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第十話 これって”ヒモ”なんですかね!?

禍々しい軽革鎧を手に入れた翌朝、ベッドから這い出した。フレアのパンチのダメージは残っているものの、「最高の防具を手に入れた!」という喜びが勝る。そして、”英雄便乗作戦”はここまで順調だ!


「たしか、アークのパーティがダンジョンに向かうのは、あと2日後だな。よし、俺も出発の準備を始めるか!」


大山脈のふもとまでは、近くのクリスタルピークの町まで乗り合い馬車が出ている。アークたちは自分たちの馬車で移動するだろうが、俺にはそんなセレブな移動手段はない。乗り合い馬車で向かうしかない。馬車代……どうしようか……


両親への土下座は通用しないし……そんな悩みを抱えていると、例によって家の外から聞き慣れた声が響いてきた。


「インテンスー! 起きてるー!?」


フレアの声を聞くと、なんだか嬉しくなってくるぞ。なんだこの感じ。やっぱり俺、フレアに惚れてるのかな?それともドМなのか……いや、やめておこう。これ以上痛い目を見たくない……


「お、おはよう。き、今日は準備があるから冒険者ギルドには行けないぞ。」


俺はドア越しに声を張り上げた。昨日のギャルフレアパンチの件もあるし、顔を合わせたらなんだか惚れてしまいそうだし、これ以上は危険だ。だが、フレアはそんな俺の思惑を知ってか知らずか、ドアをノックする手を止めない。


「あんた、大山脈のふもとのダンジョンに一人で行くつもりじゃないでしょうね?」


「え、そのつもりだけど……」


「やっぱり……そんなの無理よ……どうしても行くっていうなら、心配だから、私も行く!」


「は、はぁ!? な、何言ってんだ、なんでついてくるんだよ!」


俺は慌ててドアを開けた。ドアの前にいたフレアは、心配そうな顔で腕を組んでいる。


「だって、アンタのこと心配だもん。スライムにすら苦戦するアンタが、ゴブリンキングとかいるダンジョンに行くなんて……正気の沙汰じゃないわよ!」


「い、いや、俺は……別に一人で行くわけじゃ……」


しまった、”英雄便乗作戦”がバレる!俺は口ごもった。しかし、フレアは俺の動揺を一切見逃さない。


「一人じゃないってどういうことよ? 誰と行くのよ!?」


フレアの目が、鋭く俺を睨みつける。「他の女がいるんじゃないか?」そう言わんばかりの鋭い目つきで見てくる。いや、彼女じゃないし、そんなこと言ったらまた殴られそうだ……それにしても。可愛いからほんと得だよな。


「い、いや、それは、その……」


しどろもどろになる俺に、フレアは容赦なく畳みかける。


「だから、誰と行くのよ!?」


「う、うぐっ……!」


俺は観念した。これ以上隠し事をしていると、フレアの拳が飛んできそうだ。


「じ、実は、アークにこっそりついていこうとしてたんだ。あいつらが魔物を蹴散らす間に、俺は月光の魔石をこっそりゲットしようと持ってたんだ!こ、これぞまさに完璧な作戦でもあり、引きこもりの究極奥義でもある”英雄便乗作戦”なんだよ!」


俺は必死に力説した。しかし、フレアは冷たい視線を俺に浴びせるだけだ。


「完璧な作戦なわけあるか! アンタ、本当にバカじゃないの!? そんなのただのヒモじゃない!」


「ぐっ……ヒモ……!」


うまいこと言う……それに、否定できない。


「アーク様が連れて行ってくれるとは思わないし、適当な作戦じゃない! 不安だから、アタシもついていくからね!!」


「え、ええええええええ!? マ、マジで!? 仕事はいいのかよ!?」


まさかフレアが本当についてくるとは思わなかった。俺の”英雄便乗作戦”は、防具選びの時と同じで、再びフレア監視つき作戦になってしまうのか……


「アタシは受付嬢なんだから、申請すれば休暇くらい取れるわよ! それに、アーク様と一緒に行動できるチャンスなんて、そうそうないし!」


フレアは目を輝かせている。結局、俺の心配よりアークへの推しが優先かよ! なんて思わなくもないが、結果的に一人で行かずに済むのはありがたい……いや、ありがたくない……微妙だ……こうして、俺はフレアと一緒にダンジョンに向かうことになった。


☆☆☆


翌日、村の広場では、英雄アークのパーティが自分たちの馬車に乗り込み、出発の準備を進めていた。周りにいた村人たちが歓声と拍手を送り、アークは颯爽と手を振り返している。


「いってらっしゃーい! アーク様ー!!」


フレアも負けじと手を振り、黄色い声援を送っている。俺はそんなフレアの隣で、ため息をつきながら、ひっそりと乗り合い馬車の列に並んでいた。


「くそっ、やっぱりアークを推してるんだよな……俺もいつか、英雄になってあんな風にフレアに黄色い声でキャーキャー言われたいぜ……そして、お金に糸目をつけない推し活をしてやるんだ……」


心の中でブツブツと呟いていると、アーク達の馬車は出発したところだった。


「再び会おうぜアーク……! そして、待ってろよ”月光の魔石”!」


俺は心の中で勝手に再会を誓い、来たるべき”英雄便乗作戦”の成功を誓った。


「さてと、インテンス、アタシたちも行くわよ! まずはこの乗り合い馬車で、大山脈ふもとの町、クリスタルピークまで行くわよ! きっと、アーク様達も、まずはそこを目指してるはず。」


フレアはそう言うと、馬車の近くにいた御者に声をかける。


「すみません、クリスタルピークまで二人お願いできますか?」


いかつい体格の御者は、顔の傷跡を歪ませながらぶっきらぼうに答える。


「ああ、乗れ乗れ。一人あたり小銀貨2枚だ。」


「はーい!」


フレアはそう言うと、腰の革袋から小銀貨を取り出して御者に渡す。その時、俺は慌てて自分の懐を探った。そういえば、月光草を自爆営業で買ったため、すっからかんだ。情けない……。

俺は力なくフレアに言った。


「あ、あの……フレアさん……俺、お金が無い……」


言い終わる前に、フレアは盛大にため息をついた。


「はぁ……やっぱりアンタ、お金ないのね!? どうやって英雄に便乗するつもりだったのよ! ほんとにいい加減なんだから。もう、アタシが出してあげるわ!」


そう言うと、フレアは手慣れた様子で小銀貨2枚を御者に差し出した。


「はい、これ!」


御者は無愛想に銀貨を受け取ると、馬車に乗り込んだ。


「感謝してよ、インテンス! アンタこれじゃホントにヒモじゃない……」


「あ、ありがとう、フレア……本当に助かるよ……」


「別にいいわよ! 後で返してもらうんだから。それに、アーク様の近くに行けるなら、安いもんだし!」


俺への優しさかと思えば、結局はアーク様かよ……!なんて思ったが、タダで乗れるなら文句は言えない。(ちゃんと返してねと念を押されてしまったが……)


フレアと共に乗り合い馬車に乗り込み、クリスタルピークを目指すことにした。クリスタルピークまでは約二日かかるという。馬車の揺れに身を任せながら、俺は”英雄便乗作戦”のシミュレーションを頭の中で繰り返した。

この回から貨幣が登場しますが、日本円に直すと以下の通りです。

大体の感覚で読んでもらえれば幸いです。


・小銅貨 10円

・中銅貨 100円

・大銅貨 1,000円

・小銀貨 10,000円

・中銀貨 100,000円

・大銀貨 1,000,000円

・小金貨 10,000,000円

・中金貨 100,000,000円

・大金貨 1,000,000,000円

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