第十一話 英雄のパーティに入れてもらえるってマジですか!?
二日間の馬車の旅は、俺にとっては文字通りの「拷問」だった。狭いし揺れるし、隣のフレアは「アーク様ってかっこいい!」って、やたらとうるさい……
ようやくクリスタルピークに到着した時、もはや俺はヘロヘロだった。
だが馬車から降り、町の賑やかさを見ていると少しだけ気が紛れる。
クリスタルピークは大山脈のふもとの高地にあり、ひかりヶ丘村よりも栄えている町だ。鉱石や魔石の採掘が盛んであり、鉱石や魔石を積んだトロッコがガタゴト走っている。また、魔石を魔晶石という素材に変えたり、武器や防具、生活道具などを作り出し、魔晶石を付与する鍛冶仕事などの産業が栄えている。
「うわー! すごい人だね! ねぇインテンス、せっかくだからアタシ冒険者ギルドにちょっと挨拶してくるね!」
クリスタルピークの冒険者ギルドは、ひかりヶ丘村とは比べ物にならないほどデカくて、熱気がムンムンだ。いろんな装備の冒険者たちがギルドに入っていき、中では冒険者同士が大声で笑ったりしてる。
(ここに俺みたいなヒョロヒョロが入っていくと、浮くんだろうな……)
心の中でつぶやく。
早速、フレアと冒険者ギルドの中へ入っていくと、遠くに見慣れた、あの眩い銀色の鎧が見えた。
「え、あれ……!」
「フレア……あれ……!」
フレアと同時に思わず声を出す。
「アーク様じゃん! まじでー!?」
フレアは目を丸くして、信じられないといった表情でその人物を見つめた。俺も、早くも再会するとは思ってもいなかった。
身につけた銀色の鎧と華やかさ、イケメンぶりをキラキラさせた英雄アークは、ギルドのカウンターで受付嬢と何やら話している。彼の周りには、クリスタルピークまで一緒に来ているアークのパーティメンバーである、タンクでドワーフのガイア、ヒーラーで可愛らしい幼い女の子のような見た目のリリア、魔法使いのクールで美女なセレナ、斥候で女エルフでこれまたタイプ違う美女のフィリアも一緒にいる。まるで絵画のようなメンバーだ。
「アーク様! 早速お会いできるなんて、この二日耐えてよかったわ!」
(主に耐えていたのは、俺のはずなんだが……)
フレアは、さっきまでのハイテンションをさらに爆発させ、猛ダッシュでアークのもとへ! インテンスも、慌ててその後を追いかける!
「フレアさん!? こんなところでお会いできるなんて!」
アークは、いつもの優しい笑顔でフレアに気づいた。
「はい! 今日は休暇中なんだけど、クリスタルピークのギルドに挨拶に来たの! アーク様は大山脈のふもとのダンジョン攻略のためにここに寄ったの?」
フレアが挨拶もそこそこに、本題に入ろうとする。
「ええ、その通りですよ! ダンジョン攻略の準備のためにギルドに立ち寄ったんです。」
アークが答えると、フレアは目を輝かせた。
「そうなのね。あの……お願いがあるんだけど……!」
フレアは少し照れて上目づかいでアークを見ながら、隣にいる俺を指さした。
「このインテンスっていうウスノロ……じゃなくて、友達なんだけど、もしよかったら、アーク様と一緒に行かせてもらえない!?」
フレアの突然の提案に、アークは少し驚いた表情を見せた。他のパーティメンバーも、「え、マジ?」みたいな顔で俺を見ている。特にセレナの視線は、人を殺さんばかりの氷のように冷たい視線だ。
「フレアさん、それは……」
アークが言いかけると、案の定、セレナがクールに一刀両断!
「アーク、ありえないでしょ! こんなギルドでたまたま会っただけの見るからに貧弱な男を、何の目的があって連れて行くのよ? 邪魔になるだけでしょ!」
エルフのフィリアも、俺を値踏みするようにジロリと見て、小さくため息をついた。
「ああ。戦力になるどころか、私たちの足を引っ張るのが関の山だな。」
リリアは少し心配そうな顔で俺を見てくれているが、ガイアは無言ではあるものの俺に「お前、空気読めよ!」と訴えかけているようである。いや、俺だってフレアにびっくりしてるんだよ。
でも、フレアは全く動じないで、アークに熱烈アピールする!
「でもね、アーク様!インテンスが、どうしても『月光の魔石の捜索』っていうクエストをこなしたいみたいなの。それがないと、推しに貢げなくて死んじゃうらしいの!」
フレア、また適当なこと言ってる……アークは苦笑いしながら、俺を改めて見た。
「あなたは、その月光の魔石が必要なのですか?」
突然のイケメンボイスに、俺はドギマギする。
「は、はい!そ、その……まぁ、色々あって……その……」
集めるとなんでも願いが叶う”セブンスタージュエル”とかうさんくさすぎて、説明できん!
アークは少し考え、優しい笑顔で言った!
「分かりました。フレアさんがそこまで言うなら、一緒に行くのは構いません。でも、ダンジョンの中では絶対無理しないでくださいね。何かあっても、戦ったりしないでくださいね。」
「え!? ほ、ほんとー! やったー! アーク様、マジ神過ぎる! ありがとう~!」
フレアはアークに抱きついて大喜びしている。抱きつかれたアークも照れて顔が赤くなっているが、フレアのお願いに応えられて嬉しそうな顔をしている。
俺も「え、こんな簡単にOKなの!?」とビックリ! リリアは喜んだようにはにかんだ笑顔を浮かべてくれているが、ガイア、セレナ、フィリアは納得いかない顔をしている。
「アーク! 本当に良いの? きっと後で後悔することになるよ!」
「ええ、セレナ。でも、フレアさんの気持ちも大事にしたいんです。それに、何かあれば、僕が責任を持って対処しますから。」
アークの言葉に、セレナは盛大なため息! フィリアとガイアは俺のことを空気読めと言わんばかりに冷たい目で見ている。家族から常に白い目で見られている俺は、そんな視線をなんとか無視する。
こうして、俺はこっそりついていく「英雄便乗作戦」だったのが、フレアのおかげでアークのパーティに、強引に加わることになってしまったのだ。
これも俺の英雄への第一歩か!? 英雄のパーティの動きをこの目で見させてもらうぜ!
……なんて、偉そうですみません……つれて行ってもらえるだけでありがたいです……




