに体を動かしただけだった。
「あなた…一体何をしたの? 今の防御力は、只者じゃないわね……」
セレナが、いつものクールな表情を少し崩して、信じられないといった様子で俺に問いかけてきた。彼女の目が、俺の着ている軽革鎧をジッと見つめている。
「……私も驚いた。まさか、その程度の軽革鎧で、ホワイトウルフの攻撃を防ぐとは……」
フィリアも、珍しく感心したような表情で呟いた。いつもは俺のこと、虫けらを見るような目で見てくるのに。今日は少し様子が違う。
寡黙なガイアも、普段はほとんど表情を変えないのに、今は微かに目を見開いて俺を見ている。もしかして、無口筋肉も俺のこと、ちょっとは認めたか?
リリアは、キラキラとした瞳で俺を見つめて、優しい笑顔をくれた。「インテンスさん、すごいですね!」だって。ああ、やっぱり結婚するならリリアかも。……いや落ち着け俺……俺にはルナちゃんがいる(はず)
アークは、依然として驚いた表情を浮かべながらも、すぐにいつもの穏やかな笑顔に戻った。
「インテンスさん、ありがとうございます。おかげでフレアさんが無事でした。」
「い、いえ、と、当然のことをしたまでです。」
どぎまぎしながら「当然」と行ってみる。イケメンは男にもイケメンなのだな等と思いながらも、内心は「たまたま無事だったからよかった」と冷や汗ものだ。
無事だったからよかったものの、フレアを守るための行動を取ったことに、自分でびっくりだ。
アークは、俺の軽革鎧を興味深そうに眺めながら言った。
「その鎧は、何か特別な効果があるのですか?」
「え?こ、これはですね……と、父さんは失敗作だって言ってたんですけど……ま、魔力をすごく吸う代わりに、防御力が高いみたいで……」
しどろもどろになりながら、俺が正直に答えると、セレナが眉をひそめた。
「魔力を大量に吸って、あのような防御力を発揮するとは……ただの失敗作とは思えないわ。」
フィリアも頷いた。
「ええ。もしかしたら、何か秘密があるのかもしれません。」
(やめて、俺をロックオンしないで)等と思っていると、アークは、深く頷くと、真剣な眼差しで俺に向き直った。
「インテンスさん、あなた何者なんですか?」
その言葉に、俺は心臓がドキリとした。「な、なんだって!?」まさか、俺が転生者だってバレたのか!?いやいや、落ち着け俺氏。ただの鎧のことを聞いているだけだ。
「た、ただの…しがない引きこもりです!」
と、精一杯情けない声で答えておいた。
アークは、少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も聞いてこなかった。
こうして、俺は偶然にもフレアを庇い、アークのパーティからの評価をほんの少しだけ上げたのだった。
まさか、俺のヘタレ人生にも、こんなことが起こるなんて……これも全て、推しへの情熱で英雄への道が開かれたのか!?
いや、たぶん違うか。




